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9月17日は、「第4回 東京‐北京フォーラム」の分科会総括のための全体会議が午前9時から行われました。この日の会議では、まず安斎隆副実行委員長(株式会社セブン銀行代表取締役社長)と呉建民氏(国際展覧局名誉主任)があいさつし、つづいて谷垣禎一氏(国土交通大臣)と劉洪才(中国共産党中央対外連絡部副部長)が講演を行いました。
まず安斎氏があいさつを行い、世界的な景気後退が予想される中で日中はどのように対応していくべきか、日中関係と世界の情勢を10年前、20年前、30年前と振り返りながら述べました。そのなかで安斎氏は、世界経済のグローバルな構造が原因で生じたサブプライムローンの問題に触れながら、「日中は経済のグローバル化の恩恵を最も受けてきた国である」として、グローバル化を非難するのではなく、自国の経済構造を貿易依存から内需依存型に変えていく必要性を強調しました。しかし同時に、世界経済を現在まで支えてきた米国の役割を担うことは至難の技であり、そのような国は存在しないと述べました。そしてこの点を踏まえたうえで、日中両国はこれから「金融面でのインフラ整備を着実に行っていかねばならない」と指摘し、地味ではあるがそれこそが非常に重要であると強調しました。
続いてあいさつに立った呉建民氏はまず、前日に崔天凱中国大使が指摘した、今年は日中にとって3つの30周年であるという話に触れながら、これは歴史の偶然ではなく、鄧小平氏の戦略的な外交政策の結果によるものであると指摘しました。さらにこれまで日中関係には国家主席自らが積極的に関わってきたことも指摘し、日中関係を中国が重視していることの表れであると述べました。さらに、世界的な金融危機が進展するなかで行われた今回のフォーラムはテーマとタイミングが非常に良いと評価し、アジアの経済が上昇傾向であるにも関わらずアメリカとEUに依存する現在の世界経済では、アジア経済が第三の柱になるべきであり、構造的に危機を被ってしまう現在の経済・金融システムを問題視しました。また、中国は将来的に米国との二極体制や世界的な覇権を求めることはしないと言明したうえで、小泉政権期の日中間の危機を克服する力となった本フォーラムを「トラック2」の外交として高く評価しました。
つづいて日本側から、谷垣禎一国土交通大臣が講演を行いました。このなかで谷垣大臣は、金融危機の際には「日中間の対話のパイプはほとんどなかった」と指摘し、この危機をきっかけに日中政府間のパイプが作られるようになったと述べました。そのうえで、「グローバル化のなかでどうすればいいのか、アジアは何ができるのか、高い貯蓄率をどうすれば域内投資に向けられるのかといった議論を日中間で積み重ねてきた歴史がある。このようなアジアでの協力や対話による努力が今回(の世界的な経済危機で)は実ってほしいし、このフォーラムもそれに資するものであってほしい」と述べました。さらに今後、「観光という切り口から日中の友好を進めたい」とも述べ、現在行っている”VISITJAPAN”キャンペーンによる日中相互の交流事業の発展や、日中間の航空路線のさらなる拡充を進めることを表明しました。
そして最後に「日中両国が腹を割って話し合い、自国の役割を果たしていくことが重要である」と指摘しました。
最後に劉洪才氏が講演し、「世界や日本の情勢が変化する中で、非常に深い議論ができ、今後の中日関係の発展やアジアの未来についても非常に示唆に富むものがあった」とフォーラムの成果を強調するともに、「相互理解を促進するための非常に良い対話のプラットフォームであり、私たちも堅持していきたい」と述べました。劉洪才氏は自身もパネリストとして参加した分科会「メディア対話」での議論と、両国民の相手国への印象が大きく食い違う結果となった今年の日中共同世論調査の結果に触れつつ、「将来、政府とメディアは努力して(両国民の)誤解を解く必要がある」と指摘しました。そして「誰が(日本の)首相になろうと、中日関係の方向性に変化はなく、世界情勢によってゆらぐものではない」と締めくくりました。
メイン司会者:若宮啓文氏
サブ司会者:劉江永氏
パネリスト:松本健一氏、周牧之氏、木村伊量氏、馬為公氏、山田啓二氏、唐聞生氏、福川伸次氏、袁岳氏
つづいて前日の分科会を総括するパネルディスカッションが行われ、七つの分科会の日中の司会者や中核的な参加者が登壇しました。司会は若宮啓文氏(朝日新聞コラムニスト)と劉江永氏(清華大学国際問題研究所教授)が務めました。
まず松本健一氏と周牧之氏が東京大学で開催された分科会「政治対話」の概要と内容を報告しました。そのなかで周氏はまず、昨年の北京大学での政治対話に比べて参加者数がかなり少なかったことに触れ、「原因が主催者のマネジメントにあるのならば来年から改善できるが、日本の学生が日中関係やアジアの将来について敏感でないのかもしれない。そうであれば難しい問題であり、若者がなぜ無関心なのかきちんと調査する必要性があるのではないか」と述べました。松本氏は議論の内容を簡潔に述べ、「小泉政治の問題性を再検討すべきとの意見が出た。日中関係が政府間で悪くなっていても、国益を超えていけるような政治的・文化的交流をする必要がある。それはこのフォーラムの意義でもある」としました。
次に「メディア対話」の司会を務めた木村伊量氏(朝日新聞メディア研究プロジェクトマネジャー)と馬為公氏(中国国際放送局副局長、高級編集者)が発言しました。木村氏は、議論の争点は日本人の中国に対する印象と中国人の日本人に対する印象に大きな差があることが世論調査で判明した点であったとし、「食の安全」の問題が大きな影響を与えたと指摘しました。そのうえで日中のメディアの報道姿勢にも差があり、その根本には両国民の社会正義の捉え方に違いがあるのではないかと述べました。馬氏も「食の安全」の問題に関しては日中でメディアの報道姿勢に違いがあったことに触れ、より大局的・客観的に報道する必要性があることを強調しました。
今回のフォーラムから設けられた「地方対話」からは、山田啓二氏(京都府知事)と唐聞生氏(中国宋慶齢基金会副主席、中華全国帰国華僑連合会顧問)が発言しました。山田氏は日中両国の地方対話の意義を「国家間の信頼の基礎をつくること」と位置づけ、「地方交流が暖かければ、政府間交流のセーフティネットになる」と述べました。そのうえで「地方自治体も外交プレーヤーの一員になったのではないか」「Win-Winの関係構築に貢献できるのではないか」と指摘しました。そのうえで、「中央と地方は車の両輪のようなもので、どちらかが小さければまっすぐ進めない。地方対話の役割は大きく、両国が力を尽くすべきという結論に達した」と述べました。唐聞生氏も「日中で239組の友好都市があり、地方交流の基礎はある。今後、ITや文化・観光・電子情報などの多様な面で交流を深めたい」とし、「(日中)双方の交流が深まれば相互理解も促進される」と結論づけました。
最後に「経済対話」から福川伸次氏(財団法人機械産業記念事業財団会長)と袁岳氏(零点研究コンサルティンググループ取締役社長)が発言しました。福川氏は分科会前半の議論を、「日中経済の類似性と転換、相互学習の必要性」「世界経済における日中経済の役割」「民間交流の充実の必要性」「日中間のFTAの必要性」「民間対話の充実」の5点にまとめました。袁岳氏もこれを受けて、言葉の問題などもあり、「まだ相手国を十分知らないのではないか。これまでの意思疎通が不十分だったのかもしれない」としたうえで、「交流のなかで改善の余地はある」と述べました。また来年のフォーラムに向けて「経済対話だったが企業関係者の参加は4人だった。今後は双方の投資企業の代表なども加わればよいのではないか」との希望を述べました。
松本健一氏はこれらの報告を受けて、「今後の日本がこれまでの外需拡大路線を維持できるか疑問だ」と述べ、若宮氏も「日本からすると中国や世界の経済も心配。その中でさらに金融の大不安がある」と指摘しました。最後に袁岳氏は「世界経済が不安定だが成長のロジックに大きな影響はないだろう。平均数%の成長は可能だ」との見方を示し、「(世界経済の不安は)大きな災いになると同時に、新しいものを始めるチャンスでもある」と締めくくりました。
司会:劉江永氏
パネリスト:西原正氏、金煕徳氏、小島明氏、生源寺眞一氏、宋洪遠氏
後半のセッションでは「安全保障対話」、「環境対話」、「食料対話」の各分科会の司会者や主要パネリストが登壇し、司会は劉江永氏が務めました。
まず「安全保障対話」の司会を務めた金煕徳氏(中国社会科学院日本研究所副所長)と西原正氏(財団法人平和安全保障研究所理事長)が発言しました。
金煕徳氏は「前半の伝統的な安全保障についての対話は、普通の会議では対立に陥りがちだが、今回は非常に和やかな雰囲気で進み、豊かな成果もあげることができた」と評価しました。そして軍事交流では解決できない国民感情の問題がなお残っているとしながらも、「日中間の軍事防衛協力の基礎は整いつつあり、認識ギャップをふまえ小さなところから着手していくことを合意」したと述べました。後半の非伝統的な安全保障についても、「現在の流れを追い風に構造的な改革を行うべき」と指摘し、二国間のWin-Winの関係からアメリカも含めた地域間のマルチなWin-Winの関係につなげる必要性があると強調しました。そして「今回は過去4回でもっとも成功した分科会だった。来年はもっといい議論をしたい」と締めくくりました。西原氏も「今年のフォーラムは中身の濃いものとなった印象がある」と評価した上で、人民解放軍の戦力や日中の防衛協力、北東アジアの現状認識についての差もみられたとしました。そして「防衛力」という言葉の意味合いが日中で異なることが論点となったと述べると同時に、相互の情報提供や人的交流などの建設的な提案も多くなされたとして、「今後もこのフォーラム含めいろいろな場で議論していきたい」と述べました。
つづいて「環境対話」で中国側司会を務めた程春明氏(中日友好環境保護センター副主任、研究員)が発言しました。程氏は「大変親しい雰囲気の中で、気候変動や具体的な環境協力の方向性について議論がなされた」と述べ、「日中間の環境協力は新しい段階に入り、強化していくという両国の政治的な意図が示されている。両国の戦略的互恵関係を目指すうえでも重要」としたうえで、「中日は環境分野での相互補完性が大きいということが議論された。日本には知識や法律、技術があり、中国には大きなニーズがある」と指摘しました。日本側司会の小島明氏は今回のテーマを「環境というすべての人々のセキュリティ」だったと表現しました。そのうえで「アジアは将来的に環境汚染がひどい地域になる可能性もある。日中が協力してどのように安定した発展を持続させるか、世界が注目している。やり方しだいで大きな成果が生まれ、重要なメッセージを発信できる」との期待を示し、「時代のテーマに積極的に取り組もうという意思が見えた」と評価しました。
食料分科会からは、生源寺眞一氏(東京大学大学院農学生命科学研究科長、農学部長)と宋江遠氏(農業部農村経済研究センター主任、研究員)が発言しました。生源寺氏は「(食料の安全確保について議論した前半については)日中ほぼ同じ認識を共有できた」と評価したうえで、「日中の共通の課題は良い人材の確保であり、日本では魅力的な農業経営を作ることが、中国では農業の社会的評価を上げることが重要」としました。さらに「アジアの農業構造は似通っており、共通の問題として生産性の向上に向かうことが重要だ」としました。また食料の安全保障について議論した後半部分についても「フードチェーンやトレーサビリティーの重要性、危機管理、特に病原菌によるものの管理について、共通の認識を持てた」と述べました。しかし同時に「日本も中国も食の安全の確保に取り組み始めたのはつい最近のことで、日本も相当ひどい状況にある。制度を作ってもそう簡単に事業者が応じる保証はない」とも指摘し、「情報交換と日中の連結の重要性、制度を作ったはいいが機能するのか、機能させるには何をすればいいのか」等の論点につき、非常に有益な議論交換だったと評価しました。
宋江遠氏は中国の穀物生産の状況について、「中国の主な穀物の需給は基本的にバランスし、(今後も)比較的高い自給率を維持できる。しかし食料供給の安定性の確保のために、消費構造を変えていくことを主張した」と発言しました。後半の食品の安全性についての議論においては、中国国内の検査体制を説明したうえで、「(日中間の)協力を強めることが重要で、建設的な議論を行う必要性がある。問題を解決する体制をつくれないか」と提言しました。また「ギョーザ問題」とその報道に関しては、「あまり感情的にならずに、技術・専門的な問題にしていく必要がある。専門家に聞くことで客観的な報道ができると思う」と指摘しました。
以上の報告を受けて司会の劉江永氏は「地方対話と食料対話がよかった。日本がこの分野を重要視していることがわかった。また中国側のメディア、とくにチャイナデイリーや他のメディアは非常によい企画を組んでくれた。これは日中間の戦略的互恵関係の具体的肉つきになっている」と述べ、「これからも腹を割った話し合いで、日中の関係改善に貢献していこう」と呼びかけました。
こののち、中国日報社の高岸明氏(編集委員会委員、中国日報ネット総裁)が「第4回 東京‐北京フォーラム」の共同声明を発表しました。声明では「東京‐北京フォーラム」を、近年の日中両国政府の関係改善に「決定的な役割を果たし」「民間が作った対話の舞台であっても、歴史を動かす可能性がある」ことを示した、としました。しかし同時に「両国民の相互理解や相手国のイメージはいまだに不安定で、両国関係もしっかりとした基礎固めができているわけではない」と指摘し、両国関係をより「多くの国民に支えられる重層的、多面的な関係へと発展させる必要がある」とも指摘しました。そのうえで今回のフォーラムは「両国を代表するハイレベルで知的な対話の舞台に発展し」「両国が今問われる課題に向かい合った」としました。そのうえで、これからも継続的に日中・アジアの課題を議論し発信していくことを合意したと述べ、アジアの未来をともに切り開いていく議論の場にするための覚悟を表明しました。
最後に言論NPO代表の工藤泰志が閉会のあいさつに立ち、まず日中両国からの参加者、支援企業、運営ボランティアに感謝の意を示しました。そして今回のフォーラムでは運営上の問題点がいくつかあったことを認めつつ、日中間の課題を真剣に議論する代表的な舞台に成長したことは大きな成功であるとの見方を示しました。そして、日中とアジアの未来を自分たちの手で切り開くためにはそのような真剣な議論を作る舞台が必要であるとし、それが時代の流れにようやく間に合ったことを強調しました。そして参加者・関係者全員に改めて感謝して、「第4回 東京‐北京フォーラム」は閉会しました。
2008年9月15日から17日まで開催された「第4回 東京‐北京フォーラム」では、日中両国から110名以上におよぶ各分野の有識者が参加して、日中が抱える諸課題につき多方面からの真剣な議論が展開されました。言論NPOとチャイナデイリーは「東京‐北京フォーラム」を10年間にわたり開催することで合意しており、来年の北京大会でも今回の議論をさらに発展させ、世界に発信していきます。
全体会議、各分科会および晩餐会等での議論内容は、言論NPOのホームページにて公開されています。なお、今回のフォーラムの詳細な報告書は年内に公表される予定です。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。