. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 【記事】安全保障対話後半

 分科会「安全保障対話」の後半では、まず李氏が中国側の基調報告を行いました。img 236

 110821 e ribiこの中で李氏は、「中日間の相互信頼の構築がキーワードである」とし、相互信頼は一連の問題の基礎にある非常に大きな問題であると指摘しました。そのうえで、その理由は中国の近代史にあり、また戦後日本がアメリカの戦略目標を達成するために利用されたという背景もあると述べ、アメリカは日中間の戦略的相互信頼の構築の障害であると述べました。そして、日中の共通した戦略的利益を拡大するためには、日本が日中関係を考える際に日米同盟という要素を加えることが、日中の信頼関係を築く上で大きな問題となると述べました。さらに尖閣諸島について、「国交正常化当時に長期的視点から両国の政治家は問題を棚上げしたが、日本の係争の存在を認めない現在の態度は、共同開発の可能性を損ない、首脳の相互訪問を途切れさせ、危機管理メカニズムの構築を妨げている」と述べ、枝野官房長官の尖閣諸島への侵略と自衛権に関する発言を慎重に発言するべきであったと非難しました。また、日中関係において両国指導者のリーダーシップが重要であり、衝突事件では「両国の指導者の処理が適切でなかった」と指摘するとともに、「ポスト管が誰であっても、慎重に対応してほしい」と述べました。そして最後に、日本は現状に悲観的になりすぎており、ポスト工業化時代においてすら成長していることを高く評価する、大震災をきっかけに新たな発展の方向を見つけることを期待するとのべ、来年の日中国交正常化40周年を利用して建設的な意見を出して行こう、と結びました。

 

 110821 e ishiba次に、石破茂氏が日本側基調報告を行いました。そのなかで石破氏は「相手の立場に立って物事を考えることは重要であり、中国の統治は我が国の統治よりはるかに難しい」とし、共産党一党独裁や党の軍隊としての人民解放軍の存在、言論規制がなければ統治できない事実があると指摘しました。そして、現在の中国には共産主義にはあり得ない非常に大きな経済格差が存在し、その解決が中国政府に求められていると述べました。その上で、中国の文民統制は国民に責任を負うというスタイルではない、やがてピークアウトを迎えた時に人民解放軍はどうなるのかと指摘し、戦前の日本の統帥権独立の例を引きながら、相互の疑心暗鬼が相互信頼を損なうと指摘しました。その上で、軍事的観点から中国の空母保有は脅威ではないと指摘するとともに、信頼醸成の観点から両国の軍事交流の重要性を重ねて指摘しました。また、「極東の平和と安定」を目的とする日米同盟を引き続き発展させる、「健全な日米同盟の存在は中国にとっても必ず利益になる」と強調しました。そして日本国憲法の前文を引きつつ、「相互信頼の構築のために最大限の努力をしつつ、不測の事態に備えて安全保障にさらなる力を注ぐ必要がある」と述べました。

 

 110822 g yamaguchiその後の自由討論では、まず山口氏が「日本が自信を失っているがゆえに隣国を脅威とみなしている、中国軍の近代化への過大評価があり、逆に中国はリラックスしてみているのではないか、そして真実はその中間にあるのではないか。」と指摘するとともに、かつての中国の軍事費の少なさにむしろ注目すべきであり、空母の保有のみが近代化ではない、経験の蓄積を伴う本当の軍事力の近代化にはまだまだ先が長いと指摘しました。最後に、今年春の東シナ海における中国側ヘリコプターの近接事案について、その危険性を指摘するとともに、相互に一種の尊敬の感情を醸成する必要があると指摘しました。

 

 110821 e akiyama秋山氏は南シナ海問題について、領有権とEEZにおける沿岸国の主権的権利と非沿岸国の軍事行動という2つの問題があると指摘しました。その上で、中国には「9ドットライン」についての国際法に基づく説明が求められていると述べ、南シナ海は中国の歴史的海域という陳氏の主張を国際法に基づかないものと批判しました。また、後者については国連海洋法条約は全く規定しておらず、多数派の解釈は「EEZでの軍事活動は自由」であると紹介しつつ、この問題についてガイドラインを作る必要がある、ルールなき現状は非常に危険であり、この分野で日中協力は可能なのではないかと提起しました。

 

 110821 e wan王氏からは、南シナ海に関する問題を処理するにはグローバルに考えなければいけない、現在はかつてない複雑な問題が生じているとして、条約と地域の現状に即した新しい解決に挑戦しなければいけないと述べました。南シナ海問題は中国とASEANだけの問題ではなく世界の問題であり、いかに双方の利益にかなうソフトランディングを議論する必要がある、ウィン‐ウィンの解決が必要と指摘しました。そして、領有権問題については、中国と一部の国との係争であり、国際法に先例はなく付託することはできない、また津波や海賊、国際犯罪といった非伝統的な問題についての協力の可能性が広がっており、ウィン-ウィンの思想があれば新たな発想で非伝統的な問題に対応できると述べ、この面での中国のイニシアチブに留意してほしいと述べました。さらに東シナ海での資源開発について、地方政府は共同開発の発想を多く持っているものの、ハイレベルでの議論が足りない、ぜひ日本も海洋国家としての経験を生かし、協力の手法を考えるとともに、係争の解決についても協力してほしいと述べました。最後に、今後はより創造的な発想で問題解決に努力していかなければならないと結びました。

 

 110821 d nagashima続いて長島氏より、日米関係について、対米追従に対する批判が逆に日本のナショナリズムを掻き立てることもある、健全な日米同盟がこの地域の平和と繁栄に有益であり、より強化する必要があると述べました。さらに李氏や陳氏の発言に関し、中国側はこの地域のアメリカの存在を疎んじているのかもしれないが、アメリカの健全な関与の存在がこの地域の安定に資することが歴史的に証明されている、今後も協力して平和と繁栄を確保していきたいと述べました。また、衝突事件に対する民主党政権の対応への批判に対し、尖閣諸島の領有権の主張は国際法に基づくものであり、1970年代まで中国側から何も主張がなかったこと、そして現状の有効な支配は非常に大きな事実であると述べ、衝突事件は前例のない事件であったが、公務執行妨害で逮捕する以外の手法はなかった、今後は未然に回避するために努力するほかなく、両国の海上法執行機関がきっちりと警備するのみならず、危機管理メカニズムを構築するほかない、と強調しました。

 

 110821 e cyo張氏からは、東アジアには北朝鮮の核問題というより大きな問題がある、これは冷戦構造が残っている唯一の問題であり、非核化の実現と平和のメカニズムの構築が日中の共同利益であり忘れるべきではないとの指摘、国連海洋法条約の精緻化の必要性を指摘する意見が出されました。また、東アジアにおいて日米両国は同盟を平和と繁栄の礎としてきたが、時代の変化に合わせて、アジアの安全保障のメカニズムを変化させ、仮想敵を想定せずに、非伝統的脅威への対処を進める必要があるとの指摘や、ARF、六者会合、ASEAN+3等のマルチの対話のメカニズムの構築の必要性の指摘もなされました。

 

 最後に、石破氏より、冷戦後だからこそ同盟が必要となる、バランス・オブ・パワーが崩れたからこそ、領土・宗教・経済・民族等に起因する紛争が多発するようになると、信じられる国、としての同盟国の存在はより必要となる、またテロ対策としての情報収集にも同盟国は必要であると述べました。北朝鮮については、中国は朝鮮半島の緊張緩和、特に指導者の世代交代に伴う混乱の発生の危険性を指摘し、現状の継続は北朝鮮に有利であるとの認識を共有するよう呼びかけました。

 

 また李氏からは、国連海洋法条約に関し、各国の実践によって常に充実させていく必要があると指摘するとともに、係争の解決の唯一の手法ではない、中国は二国間の協議による解決はこの条約の発展のための貢献であると考えると述べました。また、アメリカのプレゼンスに関し、これは日米間の問題であり、アメリカには有益な役割を果たしてほしい、日本の強硬的な防衛政策とアメリカのアジア回帰は軌を一にしていると指摘しました。そして戦後のアメリカはその戦略目標の達成のために日中関係を犠牲にしてきた、日本は健全な日中関係の発展のためにこのことに留意してほしいと述べました。

 

また会場からは、日中両国で歴史の共通点を見出し、掘り下げることはできないか、といった質問が出され、最後まで活発な議論が交わされました。

 

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親カテゴリ: 2011年 第7回
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