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宮本雄二
宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使
日中関係は現在解決の方向に向かっているが、冷静に考えれば、両国は関係改善以外に選択の道はない。グローバル経済の中で相互依存が高まる中、隣り合った大国がいがみ合っているというのは、双方にとって良いことがひとつもないからだ。よって、理性的、大局的判断をすれば、両国は仲良くならざるを得ないとかねてから思っていたが、それが双方の努力により、徐々に良い方向に戻り始めたのが今の状態であると受け止めている。
両国関係が、なぜここまで悪化してしまったかということをよく考えてみると、相手の立場や主張をどれくらい正確に理解していたかという点において、お互いに反省すべきなのではないかと私は思っている。日中のどちらか一方が悪いということではない。双方に誤解や理解不足があったということだ。日中関係悪化の最も大きな理由は、この相互理解の不十分さにある。よって、まずはこの点を改善していかなければいけないだろう。
また、前述の「隣り合った大国がいがみ合っているというのは、双方にとって良いことがひとつもない」という点、つまり「当たり前に考えれば、日中両国は仲良くしなければいけない」という「当たり前」のことを、多くの人にわかってもらえないと、結局また同じことの繰り返しになってしまう。今後はその「当たり前」をより多くの人にわかってもらう努力が大切だろう。
その点で、北京—東京フォーラムは、新しい日中の対話の場をつくったということが最も大きな役割だと思っている。このフォーラムには、今まで行われていた類似の活動と比べて、いくつかの点で大きな違いがある。
一つ目は、日中双方の「有識者」と呼ばれる、各分野で高いレベルの認識を持った方々が広範に参加をし、高いレベルでの対話が行われているという点である。二つ目は、分科会でそれぞれの分野について議論を行っているが、その結果を全て公開することで、直接的、間接的に全ての国民と対話をする形式を取っていることだ。単なる識者の意見交換会ではなく、外に発出しているという試みが今までになく、素晴らしい点である。
三つ目はこのような新たな試みをすることで、日中の対話に今まで参加していなかった人、とりわけ日本の社会で、今まで中国との対話に縁がなかった人が機会を与えられて参加をしたことで、日中対話の基礎が拡充強化された点である。日中双方が率直に意見を交わすというルールは当初から変わっておらず、さまざまな問題があったにもかかわらず守り通したという点も評価できる。
このフォーラムもすでに今年で開催11回目を迎える。10年を一期とするならば、今年は2期目で最初の開催ということになる。1972年の日中国交正常化以来、最悪と言われてきた日中関係を経験したのち、ようやく将来への展望が開けてきた今年が新しい10年のスタートとなったのは大いに意味があることだ。
これから先の10年をさらに大きく展望する最初の場が、まさに今年のフォーラムと言えるだろう。将来、日中両国がいかにして建設的な関係をつくっていくことができるのか、また、その環境を整えるためにわれわれはどのような未来をつくろうとしているのかというテーマをもって、日中双方の夢を語り、その夢をどう実現していこうかという大きな枠組みを議論する上で、今年のフォーラムは大きな意義を持っている。
また、今年から中国側のパートナーが外文局となった。このような大きく強い組織をパートナーに得たというのは、心強い変化である。これを踏まえ、今年のフォーラムが、次の10年をさらにより良く発展させる第一歩になることを期待している。
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