.
宮本 雄二氏(在中国日本国大使館 前特命全権大使)
ご来場の皆様、本日このような形でお話できる機会をいただき大きな喜びを感じ、光栄に思う。第一回 東京‐北京フォーラムは2005年北京で行われたが、国交正常化以降最も厳しい時代、冬の時代であった。これに危機感を感じた人々が民間外交で両国関係を切り拓かなければと始めたものだ。日中間の問題は互いに外交問題であって、国内問題である。相当リスクの高い問題であるが、深刻になればそれに近づきたくなくなるのが人間というものだ。敢えて厳しい時代に対話の場を開かれたことに敬意を表したい。アジアの未来と日中の貢献というテーマの下で、議論の内容も充実していたと聞いた。継続は力なり、と言う。日中両国が支援を強化して、観光などの交流を進めていくべきだ。この2国間関係は重要な発展のチャンスを与えられ、経済のグローバル化によってアジアがまとまる重要性は増している。中国経済の規模はこの10年で3倍になった。もはや日中が戦うことは許されない。すべてが絡み合う世界において、世界に貢献する日中関係を構築すべきだ。日中は狭い世界から解き放たれ、自由な世界の中におかれた。温家宝首相が日本の国会で演説し、日本の過去の侵略に対するおわびを評価した。胡錦濤主席と福田首相の共同声明では、戦後日本の生き様を平和な世界の発展に貢献したと評した。すなわち中国が現状の日本であれば軍国主義は復活しないと思っているということであり、世界の発展のために協力するとに同意したということだ。ただ、これは日本が現状を変えなければということである。これが戦略的共通利益のための互恵関係なのであり、小泉首相時代などの反省から得られる重厚なものだ。確かに台湾や東シナ海の問題はあるが、日本との間に長い間存在した歴史の問題が背景に退くことで、発展のチャンスが与えられた。安定した、予測可能な日中の協力関係を築けるか、経済はWin-Winの関係でなければならず、利益を多くの人が容易に認識してくれるかが問題だ。08年の共同声明の中では、日中か世界の潮流に沿ってアジア太平洋の未来をつくり出すとした。ただ、未だ脆弱な部分はあり、チャンスを生かさなければ関係を発展させることはできない。世論調査においても、日本人の72.0%、中国人の55.9%が相手によくない印象をもっている。日本人の中国への印象は変化が見えず、中国人も歴史の問題を意識している。相互信頼、相互尊敬の関係にしていきたい。ナイーブと言われるかもしれないが、限界の存在を知った上で、それでもやることをやる。まずは会って話すことだ。大規模な交流を推進し、青年交流、自治体交流、観光などを行いたい。日本を訪れる中国人は日本によい印象をもって帰る。この点にかんしてはぜひ来年の世論調査で聞いてもらいたい。人の交流は好感度をあげるのだろうか。質の高い相互理解に支えられないと発展は得られない。中国にとっての台湾問題の重要性を世界にわからせるのは難しく、中国には当たり前でもなぜそうなのかとは言えないと思う。どういう客観的基準で中国の国境は決まっているのか。どうしてひとつでなければならないのか。こういうことは深い知的作業を要す、なんでわからないのか、などと思わず、相手が納得するまで掘り下げること。このフォーラムのような場が発展していくと確信している。安保についてだが、08年の声明ではハイレベルな相互訪問の強化を決めた。安保が政治的信頼に基づくという見解に立っている。中国の軍備増強は客観的事実であり、透明性が重要だ、中国は今年経済規模が日本を抜き世界2位になる。世界の中で大きくなり、時代の要請に答えようとする中国に敬意を表する。世界の中でのあり方を語り、実行することで中国脅威論は自然に消えると考える。
蘇 寧氏(中国人民銀行元副総裁)
皆様のお話に深い印象を持ちました。司会者はうまく議論をマネージメントしており、パネリストのご発言は素晴らしかったです。
アジアの経済発展と両国の経済金融の統合についてお話します。
第一に金融危機の中で、アジア経済は新たな視点を持つことが重要です。金融危機によって、世界経済は大きく低迷しておりますが、欧米に比べてアジアは早く回復することができました。しかし、アジアには不確定要素が存在し、それを慎重に注視する必要があります。アジア経済のパフォーマンスは、ここ十数年の取り組みと関係があります。この十数年間、アジア諸国はプルーデンシャルなマクロ経済政策をとってきました。アジア通貨危機後、アジア諸国はソブリン債務を効率的に運営し、外貨準備を蓄積し、リスク対処能力を強化してきました。内需によって経済成長を牽引してきました。
二番目は金融の安定化です。アジアは大幅な金融改革を実施し、金融機関の自己資本を充実したものとし、会社のガバナンスを改善し、金融監督を強化するなどしました。マクロなプルーデンス政策が重要です。次に、地域における金融協力についてです。金融危機の外部性を認識することが重要です。自国だけで金融危機を防ぐのは無理であり、経済や金融の監督に共同して当たるために、実務上の整備の協力が必要です。また、日中関係がさらに開かれたWin・Win関係になることが重要です。相互補完性を十分に発揮することで、将来の成長余地は大きいものとなると思います。より包容力のあるものになるでしょう。
両国の協力は経済成長の必然的な道です。大同を求め小異を残しながら、貿易を増やし、投資協力、金融、インフラの相互建設、域内のインター・コネクティブな状況を実現するべきです。発展していくことが、共通の願いです。それは、自国だけの利益追求では成り立ちません。協力のメカニズムが確立され、強固なものになりつつあります。経済的に両国がお互いに助け合って発展することが重要です。
三点目として、Win・Winな関係とすることが大切です。中国と日本は大切な隣国同士です。そのためには、3つのことが考えられます。1つは、二国間での経済協力を強化していくことです。日本はアジアの他国にはないブランド力などの強みがあります。中国はいまだに途上国である一方、豊富な人材やフルセットの工業生産能力があります。経済構造の調整を行い、グリーン、ハイテクなどの分野で新たな経済の協力を行うべきです。マクロ経済の対話を強化し、マクロ的観点から有効な政策を維持して、危機からの回復を支え、APEC、G20 などの枠組みを強化すべきです。また、日中両国はドーハ・ラウンドを推進するべきです。3つ目は、金融協力を推進することです。地域金融協力はいまだ初期段階にあります。チェンマイ合意のマルチ化を行い、ASEAN+3、+6などの政策対話を推進することが重要であり、世界経済の急速な発展につながると思います。
武藤 敏郎氏(株式会社大和総研理事長 前日本銀行副総裁)
フォーラムのメンバーの皆様、ご来賓の皆様、このようなあいさつの機会を得たのは大変光栄です。日本と中国の経済発展はアジアの発展の基盤です。世界経済のエンジンとなってきた日本経済は90年代に入って鈍化しました。資産バブルの崩壊から始まり、名目GDP0.4%でほとんど成長していません。以前は10%を超えていたのにも関わらずです。バブルで構造的な変化を起こっています。アジアの経済のためにもデフレ脱却を進めなければなりません。財政金融政策は政治の強力なリーダーシッ プとアジアとの協力の下、進めていかなければならないと思います。
中国は改革開放以降、経済成長を進め、世界第二の経済大国となりました。理由としては資本の増加と輸出増加があげられます。世界の工場から世界の市場に変わりつつあります。自動車の売上が爆発的に成長しています。雇用者所得を増やすために企業貯蓄が大きすぎることを考えると労働分配率を引き上げた方がよいと思います。現に賃金引き上げのストライキが起こっています。
中国の成長モデルを変えるには3つのことが必要です。1つは少子高齢化に伴う社会保障の整備です。消費意欲を拡大するために労働者の将来不安を除く必要があります。サービス産業の拡大や環境・省エネ関連の産業を進めることも必要です。
金融緩和政策の変更と価格上昇に歯止めをかけている中国当局のマネージメ ントが功を奏し、バブルの可能性は低い。的確な政策を続ければ成長を続けられるでしょう。しかし、長期的にみると楽観はできません。中国の発展はアジアの発展にとって不可欠です。
中国の制約要因について、第一は高齢化の進展です。中国の65歳人口比率は2010年に8%で、日本の65歳人口比率は23%です。このところ35年で15%増えた。中国では今後30年で同じことが起こります。第二は高齢化に伴う社会保障経費の負担の増加です。社会保障制度の持続可能性というのは難しい問題です。第三は環境問題です。都市インフラの不足と農村の荒廃は深刻だ。中国は資源の効率化が不可欠で、1単位あたりの使用エネルギーが中国は日本の6倍、米国の3倍です。 長期的にみてこれらの潜在的要因が顕在化して経済成長は鈍化すると考えます。それに対して、日本は先に経験している国として解決モデルを提示できます。
アジアの貿易は活発になってきています。資本移動の自由化や為替レートの完全自由化がより一層貿易を推進させます。人の交流が相互理解の早道です。中国側は豊富な労働力と潤沢な資金があり、日本側は高い技術とノウハウの蓄積、高品質な製品といった強みがあるので、アジアの中でそれぞれの強みを活かして相互補完をして協力していくべきです。
孫 尭氏(黒竜江省人民政府副省長)
地域の統合は世界経済の重要な推進力である。中国東北部は最も重要な経済の中心地です。黒竜江省は日本との交流を活発化しています。海を使う輸送路を作り、資 源・物資・人的往来がそれらを通じておこなわれる。中国の南部地域では一足早く香港などで経済が活性化したが、黒竜江省は中国ではとてもユニークな存在です。とても資源の多いところです。寒いがゆえに雪が多く殺虫作用があり、三大穀倉地域の一に数えられる。冬が寒くて農薬をあまり使う必要がありません。冬場と夏場の温度差が大きいので作物の品質もいい。約1000ヘクタールの穀倉地帯のうち7分の1が黒竜江省に存在します。中国人宇宙飛行士7人のうち2人が黒竜江省出身です。今年の5月にロシアとの間にパイプラインができました。また、黒竜江をまたがる橋を作り、鉄道を通し、間宮海峡を通じて日本とつなげたい。この「海のシルクロード」は3国をつなげる。企業誘致を積極的におこなっているので、日本の企業も黒竜江省の企業とタイアップをお願いしたい。バイオ、科学などの基盤もしっかりしています。原子力発電所の開発では日本との協力を望んでいます。ハルビンなどでより多くの日本企業の進出が行われています。大学も実力があるので、インフラ・観光面も含めて日本と協力したい。日本との協力はこれからの課題であります。
小林 陽太郎氏(富士ゼロックス元会長)
おはようございます。第6回のフォーラムは、第1回から第5回までを上回る重質的で率直な講演、討議、分科会だったとうかがって、これよりうれしいものはありません。昨日まで、私が20年ほど毎年主催している会合があり、このフォーラムに出席できませんでした。実は今年、そこでのテーマは「不確実性」でした。哲学者、物理学者、科学思想家、経営者などが2日半議論をしておりました。
確かに世の中はすべて不確実なものとも言えますが、アジア、世界の将来、日中の関係、それだけでなく日本・中国そのものの現在・将来も、不確実性でいっぱいです。科学者などはどんな考えでしょうか。興味深いのはトランス・サイエンスというものです。全てを科学で解決できるか、不確実性は科学の進歩によって存在しないようにできるかというとそうではありません。科学と政治あるいは経済の重なる部分が増えてきています。科学は事実によるものです。一方、政治は極めて状況的で人間的で合理を許さない分野です。そういう分野が増えてきており、 科学には頼れないときに、どういう態度で臨むべきなのでしょうか。それは、広い深い教養と歴史の正しい認識、そして謙虚さとを併せ持った人間を一人でも多く、政治、経済、外交、草の根に送ることです。相互信頼が大切となります。
不確実性に対処して問題解決をするには、100点でなくても、さらに進歩の努力を続けることが大切です。世の中の実態とはそういうもので、日本でも、中国でも、先人はそういう能力の積み重ねをしてきました。現在はさらに、過去よりも大きな不確実性があるといえます。だからこそ、このフォーラムで、参加メンバーの信頼醸成を行うことが重要です。率直な飾らない議論の認識が広まりつつあります。私はこのフォーラムのスタートに同意しただけに、東京・北京フォーラムの内容の着実な充実はうれしく思います。アジアの将来において日中関係の重要性ほど確実なことはないといわれれば、その通りです。ただ、それをいかに実現するか、そしてそれを欧米に結び付けるには何が必要かというものがありま す。それには皆さんの議論がつながっているのです。多くのことができましたが、両国関係にはまだ少し脆弱性が指摘されています。お互いに謙虚さと相互信頼を基礎にして、完全にはなくならないが、不確実性を小さくする。そしてそれをアジア全体の喜びとして、現実のものとすることが大切だと思います。
呉 建民氏(外交部政策諮問委員会 委員)
ご来席の皆様おはようございます。全体会議で考えを述べる機会を得られてうれしく思います。私は4回目の参加ですが、これまで4回の感想としては回を重ねるごと によいものになっているし、影響力も大きくなっていると思います。このフォーラムを創設された方々に敬意を表したい。不屈の精神を持っておこなわれたのだと思います。そういう精神がなければ発展しなかったでしょう。アジアは利益共同体として括らねばなりません。小林陽太郎さんも不確実性ということをおっしゃったが、今、世界は曲がり角にきています。世界には2つの流れがあり、その1つは平和協力の道で、もうひとつは冷戦、対抗の道です。この2つの流れの戦いが21世紀の人々の運命を決める。ここにもまた不確実性があります。力を入れて利益の共同体をつくらねばなりません。意見論争はあるが、どうしたらいいかと考えた時、歴史に鑑みると、共通利益をどう発見し、最大化していくかで発展していくのだと思います。
気候変動、低炭素社会など、科学的発展観を中国の指導者は出しています。こうい う分野は日本が世界のトップクラスです。中日で密接に協力すれば大きなイヴェントを実行できます。たとえば、日本との協力によって、「空気がよくなった」「水がよくなった」と、中国の普通の人に目に見える結果があれば、関係は確固たるものになるでしょう。ドルに他の通貨がとってかわることはできないでしょうが、米国は国と個人で53兆ドル、GDPの3倍以上の借金があります。それなのに、米国は金を何に使うか相談もしてくれない。共通の脅威に直面しているのだし、相談して利益を得て、損失を最小化するためにどうするかも話し合いたい。共通通貨はどうするのか、信頼できる共通通貨ができれば、豊かになるだろうといわれます。 安全保障でも何かできないか。みんな石油は必要でしょう。発展のためには古い固定観念を除かねばなりません。もともとは戦争で20世紀は問題解決をしてきたが、 21世紀の戦争でなにができたか。イラクは。アフガンは。そう言うとアメリカ人も苦笑します。戦争にお金やパワーをつぎ込んでも何も解決できない。それが新たな状況なのです。時代が変わったと考えねばなりません。戦争から平和へ、という大きな変化です。これまでは米ソでどれだけ軍備拡張できたかで世界を牛耳っていくという時代でした。日本も中国も世界を前進させ、古い考えを取り除く。中日関係に問題は避けられないが、共通利益に向かっていき、努力することで互恵関係が築かれ、アジアの将来をよりよくしていけるだろうと思います。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。