. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 外交・安全保障対話後半(司会:楊伯江氏) 発言録

楊 伯江氏(中国国際関係学院教授)

110821 e yo現在安全保障問題は最もホットな話題です。この場には非常に重要な人物が集まっています。また円卓式を採用しています。前半は利益についてでしたが、後半はどう協力していくかについてです。フォローアップの議論の中で会場のみなさまにも積極的に参加していただきたく思います。

 

中国側基調報告: 李薇氏(中国社会科学院日本研究所所長)

110821 e ribi私は法学の専門ですが、今日はいい勉強になりました。日本側の参加者は防衛大学などで活躍されている方が多く、日本の軍事力を身近に感じました。相互信頼ということを国家レベルで考えると、非常に大きな問題となります。しかし相互信頼ができれば問題にならないのではないかとも思います。米国が空母を持っていても問題にならず、中国が老朽空母を持ってきて改造しただけで、しかも中身はからっぽなのになぜ問題になるのですか。それは相互信頼の欠如に原因あるのではないでしょうか。このことはアメリカが再びアジアに回帰したことでまた問題になっています。ジョセフ・ナイ氏は対中問題が日米同盟の基礎となってきたといいますが、秋山先生がおっしゃった日米同盟の「再確認」ということの実際はその強化にあったわけです。アメリカの対外活動はアジアでは日本の助けがないと無理ですし、日本はアメリカに守ってもらうためにそれを必要としています。ですから戦略的相互信頼に影響するのはアメリカなのです。

まず、日中の相互信頼を損なう要素について考えます。民主党政権発足以来の日中は小さく崩れて大きく回帰するという関係です。日米同盟は東アジアの情勢の変化のなかで米国が自分の存在位置を求めた結果です。もし日本がアメリカ一辺倒という態度をとり続ければ、中日の相互信頼に悪影響があります。中米関係は中国とアメリカの二国間の関係ですが、日中関係をいう場合アメリカが入ってきます。これは大きな問題です。

釣魚島の問題は、双方いずれも権利を主張しているわけです。このような係争はなかなか解決できないのですが、かつての政治家は長期的な視点をもって係争を棚上げしました。しかし,現在日本は係争を認めていません。これでは共同開発をできなくしてしまいます。実際、衝突事件が起きてから共同開発はできなくなりました。また、危機管理システムの構築も止まりました。最近枝野官房長官も釣魚島問題に触れましたが、もし枝野長官が言い方を変えていれば、問題は大きくならなかったでしょう。本当に危機を回避する気があるのか、もう少し考えてほしかったと思います。

また、歴史問題、領土紛争などの課題において両国首脳のリーダーシップが必要です。今まで関係がうまくいっていたのはリーダーが長期的な視野を持っていたからであると思います。しかし菅総理はうまくリーダーシップを発揮できませんでした。ポスト菅が誰であれ、日中関係をもっと慎重に考えてほしいものです。

関係発展のためには、相互尊重が欠かせません。相手をきちんと見なければいけないのです。小康社会、すなわちややゆとりがある社会というのが中国の目標です。しかし中国はまだ貧しいというのが現状です。日本はポスト工業化の時代にあって、目標を失い悲観的になっています。日本は夢を失っています。しかし日本はわずかながらも成長しています。この成長は評価されるべきですが、日本は目標を見失っています。来年は国交正常化40年ですが、そのチャンスを生かして,今後の40年の発展と平和のために建設的な意見を出していければと思います。

 

日本側基調報告: 石破茂氏(自由民主党政務調査会長)

110821 e ishibaここ数年、日本国内における戦いで疲れていまして、話が的をえていなかったら申し訳ありません。中国がこれだけ広大な国土を擁し、どれだけの人口がいるかもはっきりせず、14の国と陸上で国境を接する。この中国という国を治めるのはどれだけ大変でしょうか。共産党一党独裁で政権交代がないほうがいいかもしれません。かつてマルクス・レーニン主義が光り輝いていた時は、「おまえも貧しい、でも、おれも貧しい」でよかったのですが、今の若い世代はマルクス・レーニン主義を以前のようには信じません。そしてそこに格差が生じるのです。格差をどう処理するか、これが中国の問題であります。共産党の努力にも関わらず、格差は拡大しつつあります。

中国における文民統制とは共産党による軍の支配をいいます。アメリカや日本におけるものとは違って、我々の国では軍を指導する政治家は選挙によって責任を負い、失敗すれば、落選する,このようなシステムは中国にはありません。かつて我が国は統帥権独立ということを言って道を誤った時期がありました。締結した国際条約に反して多くの軍艦をつくりました。わたしは疑心暗鬼ということが相互信頼を危うくすると思います。我が国は透明性を重要視していますが、中国の白書には十分なことが書かれていません。

わたしは中国の空母に脅威は感じません。なぜならアメリカのみが空母を運用できるからです。多くの航空機を運行できるスチーム・カタパルトを持った空母は現在アメリカのみが保持しています。空母一隻を運用するためには三隻が必要で、しかも艦載機が必要です。

きちんとした軍事の知識は相互信頼に必要です。それならば軍人同士の交流も必要でしょう。政治家は嘘をつくかもしれないが、兵器は嘘をつかない。軍人同士の交流、すなわち同じように祖国のために命をかける軍人同士の相互信頼は両国に利益をもたらします。政治はそれを推進するべきなのです。

日米同盟は日米のみを対象としたものではありません。極東の平和と安定のために維持しなければいけないのであって、鳩山前総理の基地移転に関する発言は許しがたいものがあります。健全な日米同盟は中国にとっても重要であり,利益ももたらすのです。

尖閣の問題も議論すれば尽きません。中国人の船長を解放したのは検察だ、などという発言は許されません。責任は政治が取るべきであり、あやまった選択をすれば国民の審判を受けるべきです。このたびの大震災と大津波は我々に「絶対」という言葉は存在しないということを教えてくれました。わたしたちは徹底的に議論すべきだという態度を忘れていたのではないでしょうか。世界の国々はみな平和を愛する人々であるから、それを信じて生きていきます、それが日本国憲法の精神です。それでもなお不測の事態を防ぐために安全保障には力を入れるべきなのです。

 

山口 昇氏(内閣官房参与 防衛大学校総合安全保障研究科教授)

110822 g yamaguchi日本は確かに自信を失っています。だから中国が怖く見えるのでしょう。中国軍にたいする過大評価です。中国は自信があって、情勢を余裕を持って見ています。中国の防衛費は年10%増え、いまや20年前の18倍です。しかし一方でそれは過去においてほんの少ししか使っていなかったということでもあります。現在はアメリカの100に対して中国が20です。20年前はアメリカ100に対して中国は1でしかありませんでした。しかも軍事力はその年にいくら使ったかではなく、訓練などもあります。我々は軍事を冷静にみなければいけません。空母を使った作戦に成功したのはアメリカと旧大日本帝国海軍しかいません。空母の運用にはノウハウの蓄積が必要です。お互いルールをもって、お互いを見る、このような関係を日中関係でも進めるべきだと思います。

 

【会場からの質問】

北京大学学生

1.中国の歴史教育に言及がありましたが、共産党の歴史教育、特に中国の抗日戦争に関して、もし日本のいうことが事実で正しいとしても、日本は歴史責任からは逃れられないのではないですか。

2.ヨーロッパと東アジアは違う歴史段階にあるのではないでしょうか。日中は歴史を掘り下げてみることができないでしょうか。例えば、鄭成功の母は日本人だったなど歴史の共通点をみつけて、掘り下げてはいけないのでしょうか。

3.長島さんに質問です。(予定されている)10月10日(の訪中には)、菅総理にかわってどなたがいらっしゃるのでしょうか?

4.石破さんに質問です。大連立はありえますか?

 

秋山 昌廣氏(海洋政策研究財団会長 元防衛事務次官)

110821 e akiyamaEEZにおける軍事行動について、中国側は伝統的な,遺伝的な海域があるといわれましたが、そのようなものは海洋法にはありません。湾はありますが。EEZにおける軍事活動は自由という解釈が一般的ですが、非沿岸国の行動と沿岸国の権益についてはガイドラインが必要でしょう。

 

王 逸舟氏(北京大学国際関係学院副院長)

110821 e wan常に相手の立場から考えるのが重要です。南シナ海に関する問題ではかつてない複雑な状態が生まれました。新しいチャレンジに直面したのであります。海での縄張り争いによって世界に悪影響を与えてはいけません。これを解決するには孤立はいけません。南シナ海での協力、国際犯罪への対処。共同開発などできることは多くあります。地方政府の協力の発想もたくさんあります。

 

長島 昭久氏(前防衛政務官 衆議院議員)

対米追従に関してですが、私たちもよいことだとは思っていません。しかしそれによって日本のナショナリズムをかき立てるのは日中関係にも益のないことです。両岸関係にアメリカを介入させないことが肝心だとおっしゃいましたが、そういう発言を聞くと、中国にとってアメリカはこの地域における「目の上のたんこぶ」なんだな、と感じざるをえないのです。我々としてはアメリカと対等に協力してこの地域の安定に貢献したいと思っています。

また、昨年の尖閣問題に関して民主党の対処が拙かったという指摘がありましたが、70年代より中国がそれにチャレンジしていたことはわかっています。しかし実効支配しているのは日本です。それに対して中国側が口頭で意見をのべるのであればいいでしょう。実際韓国が支配している竹島に関して、私たちも口頭で意見を述べております。しかし実力行使があると厄介な問題なってきます。職務執行中の海上保安庁の艦船に漁船がぶつかってくる、このようなことは自民党時代もありませんでした。よって我々も慌ててしまったところがあります。この海域に船が近づかないように,両国が努力すべきです。そして、万一の時に解決へ導けるようなメカニズムを構築するべきです。

 

石破茂氏

110821 e ishiba学生さんの質問にあった大連立はないです。震災対応などについては与野党協力できますが、民主党と私たち自民党では意見の違う人が多いでのす。長島先生とは結構同じ考えなのですが、イラクに対する自衛隊派遣、子ども手当、高速道路無料化など我々と意見の違う人が多いのです。震災対応などでは協力できますが、これは大連立とはいいません。

冷戦後バランス・オヴ・パワーが崩れ、あちらこちらで紛争が起きるようになると、「この国は信じられる」という相手は非常に大事になってきます。テロの時代においても情報は非常に大切です。同盟によってより多くの情報を得ることができるのです。

北朝鮮で金日成から金正日に指導者がかわるときミャンマーのラングーン事件がありました。ならば金正日から金正恩にかわるときにも同じようなことがおこるのではないか。韓国の天安号沈没事件、延萍島砲撃事件も同じ脈絡で理解できると思います。時間は北朝鮮の味方です。中朝同盟をどう考えるか。朝鮮で内紛がおきて難民が流出するのは問題ですし,あるいは南北の合同政権が米国の影響下に入るのも中国にとってはおもしろくないことです。ですから北朝鮮のことは気に食わないが,暴発されるより現状のほうがまだましであると、中国がそう考えるなら,時間は北朝鮮の味方となります。北朝鮮が核の小型化などに成功すれば、この地域における重大な脅威となるでしょう。

 

カテゴリ: 安全保障対話

親カテゴリ: 2011年 第7回
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