. 東京-北京フォーラム 公式サイト - 2014年開催 第10回(前半)

 メディア対話は、「日中の相互尊重と健全な輿論」をテーマに、日中両国から計17名の方々をお招きし、日本側・小倉和夫氏(独立行政法人国際交流基金顧問、元駐韓国・フランス大使)、中国側・王丹丹氏(中国国際放送局日本語部主任)の司会で開催されました。日本側のパネリストは、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、若宮啓文氏(日本国際交流センター(JCIE)シニアフェロー、元朝日新聞社主筆)、伊藤俊行氏(読売新聞東京本社編集委員)、加藤青延氏(日本放送協会解説委員)、杉田弘毅氏(共同通信社編集委員室長)、山田孝男(毎日新聞社政治部特別編集委員)、坂尻信義氏(朝日新聞社国際報道部機動特派員、前中国総局長)、そして工藤泰志(言論NPO代表)の9名。中国側は、周明偉氏(中国外文出版発行事業局局長)、王衆一氏(『人民中国』誌総編集長)、呂鴻氏(人民日報社高級編集者,国際部部務委員、編集長)、孫萍氏(中国人民大学国劇研究センター執行主任)、金臝氏(中国社会科学院日本研究所社会室副主任)、高岸明氏(中国日報社副総編集長)の6名が参加しました。

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 初めに、言論NPO代表の工藤が、本フォーラムに先立って行われた「第10回日中共同世論調査」の結果について基調講演を行いました。工藤はまず、相手国に悪い印象を持っている人の割合について過去10年間の推移を示して、中国人の対日感情は政府間関係を反映して非常に大きく上下に変動しているが、日本では政府間関係の良し悪しと必ずしも連動しておらず、一本調子で悪化していると紹介。また、「相手国との直接交流の機会を持つ有識者とは異なり、両国とも一般世論は相手国へのイメージを自国のメディアから得ている」とメディアの影響を強調する一方、GDPで日本を抜いた2010年ごろから中国の大国的行動が目立ち、それまで中国にあまり悪感情を抱いていなかった日本の有識者層の中国観が悪化し、両国の一般世論悪化のクッション役を果たさなくなっていると指摘しました。とはいえ、両国民とも日中関係がこのままでよいと思っている人は少なく、両国国民の大半が改善を望んでいるものの、領土問題と歴史問題に縛られる政治関係の悪化に伴い「なぜ日中関係が重要か」について具体的なイメージを持ちにくくなっているのではないかとし、「私たちは未来のためにも、この状況を改善する側に立つべきだ」と訴えました。

140928_kin.jpg 続いて、中国側を代表して金臝氏が、中国国民を対象に行った世論調査の結果について報告。中国では日本に対する印象が悪いとする人が9割以上である一方、中日関係を重要とする人も7割いるとしましたが、去年に比べて中国側有識者(大学教員と大学生)の中日関係の重要性に対する認識が低下したと説明。印象が悪化した原因は、領土問題、歴史問題、教科書問題、靖国参拝、安全保障問題などいろいろあるが、とくに日本が安倍政権になってからほかの国を語らい中国包囲網を作ろうとしていることへの反発があるからではないかと述べ、このような印象を作っているのはメディアにも責任があるとして、メディアは報道の内容を考えるべきだと問題提起しました。

 

 

 これらの報告を受けてパネルディスカッションは始まりました。日本側司会の小倉氏から、「最近、日中関係というと悪い面ばかりが強調されているが、よい点はないのか」という問いかけに対して、日本側の高原氏は、世論調査で日本に悪い印象を抱く中国人の割合が6ポイント低下したというプラス面を取り上げ、さらに訪日中国人観光客が昨年後半から一気に回復し、今年は9月までにすでに去年1年分の140万人を突破していると紹介しつつ、「数字以上に実態はもっと改善しているのではないか」と述べました。

 

 

40928_wakamiya.jpg 一方、若宮氏は、日本で中国に悪い印象を持つ人の割合が上昇したのは、毒入りギョーザ事件が大きく報道された2007年ごろからだとし、「日本の一般市民は政治問題よりも、食の安全や大気汚染など、自分たちの生活感覚により中国への不安・不満を感じ始めたのではないか」と述べたのに対し、坂尻氏は、「どうもギョーザ事件や列車事故については、中国当局の事後処理のまずさがことを大きくしてしまったのではないか」と指摘しつつ、両国に関係改善を望む声が多いことには励まされると発言しました。

 これに関連して小倉氏は、中国側は生活感覚ではなく、政治や領土の問題など、抽象的なイメージで日中関係を見ているようだとする一方、昨年末、安倍首相の靖国神社参拝があったにもかかわらず、今回の調査で中国では日本への嫌悪感がやや薄らいでいるのはなぜだろう、と疑問を呈しました。

 これに対して、中国側の金氏は、米国や韓国、東南アジアでも参拝を批判する声が出ていることを理由に挙げ、「中国国民は靖国参拝を日中2国間だけの問題ではないと考え出したので、感情悪化に影響しなかったのではないか」との見方を示しました。

140928_ou.jpg 王衆一氏は、本分科会のテーマでもある「相互尊重」について、自身の大学時代は中日関係が蜜月の時期にあたり、日本映画を通して日本の社会・産業の戦後発展を見たり、日本人民も戦争の被害者であると理解したりしたことによって、日本に良い印象を抱いていたと発言。その一方、「現在の中国の大学生は歴史問題では大反発するのだが、流行やアニメなど日本の若者文化は好むなど複雑な面をもっている。世論調査ではそうした複雑な要素が数字に表れないのだろう」と指摘しました。

 

 

 伊藤氏は、日本国民の間では世論調査の結果通り中国への印象悪化で訪中する観光客が激減している一方、日本を訪問する中国人観光客は概ね増え続けているという実態に触れ、その理由について「日本はメディア報道が人々に影響しすぎている。逆に中国は、メディアや政府が伝えていることと一般市民が考えていることにギャップがあるのではないか」との認識を示しました。

 



 呂氏は、「メディアは客観的、全面的に相手国を報道すべきだ」と主張。「メディアが相互尊重することによって健全な輿論ができる」と2つのテーマの補完性を指摘し、「人民日報では各方面の内容を報道しており、日本の政策も日本国民の平和を望む動きもオープンに伝えている」と述べました。

 

 

 

 これに対し加藤氏は「ギョーザに毒が入っていたのは客観的な事実だが、実際は中国食品のほとんどが安全であるにもかかわらず、当時はそのすべてが危険であるかのような報道がなされていた」と述べ、どうしてもニュースは目立つことを伝えることになるので、事件報道とその国全体を報道することとの両立はたいへん難しいと指摘しました。それに対して、周氏は、どんな世論調査もそれがすべてではないと述べ、「このフォーラムのようにface to face の関係が重要で、実際に会っていることがもっとも相手を実感できる。メディアは客観的だからといってデータだけを報道すると、間違った印象を与えてしまう」と危惧を示しました。

 孫萍氏は、京劇の俳優として来日公演を行った際の経験から、政治的な対立を緩和する存在としての人と人との交流がベースになる文化交流の重要性に言及。これに関し加藤氏は、「文化は国と国とで友人のような関係を構築する唯一の手段であり、文化交流にはメディア報道とは別の役割がある」という意見を述べました。

140929_yamada.jpg 山田氏は、「文化には庶民生活のレベルに根付いた伝統や日本独自の精神も含まれる」と定義づけた上で、「経済大国」に代わる、日本が世界から称賛される価値観として重要な環境保護思想などの形成には、古来、中国から伝わった宗教や道教などの精神が底流にあると指摘し、「今後の日中関係の大きな軸になる」と述べました。

 高原氏は、「重要なのは、中国人の歴史への感情、日本人の平和主義への誇りといった両国に とって大切な価値を尊重し合うこと」だと主張。「暴力や戦争に対して、過去の自己への反省から今の日本人は強い忌避感を持っており、それが中国の過激な反日デモや軍拡などに対して敏感に反応する原因になっている。それが対中感情悪化の直接的な原因ではないか」という見方を示しました。

 

140929_sugita.jpg このほか、中国側の高氏から、日本の右翼団体の動きを相対化して報道する中国メディアの「努力」が伝えられ、呂氏は、中日友好は両国だけでなく、アジア、世界のためにも重要なので、メディアは互いのマイナス報道をしないことが重要と主張。それに対して日本側の杉田氏からは、日本のメディアは権力監視の機能を前提としている。それに反しない限りたいていの情報は報道するようになるが、必ずそれに対する反論も掲載していると説明。それに加えて、若宮氏は、政治的な右派、あるいは右寄りと、いわゆる「右翼団体」とは異なることにご注意いただきたいと発言しました。

 最後に、日本側の司会を務めた小倉氏が、多様なテーマで意見が出された前半を踏まえ、後半の議題に関し各パネリストにも提案を求めていくとして、前半を締めくくりました。

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⇒【メディア対話・後半】日中両国の感情悪化に対して、メディア報道と文化交流が与える影響とは

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