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7月2日午後に開催された分科会「政治対話」では、日中合わせて9名による議論が行われました。日本側は、加藤紘一氏(元内閣官房長官、日中友好協会会長)、仙谷由人氏(元内閣官房長官、民主党代表代行)、中谷元氏(衆議院議員) 、藤井裕久氏(衆議院議員)が、中国側は、趙啓正氏(全国政治協商会議外事委員会主任)、葉小文氏(中央社会主文学院党組織書記)、陳健氏(元中国駐日本国特命全権大使)が参加し、司会は松本健一氏(元内閣官房参与)と呉寄南氏(上海国際問題研究所日本研究室主任)が務めました。
はじめに、日本側は松本氏から、中国側は王氏から各参加者の紹介がなされました。松本氏は「日中国交正常化40周年であり、総括する大きな枠組の話でも、尖閣諸島の話でもいいが、まずは1人10分でお話いただきたい」と提案し、会は進行しました。
まず仙谷氏からは、この40年間で日中の関係は、「貿易においてはアジアサプライチェーンネットワークが縦横無尽に構築されており、この重層的なサプライチェーンネットワークが、いまや日本の成長とアジアの成長そして中国の成長がwin-winになっている」とプラスの側面を指摘。その一方で、尖閣諸島の漁業船の事件発生による両国国民の不満意見の噴出を挙げ、両国の関係を戦略的互恵関係の中身をさらにどう作っていくのか、「隣国同士、民族同士、この折り合いがないと、もう一段高みの関係は作れないだろう」と課題を提起しました。
続いて趙啓正氏からは、日中関係が良好であった1992年における天皇皇后両陛下の上海訪問の例をあげた上で、「当時の日中関係は良かったが、その10年後、大きな反日デモがあった。中日関係を良くしようと思えば良くなるし、悪くしようと思えば悪くなる。微妙な関係の時期は大局を見据え、落ち着いて、順番を考えながら対処すべきである」と、現状の日中間状況について解決策を示しました。
藤井氏は、40年前の日中国交正常化のパーティーに出席した際の話を挙げ、「当時、周恩来首相、鄧小平先生は『いま解決ができない問題は次の世代に任せる』とおっしゃった。現在の問題に決着をつけるということは武力闘争に発展しかねないし、偏狭なナショナリストを生み出すことになる」と尖閣諸島の問題を早急に解決することの危険性を指摘し、政治家の役割は偏狂ナショナリストを減らすことでもあるとしました。また、国同士だと国益という視点が入ってしまうため、民間交流が大事であり、一層拡大させないといけないと主張しました。
葉小文氏は「阿南先生がおっしゃったことで、日本とアメリカの場合、価値観が同じだから問題はすぐに解決できる。日本と中国は価値観が異なるため問題が解決できないということがある。しかしこれは本質的には価値観の対立ではなく、中国の急速な発展があり、それらが不信感を生んでいる」と、中国に対する外部からの見方を指摘した上で、「外国にも中国というものを正しく見てほしい。政治エリートは自らの方法・偏見をおいて、文化交流を進めるべき」と主張しました。
中谷氏は「国交正常化の経緯や戦争も知らない新しい世代が主人公になってきている」とした上で、「『ネトウヨ』という言葉があるように、日本の若い世代も中国に反感を持ち始めている」と、日本の中国に対する印象の変化とその危険性を指摘しました。また、尖閣諸島で中国の軍の船が漂泊するようになったことについて、「日本国民は中国政府が動いていると思ってしまっている。日本と同じようにシビリアンコントロール体制を推し進め、その状態で両国の政治家が話し合った内容が現場に反映され、対話によって解決されるような仕組みを構築して欲しい」とシビリアンコントロールの重要性とその元での対話の推進を提案しました。
陳建氏は、昨日の福田前総理の講演における「中日両国40周年の際に原点に立ち返る必要がある」ことと、「小異を捨てて大同につく」という2点をとりあげ、「尖閣列島の問題について領土の主権を主張し合うのは問題であり、今すぐ解決するというわけにはいかない。小異を残して大同をなすのが大事である」と主張。さらに「両国の関係を脅かすような悪魔がいるとすれば、ビンの中にいれて蓋をしてしまうのが良い。何か問題に直面したときは再びビンに閉じ込めて蓋をする方法を考えるべきである」とし、次の世代が解決するということに任せることを主張しました。
加藤氏は以前の東京-北京フォーラムでもとりあげた「3つのナショナリズム」として、「国境線や領土をめぐる『争いのナショナリズム』、学力・GDP・オリンピックでメダルを競う『競争のナショナリズム』、自国の伝統・文化を誇りに思う『誇りのナショナリズム』」を説明し、その上で「現在の日本の問題は、グローバリゼーションでアメリカの豊かさを追いかけてきた結果、日本にとって何が自慢なのか見えなくなっている」ことを指摘。「この現象は、中国もいずれ陥る悩みであり、このグローバリゼーションの先にあるものを中国に先んじて考えるのが日本の使命でもある」とこのフォーラムの意義を改めて指摘しました。
以上で、政治対話前半は終了し、後半へと続きます。
分科会「政治対話」の後半では、主に会場からの質問に回答する形で進みました。
まず、「日本と中国の歴史観は大きく隔たっているところが多いのではないか。侵略戦争は紛れも無い事実だが、侵略したことを開き直っているアメリカやイギリスはどうみるか」という質問に対しては、藤井氏より、「私は、近現代史は明治維新から勉強してもらっている。鎖国から開国し、富国強兵が言われ、実業教育が大事にされたことによって日清戦争や日露戦争に勝つようになった。日露戦争の後に日本は驕り高ぶってくるようになり、1915年の対華21ヵ条の要求であり、それは侵略であった。その延長線上で満州事変や日中戦争がでてきている。イギリスが中国を侵略したのは間違いない事実。そして、それを真似してはいけなかった」と回答しました。
尖閣の漁船問題に関して、「決定的な対立を避けるために船長を開放したが、それにより結果的に対立が深まってしまったのでは」という質問に対して、仙谷氏は「強硬論者は『けしからんので中国をやっつけろ』という方が多かったが、日本の海洋防衛体制上、中国と24時間対峙するのは不可能であった」とした上で、中国では、「裁判に政治が関わってきて司法の独立を守れないことが起こってくる。日本の我々はデュープロセスが大事である。中国は司法の独立を勝ち取って欲しい」と中国の司法の独立についても問題について指摘しました。
「領土問題を次の世代に残すというが、いつの世代を指すのか」という質問に対しては、陳氏は「両国にとってセンシティブな問題でなくなったとき」がそのタイミングであるとし、ナショナリズムの感情をあおりやすい問題であるため、「ともに開発する方法を思いついた時こそその時であり、それまではお互い挑発をあおらないことが大事」としました。それに合わせて葉氏は、漁船問題では「中国は柔らかい態度でやりたくでも、13億人の国民が許さないことがあるので、両国が知恵を出し合う必要がある」とし、中国に一定の事情があったことを示しつつ、「両国はこのビンの中の化け物を抑え込むことが大事。もし無理なら舞台で踊らせればいい。お互いに冷静さを取り戻すことを意識するべき」と時間をかけて解決すべきと繰り返しました。また、松本氏は、「国同士が話すと喧嘩になってしまう。東京-北京フォーラムで話し、ワーキンググループを作って議論を実務的に始めるのはどうか。民間のこのフォーラムで考える必要があるのではないか、と実行委員会で話に上がり始めている。次の世代に任せるためのワーキングチームを考えよう」と提案をしました。
「グローバリゼーションの次にくるもの『誇りのナショナリズム』であり、それを考えるべき時代になっている。それを日本と中国が共同で考える必要があるのではないか。また、国際社会で日本が誇れるものとは何なのか」という質問に対して、加藤氏は「中国が今のような国土づくりでグローバリゼーションを追求する国でなくなれば、共同で考える必要はある」とし、日本が誇れるものとは、日本人の自然観であると主張。「自然に恵まれているから、なんだって自然を神様にしてしまう。日本人の根っこは神道である」としました。対して仙谷氏は、「思想的・文明史観的なものを日本と中国で議論してもスレ違いになってしまうのではないか」と疑問を呈する一方で、「金融システムのような日本と中国の共通の課題もあり、そういったものについては共同での議論や連携が進んでいるものもある」とし、議論無しに戦略的互恵関係の構築は不可能であるとしました。
ネット右翼・世論についての質問には、中谷氏より「ネットの情報というのは過激かつ刺激的で、ある意味麻薬なようなものを求めてしまう。ネットもツールとしてうまく使わないといけない」とネットでの過激な意見について注意を促しました。引き続いて王氏より、「日本は細かい所、中国は全体を気にする傾向があり、問題が発生する際には注意すべきである。相手の考え方を理解すべきである」と、日本と中国の考え方の違いを指摘した上で、「さらに中日米の関係については、実際の利害関係であり、建前や綺麗事では済まないと思う。知的財産権の話、トラブル紛争の決着は政治権力と相対的に距離のある独立した司法機関で決着をつけて執行が行われる、という原則がないと、当事者間のやりとりの基礎が成り立たない。そこを承認し合うということが重要である」と考えを述べました。最後に、「建前論ではなく、実際の利害関係を整理しないと東シナ海の共同油田開発も進まない。なぜ進まないのかを、腹をわってトラック2などでも話す、そういう局面にきているのではないか」と分科会を締めくくりました。
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