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場所:日本財団ビル 2階 会議室
言論NPOは10月4日、北京で8月23日に中国のチャイナディリーと北京大学と共同で開催した第一回「北京・東京フォーラム」の報告会を日本財団ビルで開催しました。
北京―東京フォーラムには全体会議と政治、経済、メディアの3分科会に日本側から17人の各界の有識者が参加しましたが、今回の報告会にはそのうち分科会の座長の9氏などが出席し、フォーラムの議論内容についての報告が行われ、会場に集まった約100人の参加者と意見交換を行いました。
報告会ではまず経済分科会の総合司会を務めた安斎隆氏アイワイバンク銀行社長が、フォーラムの背景と目的について説明を行いました。安斎氏は今回のフォーラムは世論調査を元に日中間で質の高い本音での議論を今後10年間行うこれまでにない試みであり、議論に実際に参加して、悪化しつつある日中関係を改善し、アジアの将来を作り出す民間主導の新しい議論のプラットフォームが実現する手応えを強く感じたと述べました。
次にフォーラムでは政治分科会に加わった横山禎徳氏社会システムデザイナーが、スライドを使って主な参加者のエピソードを紹介しながらフォーラムの様子を報告し、世論調査の結果が予想以上に悪かったことが、参加者の意識を引き締め、全体的に議論は活気に満ちていたことを指摘しました。
また、フォーラムには従来から日中関係の議論に携わっている中国の「ジャパン・スクール」、日本の「チャイナ・スクール」の他に、新たに日中間の議論に加わった人たちが多く、こうした人たちの役割が議論では重要であり、従来の日中関係者だけが議論する時代ではなくなったと指摘しました。また「日中友好」ではなく、「日中相互尊重」こそが大切であり、本音の議論を今後10年間積み重ねることで、「仲が良いから喧嘩をしない」ではなく、「喧嘩ができるだけ仲が良い」関係こそを築いていくべきであると提案しました。
次に、言論NPOの工藤泰志代表が、日中世論調査の報告を行いました。調査の結果、両国民は互いを重要な相手と認めながらも、相互には大きな認識やコミュニケーション・ギャップだけではなく、無理解が拡大し、それが感情的な対立の背景になっていること、また相手国への渡航経験が1%未満であり、両国間で直接の交流が立ち遅れているなかで、メディアの情報がそうした理解不足の原因の一つともなっているなどと報告しました。
北京では基調講演を行った小島明氏(日本経済研究センター会長 日本経済新聞論説顧問)がその後登壇し、フォーラムには中国側のメディアが多数参加し、議論の内容は国内外に報道されたが、こうした現象は近年なかったことである、中国側メディアの好意的な姿勢のおかげで、日中関係の悪化を食い止めようとする雰囲気が会場に生まれ、両国の関係改善を行うのは政府だけではなく、民間で取り組まなければいけないとの思いを強くしたと述べました。
こうした挨拶の後に、フォーラムの政治・経済・メディアに分かれた各分科会の内容についての各分科会の座長が舞台に上がり、座談会方式で報告が行われました。
まず、政治分科会の座長を務めた溝口善兵衛氏(国際金融情報センター理事長 前財務省財務官)が政治分科会の報告を行いました。まず、分科会の議論は世論調査の結果をどう評価するか、その結果の原因は何か、今後どうすればいいのかという3点であったと述べました。同氏は世論調査の結果について、参加者間で互いに対して悪感情を抱いている事態の深刻さについて意見が一致したこと、報道の仕方に問題があるとの意見や、国をリードする立場の人達がより一層わかりやすいメッセージを発信するべきだとの意見が出され、また今後については、具体的なアクション・プランを提示するために議論を続ける必要があるとの提案がなされたことを報告しました。また日本側の参加者からは「こんなに率直な意見交換をしたことがない」という感想が出されるなど、分科会では本音の意見交換が可能であった様子を報告しました。
次に、経済分科会の座長を務めた渡辺正太郎氏(経済同友会副代表幹事・専務理事)が経済分科会の報告を行いました。同氏は、分科会の参加者全員が両国が連携することの重要性を認めたことを指摘し、その上で中国側の経済状況について、新五カ年計画が始まるターニングポイントに来ていること、農村・都市部の格差是正、9%成長のための雇用創出、国有企業の不良債権問題等について議論が行われたことを報告しました。また、日本側から中国経済界の「ルールの透明化」を求め、市場化を通しての成熟を要求する声があったこと、日本は過去10年間に低成長が続き、高齢化を迎え、成熟社会に向かおうとしており、国内ではある種の「イライラ感」が漂い、海外からは保守的に見えると説明があったこと、中国側が懸念する軍国化は、一部の人の発言に見受けられるだけで、国民全体の傾向ではないと説明があったことなどを報告しました。また、日本の経済はまだそれほど弱くはなく、日中が相互に尊重し合えば互いの成長に寄与できると述べました。
次に、メディアと文化分科会の座長を務めた木村伊量氏(前朝日新聞東京本社編集局長)が、報告を行いました。同氏は、中国側から中国メディアは日本人のマイナス面だけを強調してイメージを作り上げる傾向があったなどの発言があるなど、分科会では予想以上に率直な意見交換が行われたことを報告しました。しかし、サッカー場における反日ムードを日本のメディアが繰り返し放映することについて、中国側は、日本メディアが意図的に放映していると認識しているのに対し、日本側はメディアの特性として捉えているなど、認識のギャップが明らかになったことを報告しました。また、情報媒体としてのインターネットの役割やそれに対する考え方などで議論はあったが、より深められた議論には至らなかったと報告をしました。
これらの報告の後に、他のフォーラム参加者の発言も交えて意見交換が行われ、次に中国側コーディネーターである周牧之氏(東京経済大学経済学部助教授)が、フォーラムの成功要因について、裏話も交えて報告を行いました。同氏は、このフォーラムの原動力は両国の関係悪化に対する「危機感」があったとし、関係改善のために、政府やメディアの実際の当事者などこれまで日中の議論に加わってこなかった新しい人々をパネラーに登場させることで今までとは違う「かみ合う」議論を生み出すことができたこと、このための人集めも、当初は難しいと思ったが、意外にも多くの人の賛同を得ることができたことを報告しました。
質疑応答のコーナーでは、一般参加者の質問も多く寄せられ、予定の時間を大幅に超え、言論NPOによる新プラットフォームへの期待の大きさが感じられました。
最後にフォーラムで基調講演を行った福川伸次氏(電通顧問、元通産省次官)が今後10年間で実り豊かな成果を導き、多層的な交流を活性化させるため、来年の東京開催を成功させたいと挨拶を行い、閉会となりました。
次回の東京-北京フォーラムは06年8月末に東京で行われることが決まっており、言論NPOは本音で語れる日中の議論の舞台つくりを更に成功させるために、準備に取り掛かることになります。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。