.
6月20日(水)、東京都内のホテルにて、2012年度日中共同世論調査に関する記者会見が行われました。記者会見には、日本側から代表工藤の他、東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生氏、NPO学会会長の田中弥生氏、中国側から共同主催者を代表して中国日報社東京特派員の蔡虹氏、中国側調査の分析を担当した呉垠氏(零点研究コンサルタントグループ副総裁)が報告者として参加し、会場には日中両国の約50人のメディア関係者が出席しました。
この共同世論調査は、日中両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を継続的に把握することを目的として、2005年から日中共同で毎年行われているものであり、今回で8回目の実施となります。今回の記者会見では、この共同世論調査とあわせて行われた有識者調査(日本側)、学生調査(中国側)の結果も公表され、日中双方から詳細な説明がなされました。
まず、「日本人の中国に対する印象」に関して、「良くない印象」を持っている日本人が昨年の78.3%から84.3%に増加し、調査開始以来最悪の水準となりました。この最大の要因は「資源やエネルギー等の確保における自己中心的な行動」(54.4%)で、次に「尖閣諸島をめぐる対立」(48.4%)が続いています。一方、「中国人の日本に対する印象」は、昨年に比べて若干の改善は見られるものの、それでも6割を超える結果となりました。
また、一昨年の尖閣諸島沖での漁船衝突事件以後、過敏になっている日中両国民の相互認識を理解するために、今年は「日中間に領土問題は存在しているか」と「東アジア海洋で軍事紛争は起きるのか」など、かなり突っ込んだ設問を加えました。領土問題については、日中両国民の6割程度が「領土問題は存在する」と認識し、その解決方法として日中両国民の多くは「両国間ですみやかに交渉し解決すべき」と回答しています。また、「軍事紛争の可能性」に関して、日本人の37.9%が「軍事紛争が起こらない」と認識しており、27.2%の「軍事紛争が起きる」を上回りましたが、中国世論の約半数が「軍事紛争が起きる」と回答するなど、領土問題の意識の高まりとともに、日中両国民ともに軍事紛争の懸念が出始めています。
これらの結果に関して代表の工藤は、「日本人の中国に対する印象は小泉時代のあの深刻な状況に近づいている。国民の中国に対する印象は過去最悪であり、こうした状況になっていることを日本も中国も深刻に考えなくてはならない」と補足しました。さらに、領土問題に関して、日中両国のナショナリズムが高まっている現状を指摘し、「政治や外交がどう考えるのか、この状況をどうやってリスクに繋がらないようにするのか、これを日中両国の政府が考える段階になった」と語りました。
東京大学教授の高原氏は「日中間ではこの1年何も事件・事故がなかったのに印象が悪化したのはなぜなのか」と疑問を呈し、その要因として「尖閣の衝撃がまだ残っていること」、また「東南アジアの国々と中国との南シナ海での緊張関係にも連動していること」に言及しました。さらに、領土問題に関して高原氏は「政府の立場では歴史的にも国際法的にも領土問題がないという立場であるが、国民は政治的・外交的に領土問題があると客観的に判断している」と日本世論と政府の間の認識の違いを指摘しました。その上で、高原氏は「棚上げする、邪魔にならないようにする配慮が重要だ」と領土問題を慎重に扱う必要性を説きました。今回の世論調査は日中間の領土問題が新しい局面に入っていることを示しています。
中国側の呉氏は「去年よりはプラスの印象を持っている中国人が増えている」ことを指摘し、中国人の「日本人に対する印象」が改善されたことに好感を抱きながらも、両国関係が脆弱であることを指摘しました。その状況下でメディアが適切に役割を果たす必要性を説き、「メディア交流を進めるべき」としました。
その後、出席するメディア関係者から、今回の調査結果や今後の日中関係に関する質問がなされるなど、積極的な質疑応答がなされました。
最後に、工藤は、「今年は日中国交正常化40周年だが、日中関係が非常に厳しい状況であることは認識している。同時に、40周年という到達点に立って対話の力でこの障害を乗り越えようという意識を持っている。今回の議論は過去にない本気の議論になると思うが、私たちは対話のための対話ではなく、日中関係およびアジア全体のために行おうと思う」と述べ、7月2日、3日に開催される「第8回北京-東京フォーラム」への意気込みを語りました。
文責:荒木基晃(学生インターン)
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。