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8月30日午後は、第6回東京-北京フォーラムの各分科会において議論が展開されました。このうち、地方対話においては、「地域の経済交流と都市の挑戦」をテーマに、日中間で今後あるべき地域交流の姿について、充実した議論が交わされました。
前半部では、日本側司会を増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問、元総務大臣)、中国側司会を蔡建国氏(同済大学国際文化交流学院院長、教授)が務めました。パネリストとしては、日本側から森民夫氏(全国市長会会長、長岡市長)、北橋健治氏(北九州市長)、坂本森男氏(千葉県副知事)、香山充弘氏(学校法人自治医科大学理事長、元財団法人自治体国際化協会理事長、元総務省事務次官)、中国側から陳昊蘇氏(中国人民対外友好協会会長)、楊樹平氏(河南省三門峡市人民政府市長)、鄭家栄氏(四川省都江堰市人民政府 常務副市長)、高静楽氏(甘粛省慶陽市人民政府副市長)、高建国氏(中国地震局地質研究所研究員)の各氏がパネリストとして参加し、活発な意見交換を行いました。
冒頭、日本側司会の増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問、元総務大臣)は、「日中間の問題は、中央だけでなく地方の問題でもあり、その意味で地方間の対話は大変に有効である」と、地方対話の意義を強調しました。そして、地方対話前半のテーマを、都市の成長管理、防災関係、高齢化の問題などに関わる地方間交流と設定したうえで、パネリスト各氏の発言を促しました。
最初に発言した森民夫氏(全国市長会会長、長岡市長)は防災の観点に着目し、2004年に発生した中越地震の経験について語りました。森氏は、当時の山古志村における被害の具体的な状況を説明したうえで、行政に求められる対応について、「インフラの復興は行政の役割であって、住居の再建や仕事の確保についても行政が役割を果たす部分がある。しかし、一番市が重視したのは、住民の皆さんの意欲を引き出し、活力ある地域を再生することだ」と述べました。また、2008年に大地震に見舞われた四川省との交流についても触れ、「長岡市には中国から大勢の視察団が訪れ、私自身も都江堰市を訪問した。今後もこうした分野で中国との交流を進めていきたい」としました。
続いて、蔡建国氏(同済大学国際文化交流学院院長、教授)の簡単な挨拶を挟み、陳昊蘇氏(中国人民対外友好協会会長)が発言しました。陳氏は、上海万博において地方間の交流が主要なテーマとなっていることに触れ、日本館で紹介されているトキの飼育繁殖を例として日中協力の望ましい姿について語りました。今後の地方間協力については、「友好都市や友好県の関係を進めていくこと。地方自治体・地方都市間の国際交流を進めていくこと。共同で都市間の外交関係を築いていくこと。この三方面で協力を進めていきたい」としました。
続いて、北橋健治氏(北九州市長)は、北九州における環境問題への取り組みを取り上げました。北橋氏は、北九州市の環境への取り組みについて、「環境モデル都市として認定されており、経済の抑制ではなく新しい成長を促すというポリシーを取っている」と説明し、またスマートグリッドやスマートコミュニティといったプロジェクトが、高齢化への対応にもなる点に言及しました。市としてアジア各都市との技術協力に取り組んでいく意欲も示し、「2050年までに市としてCO2の排出を半減させ、さらにアジアへの技術移転を行うことで150%の削減を目指したい」という抱負を述べました。
楊樹平氏(河南省三門峡市人民政府市長)は、中国における豪雨や干ばつといった異常気象に言及し、対策が重要となっていることを説明しました。そして、三門峡市の取り組みを振り返り、「避難訓練などを行い、何をすべきかを周知させておくことが重要である。災害時に対する認識を持ち、緊急時に適切な措置を取る能力を鍛える必要がある。」と述べました。また、地方政府間の情報交換の重要性についても言及しました。
坂本森男氏(千葉県副知事)は、千葉県における高齢化対策について説明を行いました。坂本氏は、「都市の急速な成長に伴って人口構成が偏ること、長寿が進展し、リスク要因が生まれたり、逆にそれが暮らしやすさとなったりすること、高齢化には市場規範ではなく社会規範で対応する必要があること、最終的にはコミュニティで支える必要が出てくること」といった論点を指摘しました。
鄭家栄氏(四川省都江堰市人民政府 常務副市長)は、2008年に生じた四川大地震の経験を踏まえ、「科学的な計画や安全への基礎知識が必要であり、また都市管理の中で健全で高効率な応急措置を築いていくことが重要である」と述べました。また、「震災後の復興活動はすべての人に関わるものであり、人々が主体的な役割を発揮できるようなものにすることが重要である。震災後の復興活動は、市民の願いを聞き取り、知恵を生かすことで多くの支持を得た」とし、森氏に似た見解を示しました。
香山充弘氏(学校法人自治医科大学理事長、元財団法人自治体国際化協会理事長、元総務省事務次官)は、日本の都市における環境問題への対応の歴史を振り返り、「今までの対策は4つのステージに区分できる。一番目は大気汚染などの公害問題への対応。二番目は都市人口増大に伴うスプロール化等への対応。その次は日照権や騒音など、量的なものよりも質的なものへの対応。そして四番目が省エネやリサイクルといった、エコロジカルな社会への対応である」と纏めました。そして、中国の現状については「おそらくこれらの4つが一遍に到来するだろう。失敗例も成功例も含め、様々な情報をあっせんする用意があるので、是非日本の経験を活用してほしい」と述べました。
高静楽氏(甘粛省慶陽市人民政府副市長)は、慶陽市の経験を踏まえ、地方都市の発展についての考え方を説明しました。その中では、「科学的な考え方を保ち、持続可能で実行可能な発展を目指すこと」「生態環境の保全を積極的に行っていくこと」「人を本位とし、地域の特色を生かした発展を遂げていくこと」「政府・民間が同じ方向を向き、調和のある発展を目指すこと」といった四点が強調されました。
高建国氏(中国地震局地質研究所研究員)は、太平洋十年規模振動(PDO)指数という概念や、中国における災害の歴史を踏まえ、現在の中国では異常気象などの災害が起こる可能性が十分に高いことを説明しました。その上で、災害への対策においては、発生後の対策のみならず、予防や予測が鍵となることを説明し、防災や減災といった観点を強調しました。
以降は、ここまでの議論を踏まえて再び各パネリストからの発言が行われました。森氏は、三門峡市や都江堰市における災害経験を踏まえ、「被災者に役割を与え、その活力を引き出すことや、被災地域外も含めて地域の連携を図っていくことが重要だ」と述べ、新幹線や原発といった基幹インフラの対策についても説明しました。また、北橋氏は、環境対策における市民への働きかけについて、「学校現場での環境学習、レジ袋削減などの働きかけ、植樹、市中心部での先端技術などの取り組みがあり、これらは行政が思い切りアクセルを踏むことが出来る部分だ」と述べました。
ここで前半の終了時刻となり、増田氏は「防災減災、環境、高齢化といった問題について、理解を深めることができた。引き続き、来年以降も今の課題についての検討を深めるべきだろう」と議論を締めくくりました。
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