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(前半テーマ)「世論調査結果から見た両国民の相互理解の現状」
7月2日午後に開催された分科会「メディア対話」の前半では、日中合わせて9名による議論が行われました。日本側は、小倉和夫氏(東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会評議会事務総長、前国際交流基金理事長、青山学院大学特別招聘教授)、工藤泰志(認定特定非営利活動法人言論NPO代表)、塩崎恭久氏(衆議院議員、元内閣官房長官)、下村満子氏(ジャーナリスト、元「朝日ジャーナル」編集長)、中国側は、蒋効愚氏(全国政治協商会議委員、教科文衛体委員会副主任、北京オリンピックシティ発展促進会副会長)、高岸明氏(中国日報副総編集長)、程曼麗氏(北京ジャーナリズム・コミュニケーション学院教授、副院長)が参加し、司会は、日本側は園田矢氏、中国側は胡飛躍氏(中国医学科学院医学情報研究所研究員)が務めました。
はじめに、工藤泰志が日本側の世論調査の結果について基調講演を行いました。本フォーラムでは毎回世論調査を実施していますが、それは両国国民が相手国をどう理解しているかを前提に議論を展開すべきだと考えているからだとその理由を説明。その結果、今回も日中両国民は互いに直接交流する機会が少なく、いずれも自国メディアによって相手国のイメージを作っていることがはっきりしているとの状況を紹介しました。日本側の中国に対する印象は悪化しており、8割を超える人が中国に対して悪いイメージを持っていました。これは、本フォーラムが調査を開始して8年間の中で最悪の結果で、中国で反日デモがあった2005年、尖閣衝突事件のあった2010年と比べても悪化していました。その要因としては、この調査を実施したのが4-5月であることから、石原都知事の尖閣購入発言があった後のタイミングであり、領土問題の影響が大きいと考えられるとの説明がありました。一方、中国側の日本に対するイメージは、よくなっているとは言い難いものの多少改善している傾向が見て取れました。相変わらず一般の中国国民なかには「日本は軍国主義の国」と認識している人が多い点はなぜなのか、その理由はよくわかりませんが、その一方で、中国のナショナリズムに懸念を表明する中国人も2割にのぼり、関係悪化の原因をすべて中国側のせいとする日本人の認識とは好対照の結果になりました。
とはいえ、日中双方ともに両国関係を重要視する人は8割に上り、改善を求める意識がうかがえることは今後の日中関係への前途に希望を持たせるとの指摘もありました。
中国側からは、程曼麗氏が中国側の世論調査の結果について基調講演を行いました。全般的な印象としては昨年の調査結果と変わらないと述べつつも、日本に対するイメージは若干改善しているとの指摘があり、プラスイメージとしては優秀な日本の製品、勤勉な国民の性格、震災後に象徴される社会の秩序維持があげられる一方、歴史認識問題、一部政治家の右翼的な発言、原発事故などに悪いイメージがあると説明しました。
とはいえ、中国側の大多数の人が中日関係の重要性を認識しており、互いの交流促進が重要だとの意見が見て取れるとの指摘がありました。
小倉和夫氏は、日本側が中国に悪いイメージを持っている本当の理由として、「中国が大国化している点」を挙げました。さらに、経済の相互依存関係の拡大が、日本側の中国に対する不安を高めており、食品や環境に対する不安など、感情的・感覚的な不安もあると指摘しました。
しかしこの食品や環境に対する不安は中国国民も同様に感じていることであり、国民同士が同じ土俵に立っているという視点が薄れているのではないかとの疑問も表明されました。
蒋効愚氏は、世論調査の結果について、両国民が両国関係の重要性について認識しているにもかかわらず、現状の関係に満足していないためにこのような結果が出たのでは、と意見を述べ、その解決策として、民間交流とメディアの果たす役割の重要性について指摘しました。
塩崎恭久氏は、日本側の中国に対するイメージの悪化の大きな要因として、「現在の日本政府が中国に対してどう対応するのか明快な方針を示しておらず、そのために国民が不安に陥っている」からではないかと指摘しました。一方、中国政府側にも大国と発展途上国との使い分けが見られ、それに対する反感もあると指摘。また経済面では、日本企業の中国移転が進み、国内の産業空洞化により生活水準が悪化している点が、とくに地方の住民が中国に対する不満を増幅させているとしました。
高岸明氏は、中日相互の好感度が低い点が、中日関係の将来に不利益をもたらすとの懸念を述べ、その解決策として、メディアの役割の重要性を指摘し、公平かつ客観的な報道の必要性を説きました。
下村満子氏は、世論調査の結果について、日中相互の好感度は低いものの、中国側の日本への好感度が若干なりとも改善している点について注目し、日本側が心配するほど私は心配していないと述べました。いやむしろ政治的には日本側に不安があるが、経済的には日本と中国はもう離れたくとも離れられないほど密接な関係にあり、それをさらに進めていくことが現実的なのではないか。様々な局面でネットワークをどんどん広げていくことが、「国」意識を超越して地球社会を意識していくことになるのではないか、と展望しました。
ここでさらに工藤が発言し、確かに日本人は中国の大国化に不安を持っている、一般国民だけでなく、最近は日本の有機者のアンケートにも不安が見えてきたとしつつ、日本のなかにも問題があるのではないかと指摘し、中国人が自国のナショナリズムに懸念を示しているのに対し、日本側は問題の理由を中国人に求めすぎるのではないかと懸念を表明しました。
それに対して、程曼麗氏は、中国側が「日本は軍国主義」と見ている理由として、第二次世界大戦当時の日本軍のイメージがいまだに残っており、日本の政治家の歴史認識に対する発言がきっかけとなってその記憶を呼び戻しているのではないか述べました。
最後の質疑応答では、中国の世論調査の結果で、中国人の自己反省傾向が強まっている点について、蒋効愚氏からは、中国の民衆が進歩し、物事を客観的に見ることが出来るようになってきているからとの説明がありました。一方日本側の小倉氏からは、日本人の中に水平的思考が中心になってきて歴史的経緯に配慮しなくなったこと、日本と中国では国家に対する意識が違うことが指摘されました。さらに下村氏からは、1980年代の米国で日本が米国を追い越したといわれつつもジャパンバッシングが起こったことと同様に、巨大になってきた中国に対して感覚的に批判的になっているのではないか、との指摘もありました。
また、ネット世論に対して、日本側はそれに不信感をもっているのに対して、中国側に「インターネットが民意を適切に反映している」との回答が多い理由として、日本はネットが発達する以前に新聞などの既存メディアから多くの情報を入手してきた経験があるのに対して、中国では情報源として初めてインターネットが大きな役割を果たしているからだろうとの説明がありました。
会場からは、日本の発言者から日本の若いジャーナリストはもっと勉強すべきであり、本日来場している中国の若手ジャーナリストに期待したいとの発言があり、賛同の拍手が沸き起こりました。
最後に日中双方の司会者から両国メディアの報道姿勢が日中両国民の意識に影響を与えている、メディア人自体の意識調査をしたらどうか、両国メディア同士の具体的な協力の可能性を考えたらどうかなどの注目すべき提案があり、メディア対話前半は終了しました。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。