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8月21日午後に行われた分科会「経済対話」前半では、午前の全体会議で行われた議論を引き継ぐ形で行われ、「経済再構築に向けた日中協力」をテーマにより詳細な議論が行われました。
日本側からは小島明(日本経済研究センター研究顧問)、武藤敏郎(株式会社大和総研理事長)、石田徹(前資源エネルギー庁長官)、 山口廣秀(日本銀行副総裁)、河合正弘(アジア開発銀行研究所長)、中国側からは魏建国(中国国際経済交流センター秘書長、元商務部副部長)、張暁強(中国国家発展改革委員会副主任)、李剣閣(全国政治協商会議委員、中国国際金融会社代表取締役会長)、蘇寧(中国人民銀行元副総裁、中国銀聯代表取締役会長)の各氏がパネリストとして参加しました。
各氏の発言要旨は以下の通り。
小島明氏(日本経済研究センター 研究顧問)
3月11日の東日本大震災で日本の工業生産が一気に低下した。具体的には1カ月で鉱工業生産指数が16%低下し、サプライチェーン・システムの機能停止状況に陥った。だが、日本のメーカーが協力し、東北地方のメーカーに技術者を派遣するなど、生産能力を急速に回復させた。いわゆる日本の「現場力」がサプライチェーン・システムの復旧に大いに貢献した。日本のサプライチェーンが復旧しても、依然としてわが国経済に構造的な問題が残存している。その構造的な問題はデフレや財政赤字問題、少子高齢化等であり、こうした構造的な問題は新しいモデルの再構築やイノベーションを行わないと解消できないと考える。また既存の法制度を状況に応じて変えることが肝要である
張暁強氏(中国国家発展改革委員会副主任)
中日両国合わせたGDP(経済規模)は、全世界で5分の2、アジア地域で3分の2を占めており、両国の経済的な重要性が高い事を示している。一方で、日本は東日本大震災で津波被害や原発事故で経済活動が一次的に大きく停滞し、欧州のソブリンリスク問題も発生する不確実な情勢である。こうした中で中日両国の経済協力は一層重要であると考える。
中国政府は経済発展モデルの転換を第12次5カ年計画で打ち出しており、その中に資源エネルギー問題も盛り込まれている。また、内需拡大と農業政策、サービス業、製造業の拡大と輸出促進を企図しているところ。今年前半で9.6%の経済成長を果たしたが、一方でCPIも6.5%とインフレ圧力も懸念される。
中日の経済協力により、日本の高い技術力を中国に取り入れて相互的な経済成長を享受することが可能。その条件として経済政策のパラダイム転換を行うことが重要であり、以下の3つのポイントが重要となろう。第1に、中日間のマクロ経済政策の調整、第2に2国間の経済協力(環境対策、情報、物流における産学官の協力)、第3に東アジアFTAが挙げられる。最終的にはグローバル問題での協力強化を中日間で図ることが肝要。
武藤 敏郎氏(株式会社大和総研理事長)
まず、日本経済の現状とその見通しについて。2011年第1四半期のGDPは年率換算で-3.6%、第2四半期で-1.3%となった。第3四半期で0%、第4四半期でプラスに転ずると見通している。その結果、2011年度全体でほぼ0%、2012年度で2%台に着地する。このことから我が国経済は東日本大震災から回復するのは間違いないが、円高やソブリンリスク問題に注意を要する。
日中貿易は年々拡大している。日本の中国への直接投資は1980年代から始まり2010年には約40億ドルに達した。他方、中国からの日本への直接投資は2010年で約2億ドルに止まっている。しかしながら、最近ではラオックス、レナウン、NEC(パソコン事業)、パナソニックのニッケル水素電池子会社、三洋電機の白物家電事業等、中国企業による日本企業のM&Aが注目されている。
東日本大震災を契機として日本の製造業のサプライチェーンの一部を中国企業が代替するとか、中国が被災した日本企業の海外移転の受け皿となるという見方もある。しかし、大震災によってこうした動きが起こっているのではなく1990年代からすでに生じているのである。中国企業にとっては、日本の技術力やブランド力を取り込み、アジアの有力企業に成長することができれば、日本の雇用も維持することとなり、双方にとって望ましい。それぞれの経済合理性に基づく経営的判断として両国企業の連携が行われることが肝要。
日本はかつて欧米との貿易・投資を促進しつつ高度経済成長を達成した。その経験からすれば、中国に重要な政策は透明性(規制や許認可)、公正性(法制度の整備、知的財産保護)、安定性(マクロ経済運営)が重要であると考える。
魏 建国氏(中国国際経済交流センター秘書長、元商務部副部長)
中日間の貿易関連の伸びが鈍化しつつある。具体的には、中日間の貿易量や日本の対中投資の伸びが鈍化傾向にある。その背景には、言論NPOが取りまとめた今年のアンケート結果で、6割の中国人が日本に対して好感を抱かず、日本人の8割が中国に好感を抱いていないことがうかがえよう。中日の経済関係を強化するために、FTAの早期締結、政治的な信頼関係の構築を行うべきである。
日本企業が生産品の高品質を維持するなど「信用を守る」姿勢が、消費者に対するクレディビリティーを高めていること、知的財産権の保護は労働集約型から知識集約型産業に転換できること、東日本大震災で示されたように日本のチームワークが優れていること、この3つが日本企業の優位な点であると考える。
石田 徹氏(前資源エネルギー庁長官)
大震災後の我が国のエネルギー需給について触れたい。今夏については大きな問題は生じなかったが、中長期的には既存の発電施設を活用し、発電コストを抑制すべきである。我が国の現時点での原発の発電割合は3割に達しているが、将来的には原発依存を逓減することになろう。オイルショックにおいて我が国のエネルギー構造の転換が図られたが、今回の福島の原発事故を契機にエネルギー構造の転換を再度図るべきである。
日中間では省エネ、環境分野で協力すべきであり、とりわけスマートグリッドで協力する余地が大きい。ただし、知的財産権や日本の技術のコスト高で、この分野での協力がはかばかしくないのが実情である。
李剣閣氏(全国政治協商会議委員、中国国際金融会社代表取締役会長)
中日間では金融分野において協力が必要である。日本のバブル崩壊の教訓を共有することが中国にとっては肝要。中国の外貨準備は日本を上回り、世界第1位となった。この外貨準備を米国の金融資産に偏重して投資するのはリスクが高い。外貨準備を効率的に用いることが重要になりつつある。また、中国は日本のプラザ合意からその後のバブル経済発生・崩壊に至る教訓を研究しているところである。資源開発等のプロジェクトで日中の共同投資を積極的に進めることも重要であると考える。
河合 正弘氏(アジア開発銀行研究所長)
今日の国際経済に存在する問題をそれぞれ取り挙げる。まず、欧米を中心とするソブリン危機問題、次にアジアへの資本流入とそれに伴う通貨切り上げの圧力、加えて、米ドルから日本円、スイスフランへの逃避がある。
こうした状況の中で日本経済については、昨年6月の新成長戦略を早急に実行すべきである。他方、中国は内需拡大を行うべきである。人民元についてはスピード感を持った切り上げが必要。為替の切り上げによりインフレの抑制が可能となり、これはアジア全体の経済に資するところが大きい。
人民元の国際化については、市場開放を行うべきであり、中国の債券を購入してもらいやすくなる環境を整備すべき。人民元のレートを柔軟化させることが重要。
カテゴリ: 経済対話
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