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「環境対話」では、前半のセッションでは「地球温暖化に対する取り組みと日中の環境協力」をテーマに、現職の大臣を交えた日中のパネリストで議論が行われ-ました。参加パネリストは、日本側が、斉藤鉄夫氏(環境大臣)、川口順子氏(元環境大臣)、小宮山宏氏(東京大学総長)、水野清氏(元建設大臣)、中国側が、許小峰氏(中国気象局副局長)、陶徳田氏(環境保護部宣伝教育局局長)、白雲峰氏(中国ボーチー環境保護科学技術(ホールディング)有限公司集団代表取締役、総裁兼CEO)、林麗韞氏(元中華全国帰国華僑連合会副主席、元全国人民代表華僑委員会副主任)、夏占友氏(対外経済貿易大学教授、国際経済研究院副院長)です。司会は、日本側は、小島明氏(日本経済研究センター特別顧問)中国側の司会は程春明氏(中日友好環境保護センター副主任、研究員)が務めました。
前半のセッションは、「地球温暖化に対する取り組みと日中の環境協力」をテーマに、両国で議論がなされました。まず、斉藤鉄夫環境大臣より、日本の環境政策の説明がありました。斉藤氏は、気候変動枠組条約及び京都議定書に従い、年2回の点検と総合評価を踏まえ、確実な目標達成への意気込みを示しました。次に、斉藤氏は日本の中国に対する環境協力について言及し、日本のODAによる大気汚染対策、水質汚濁や植林の取り組み、農村への技術提供など日本の環境協力の成果を紹介しました。ここで、同氏は中国の急速な経済成長を踏まえ、従来の途上国支援という形に代わり、パートナーシップ型の協力として進めるべきと提案しました。また、中国自身が責任ある国として取り組むことを求めた上で、「新しい環境協力の考え方について、日中両国の関係者が十分に議論し、考え方を共有する必要がある」としました。
続いて、許小峰氏が中国側の基調報告を行いました。その中で許氏は、中国の環境問題の現状とそれに対する政府の取り組みを説明し、以下の4点を提案しました。1点目として、汚染物質と温室効果ガスの排出量の削減に向けて、従来の成長モデルを見直し先進技術を重視するモデルへと変化させること。2点目として、気候変動と環境変化のマイナス影響に適応する措置をとることで社会と経済の持続可能な発展を保証していくこと。3点目として、科学技術進歩を基礎とし 気候変動に対応できる建築工事の手法を導入すること。そして最後に、気候変動と環境保護に関する国際協力をより強化していくこと。これらの点を踏まえて許氏は、「省エネに関しては、日中双方に協力の余地がある」とし、その上で「中国は先進国と指標はまった同じとはいかはないが、責任は持ち今後も持続可能な発展の枠組みの中でできるかぎりのことをしていく」と述べました。
日本側の基調報告は東京大学総長の小宮山宏氏が行いました。同氏は、「日本と中国が低炭素社会を構築するために何をすべきか。日中協力では何ができるのか」と問題提起した上で、日本では日々の暮らしで消費エネルギー削減に努めるべきであり、一方で中国は産業分野のエネルギー効率を2倍に、そして日常生活における省エネに取り組むべきであるとしました。また、日中協力では、アジア地域での都市構造の改善が重要であると述べました。
続いて、パネリストがそれぞれ問題に対し意見を述べました。林麗韞氏は、地球温暖化は「地球上の全生物にとって、深刻な課題」と話し、地球の生態系システムの環境価値が重要であるとしました。環境価値が投資ですぐに回収可能であることを踏まえ、中国では「資源、環境保護を国策とし、産業構造やライフスタイルの再構築」でエネルギー消費の削減、汚染物質の排出、森林率の回復といった一定の成果が認められると述べました。
また、水野氏は日中の環境協力の具体論について提案を行いました。分野ごとでの具体的な協力のビジョンを話し合うことが必要と述べた上で、電力や鉄鋼といった、個々での環境協力への取り組みを求めました。
夏占友氏は、環境協力により生み出されるビジネスチャンスや経験の共有により、日中の経済が一体化すると示した上で、「日中の環境協力は両国の国益にもなる」と述べました。また同氏は、環境保全と経済発展の双方を進められる手段とし、CDM(Clean Development Mechanism)モデルを特に推奨しました。
最後に川口氏は、日中の環境協力におけるコンセンサスを踏まえ、これから国内で執られるべき政策について問題提起を行いました。中国の環境問題解決に向けてコベネフィットの重要性が叫ばれる中で、同氏は具体的な政策の議論が不十分と指摘し、また、環境を汚すコストの価格化など、環境と経済を合わせた政策に取り組むべきと述べました。さらに日本の協力を踏まえ、「中国が国際的におかれた立場を見極め、全世界に役立つ貢献をしていただきたい」と述べ、前半の議論を締めくくりました。
後半のセッションでは、「日中環境協力の総括とこれからの協力」をテーマにより具体的な議論が行われました。日本側パネリストとして、小柳秀明氏(財団法人地球環境戦略研究機関北京事務所所長)、関澤秀哲氏(新日本製鐵株式会社代表取締役副社長)、田波耕治氏(国際協力銀行総裁)、和田哲哉氏(株式会社三菱東京UFJ銀行常務執行役員アジア本部長)が出席し、日本側の司会は北野尚宏氏(国際協力銀行開発第2部部長)が務めました。中国側パネリストは、許小峰氏(中国気象局副局長)、陶徳田氏(環境保護部宣伝教育局局長)ら5氏が出席され、司会は引き続き程春明氏(中日友好環境保護センター副主任、研究員)が務めました。
はじめに中国側の基調報告として、陶徳田氏よる、日中環境協力とそれに対する中国の姿勢について説明がありました。まず陶氏は、日中環境保護センターの設立や円借款ベースの環境事業などを取り上げて、日本の環境協力の成果に触れた上で、日中環境協力の重要性を再確認しました。さらに、中国では環境教育や研究が大学などで始まっており、これを踏まえ、陶氏は「環境と発展、平和と発展の両立達成を目指している」と述べました。このために中国政府には積極的関与が求められ、政府間の情報共有、青少年の環境教育と交流、そして環境文化研究(人と自然との共存)に取り組むべきであるとしました。具体的には両国でシンポジウムを開き「両国国民の環境意識を向上させていきたい」と述べました。
日本側の基調報告として、田波耕治氏により国際協力銀行(JBIC)の日中環境協力における資金協力について説明がありました。田波氏は、中国近代化に向けた経済インフラ整備中心の円借款から、環境分野への近年のシフトを説明し、その上で、環境政策の導入や実質的な温室効果ガス削減といった環境分野の円借款の成果を紹介しました。次に、同氏は、民間の経済活動支援を行う国際金融等業務の対中国業務について、近年省エネルギー実現を主とした取り組みに移り変わりつつあると説明しました。さらに、同氏は環境協力の今後の課題として、産業及び家庭でのエネルギー消費も考慮し、環境改善における技術の必要性に言及した上で、「実際に使われ、信頼性が確認されている高度技術を適正に活用し、また新技術を一緒に開発していくことも必要」と提起しました。その中で、日中企業間での協力、「特に両者にwin-winの関係が成立するような、日本企業の排出権取引による資金融通を組み込んだCDM(Clean Development Mechanism)事業や、成長著しい中国環境分野への技術と資金が一体となった直接投資などによるビジネスパートナーシップに注目したい」と述べました。また、政府の政策が民間協力の基盤づくり及び促進に大きな意味を持つとし、政策面での取り組みも求めました。
続いて、パネリストがそれぞれ問題に対し意見を述べました。
小柳秀明氏は、オリンピックの際の、北京での政策による環境規制が大気汚染の改善に有効的だったことを踏まえ、中国全体の環境対策における自信につながったと述べました。また、同氏はこれからの環境協力に対し問題提起を行い、今必要な協力への対応としては民間による協力が重要だとし、将来必要となってくる協力については、「日中友好環境保護センターのような、これから必要となるものを早い段階から整備するべき」と提起しました。
環境産業に従事している白雲峰氏は、環境産業の協力体制を築きたいと述べ、その上で「政策的な支援が必要」と問題提起し、両国の政府に交流のためのプラットフォームの構築を求めました。また、日本に対しては技術及び金融面での協力を求め、環境協力がアジア地域の経済発展へと繋がることに期待を見せました。
次に、関澤秀哲氏が自社のトップレベルの地球温暖化対策についてまず説明し、特に関係が密であり、また鉄鋼生産量が世界一の中国との環境協力は最優先であるとの姿勢を見せました。「日中鉄鋼業環境保全・省エネ先進技術交流会」や技術者の派遣など、中国への技術協力に全力で取り組んでおり、知的所有権の保護を重要視する一方で、今後も中国とは産業界のよきパートナーとして「積極的に協力し、共存・共栄を図っていきたい」と述べました。
和田哲哉氏は、まず、自社の環境方針を軸に据えた、中国でのCDMに対する支援などを説明しました。具体的には、研修を通した人材育成や、組織の強化があり、資金面では融資、公的機関との協働、エコ・ファンドの組成などに積極的に取り組むということでありました。その上で、官と民の責任の分担及びパートナーシップ、また今後の安定的な資金協力の必要性を述べました。
また、田波氏より、円借款で基礎が固まった中国では、「民間ベースでどう関わるかということが重要」という提案がありました。
後半では、会場の参加者を交えて質疑応答も行われました。
今回の対話を踏まえ、司会の程惷明氏は「日中の環境協力は新たな局面に突入した」と述べ、両国の関係者の密接な関わりの必要性を確認。日本側司会の北野尚宏氏は、「マクロからミクロに至るまで提起されたけれど、議論はまだ深まっていない。来年またより深い議論ができれば」と来年に期待を示し、議論を締めくくりました。
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