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「第10回東京-北京フォーラム」全体会議

 

 「北東アジアの平和と日中両国の責任」をメインテーマに28日から行われていた「第10回 東京-北京フォーラム」は29日に最終日を迎えました。最終日は基調講演と分科会報告からなる全体会議を行い、最後に「東京コンセンサス」を提唱して閉幕しました。

武藤敏郎氏

 日本側基調講演として武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長、元日本銀行副総裁)が登壇しました。武藤氏はまず、尖閣問題など政治・外交関係の悪化の結果、日中経済関係も貿易の停滞や投資の減少など悪影響を受けていると指摘した上で、「これまで日中経済は国際分業により相互補完関係にあったが、現在、これがさらに進展できるかどうかの岐路に立っている」と述べました。

 続けて、「日本はアベノミクスの第3の矢、成長戦略が正念場を迎え、中国も高度成長を脱し、『新常態』へと移行するなど成長パターンに変化が生じてきている」と語り、その変化の中で新たな日中協力のチャンスが生まれてくると語りました。

 具体的には、アメリカのテーパリングや中国のシャドーバンキングなどが世界経済に及ぼす影響を抑えるための協力や、日中韓FTA・RCEPなどの多国間の自由貿易協定。さらに、高齢化を乗り越えるための社会保障政策やPM2.5などの環境問題など「日中が協力できる分野は無数にある」と述べました。

 さらに、武藤氏は、日本人自身の課題として、「2020年を機に、国際協力に対して積極的なマインドを持つ日本人を養成し、彼らをベースとしてアジア、世界と協力していく」と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の事務総長ならではの視点を提示しました。

 最後に武藤氏は、「東京-北京フォーラム」の「次の10年」について、「『これまでの10年』は、いかに中国が経済発展するか、そのために日中の相互補完関係をいかにしてつくるか、が課題だった。しかし、『次の10年』は、『新しい成長パターンの構築』という日中共通の課題に取り組みながら新しい互恵関係を模索していくべき」と提案しました。その上で、「日中両国は共にアジアの大国として責任ある行動が求められているが、そのためには政府だけではなく、民間の役割も重要。このフォーラムはその旗手となるべき」と述べて、基調講演を終えました。

 

魏建国氏

 続いて登壇した、魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)は、「日中経済にはネガティブなマインドが蔓延し、相互補完関係からライバル関係になってしまうのではないか、という悲観的な見方が増えてきているが、私はそうは思わない。むしろ日中経済はこれから『黄金の時代』を迎える」と主張しました。

 その根拠として魏氏は、「過去20年の日中経済関係は、単なる貿易や一方通行の投資などいわば『初期レベル』のものでしかなかった。しかし、それがモノの貿易から金融、サービスの貿易などグレードアップし、よりハイエンドになっていく」ことを指摘しました。その背景として、両国ともに経済の構造調整を進めており、より成熟した経済環境になろうとしていることや、協力可能な分野が広がり、企業にとって大きなポテンシャルがあること、中国に膨大な中産階級がこれから誕生することによって、市場の質の向上が期待されることなどを挙げました。

 その上で魏氏は、「悲観的に将来を展望するのではなく、『今』をしっかりと見据えていくべき」と語り、「例えば、日中韓FTAや海洋開発、さらに環境問題や観光など着手しやすい分野で協力を推し進めていくべきだ」と呼びかけました。

 

宮本雄二氏

 続いて登壇した宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)の基調講演は、「次の10年」において、どのような対話をするか、という「東京-北京フォーラム」の将来がテーマとなりました。宮本氏は、現在の日中関係について、第10回日中共同世論調査結果を引用しながら、「両国民は日中関係を重要であると思っているが、『なぜ重要なのか』は明確に分かっていない」と指摘し、この現状を「漂う日中関係」と表現しました。

 宮本氏はさらに、「現代の外交は世論に支えられる必要があるが、その世論は感情が先走り、理性的に考えることができていない」と指摘。その上で、「『世論』ではなく、理性的に議論されてつくられる意見である『輿論』をベースとして、より多くの国民が日中関係について考える必要がある。なぜなら、日中関係は国民自身の問題なのだから」と聴衆に対して熱く語りかけました。

 続けて宮本氏は、鄧小平による改革・開放政策を象徴するキーワードであり、事実に即して物事の真相を探求することを意味する「実事求是」の重要性について言及し、「世論調査で客観的に現状を把握してから議論するこの「東京-北京フォーラム」はまさに『実事求是』を体現している」と述べ、これまでの対話を高く評価。その上で、「次の10年」の対話のあり方について、「政府は慎重に動かざるを得ないが、民間は自由な発想で、大胆に課題解決に取り組むことができる。我々民間は何でも試してみて、うまくいきそうなものをどんどん政府に提案していく。『次の10年』では、そういう『課題解決型』のアプローチを言論の力、輿論の力で進めていこう」と呼びかけました。

 

呉建民氏

 最後に基調講演に臨んだ呉建民氏(国家イノベーション・発展戦略研究会常務副会長)は、1972年の国交正常化以来、日中関係は最も厳しい状況にあることを指摘した上で、「日中関係には困難はあるが、『方法』も『希望』もある」と述べました。

 呉氏はまず、「方法」として、「人と人との交流」が国と国との関係の基礎にあると述べた上で、「政府間でどのような困難があっても、人々の交流を途絶させてはならない」と主張しました。また、魏建国氏と同様に、様々な分野で協力を進めていくことも重要な「方法」になるとの認識を示しました。

 さらに呉氏は、28日の全体会議基調講演での福田康夫氏(元内閣総理大臣)の「外交に勝ち負けはない」という言葉を引用しながら、大局的な観点からWin-Win関係を追及していくように発想を転換していくことの重要性を説きました。

 呉氏は「希望」についてはまず、11月のAPECでの日中首脳会談実現に向けた交渉や、東シナ海における海上連絡メカニズム構築に向けた協議が始まるなど、政府間関係が動き始めていることを挙げました。

 続けて、「この『東京-北京フォーラム』そのものも日中間の大きな『希望』である」と述べました。また、呉氏は外交官としての自身の経験を振り返りながら、冷戦時に旧ソ連と対話をすることに非常に苦労したエピソードを披露。それに比べて「日中間にはすでに『東京-北京フォーラム』という対話の場があり、両国政府も非常に重視している。28日の全体会議基調講演で岸田文雄外務大臣が『このフォーラムを通じて日中関係を改善したい』と述べていたことがその何よりの証だ」と主張しました。

 最後に呉氏は、イギリスの詩人の「冬が来れば、すぐに春が来る」という詩を引用しながら、「日中間の春も遠くないと確信している。そのように前向きな気持ちでいれば『次の10年』の対話もさらに発展できる」と述べ、基調講演を締めくくりました。

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「第10回東京-北京フォーラム」全体会議

 

 29日の全体会議後に行われた分科会報告では、政治、経済、安全保障、メディアの各分科会から日中の代表がそれぞれ対話の内容について説明しました。

川口順子氏

 「東アジアの平和と政治の信頼」をテーマとした政治対話については、日本側の司会を務めた川口順子・元外相が報告しました。川口氏は①日中はそれぞれどのような国になろうとしているのか②そのビジョンに向かって、どのように協力関係を結んでいけるのか、といったサブテーマを設け、大所高所から未来志向の話し合いがキーワードとなった旨、報告しました。その答えとして川口氏は、趙氏の「日中とも、お互いに良き隣人でありたい。そのためには相手を理解し、自分を伝える努力をもっとすべきで、交流、コミュニケーションを止めてはいけない」という言葉を紹介しました。

 自国の将来像について、中国側は、米国とのG2といった大国主義はとらず、豊かで調和のとれた国を目指すとし、日本側は、歴史に謙虚に学ぶ国、戦後70年の平和の道を今後も継続することを目指すとの声が挙がりました。一方、中国は日本に対して平和憲法を破棄し、中国を封じ込めようとしている、平和継続の約束は本当か、との疑いを持ち、日本は中国に対して平和を愛すると言いながら軍拡し、国際法を守ろうとしているのか、といった疑惑の目を向けていると、自国と相手国の間の認識のズレを指摘しました。こうした認識のギャップは1ミリも埋まらなかった、と川口氏は正直に認め、政治対話の難しさを窺わせました。

 

楊伯江氏

 中国側の楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所副所長)は「中日はともに東アジアの国であり、隣国は引越し出来ない。これからも平和に付き合い、話し合いを通じてお互いの意見の食い違いを解決していくのが重要だ」と話しました。日中が抱える課題の背景は複雑なだけに、冷静に対話を続けていかなければならず、そのためにも良い環境を作らなければならないと指摘。国同士の交流から社会、普通の人々の交流を深めていくべきで、その好例が「東京-北京フォーラム」だと指摘し、このフォーラムの意義について語りました。



 

山口廣秀氏

 経済対話は日本側から山口廣秀氏(日興フィナンシャル・インテリジェンス理事長)が登壇し、次の10年の対話につながる試みとして、前半は日中のマクロ的な持続的成長に向けた取り組みについて話し合い、後半は持続可能な経済発展に向けた日中の協力について踏み込んだ議論が出来た、と話しました。マクロ的には中国経済の構造問題で、シャドーバンキング、人民元の国際化を含む金融自由化の2点について討議され、高度成長から安定成長への移行をどのようにとらえ、投資主導から個人主導の経済へいかに転換していくのかが論議されました。中国側からは、中国にとって一層の金融自由化は避けられず、上海自由貿易試験区の取り組みを例に、日本の経験を参考に金融改革をスピードアップしていく、との認識が示されました。

 日本経済が構造改革を求められているのは中国と同様であり、国際収支構造の変化、経常収支の赤字をどう考え、高い付加価値製品をどのように増やし、海外からの投資収益をどう増やすかが指摘され、日本から中国への直接投資の減少が焦点になりました。ここでは日中間の政治問題が原因という話があったものの、政治だけが原因とは断定出来ない、企業行動の背景にある実体的な要素も考えるべきだ、という話が出たことを報告しました。

 日中協力では、大気、水質汚染などの環境、エネルギー、インフラ整備、アジア・インフラ投資銀行への対応など多岐にわたって、具体的な議論が交わされ、特に環境問題では中国が日本の経験を生かせばWin-Winの関係が作れる、との認識を示し、日中とも構造問題への認識を共有しながら、相互補完関係を超えたWin-Winの関係になり、アジア経済、世界経済へ貢献していくことが重要である、という点で一致しました。

 

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 晋林波・中国国際問題研究院研究員は、フォーラムへの参加は初めてだったが、日中双方の経済分野の共通点、共通認識は自分の想像をはるかに超えるレベルだった、と話しました。中国の経済改革の決意と力の入れ具合は、改革開放以来、最大のものであり、周近平国家主席が会長であり、社長であり、責任者であることを見てもわかると強調。また、中国の経済成長率に対する政府のスタンスは以前と変わり、8%以下では雇用が確保できず、社会不安を招きかねないとしていたのが、今は7.5%の成長率であり、今後はこれを下回るかもしれない。しかし、統計を見ると、失業率は増えず、逆に雇用は増えており、中国の経済改革は良い循環の初期段階に入っているとも言えるとの認識を示し、これまでのGDPなど規模、量を求める経済から質を追及する経済になっていると分析しました。

 日本も安倍政権の下で、経済改革を進めているが、日中の相互補完関係はこれからも続き、今後は単なる投資からサービス業、金融面へ拡大して黄金期を迎えるのではないか、と語りました。「FTA、RCEPなどの地域統合、環境保全、原子力、人的交流と協力の幅は広いと話し合ったが、新しい分野では、中国では病院と患者の摩擦が実は多く、健康や医療面では日本にもポテンシャルがあると思う。また、中日韓のFTAで、日本は消極的ではないか。より積極的に対処してほしい」との要望が出されました。

 

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 安全保障対話では、元中国大使でフォーラムの副実行委員長でもある宮本雄二氏が報告しました。対話の前半では、北東アジアの状況と危機管理に重点を置き、「どうしたらこの地域に平和をもたらすことが出来るのか、安全保障の観点から平和構築について議論した」加えて、「双方が抱えている現状認識、いま何をなすべきか、という点では差異はほとんどなかった」ことも指摘しました。中国側から出された尖閣諸島問題については、「尖閣周辺は現実に双方の船団、航空機は控えていても比較的安全であるが、その他の海域では日常的に接触がある。直ちに解決できるものではなく、危機管理が必要である」との指摘があったことを示しました。

 危機管理については上のレベル、その下、そして現場の3段階があり、「ホットラインなどの制度が出来ても活用できるのか、ルールが出来ても現場はそれを守れるのか、との疑問が指摘され、海上連絡メカニズムの協議の開始は強い支持と高い期待があるが、全体の地域をどう扱うのかという問題については、既存のシステムをどう使い、どう使っていくのか、という2つの側面がある。軍事安全保障の面でもまだ協力出来ることがあり、対話ではまだ足りないとも感じ、セカンドトラックを含め、さらに安全保障対話が深まる必要がある」と感じたことを述べました。

 

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 中国側は張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術審議評価委員会主席)が、安全保障メカニズムを作る上で①領土②海洋研究③核不拡散④シーレーン問題の4つの課題を指摘し、「それぞれ意見の違いはあるが、共通の利益のある分野だという認識は共通している」と指摘しました。またこの地域では、中・日・米・ロシアがお互いに安定した関係を作ることが、北東アジアの安全保障において重要であり、大国は責任を持つが、おごってはならないとの態度を示しました。

 

 

 

 

 

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 最後のメディア対話では、高原明生氏(東大大学院教授)が今回の世論調査の結果についてどう判断するか、またそれを踏まえてどのような協力を進めるのかが話し合われたと紹介。中国側から中国有識者の見方が厳しくなっている、という報告があり、例年は学生を中心に調査しているのを、今回は新たに専門家にも聞いており、それが理由だろう、という結論だったことを報告しました。

 また、今後10年、どういう質問内容にするか確認が必要という点でも共通の見解を得た。さらに中国は日本の歴史問題に関連するもの、日本は餃子事件のように生活に関連するものといったように、日中では社会が注目するニュースが異なるとの指摘については、「今後、両国のメディアが同じテーマで取材したり、同じ番組を作っていくことが有効ではないか」という提案があったことを紹介しました。共同シンポジウム開催、社会交流が進み周囲に中国人がいることがプラス要因になることは調査結果に出ている。これを促進するために具体的なプラットフォームとして恒常的な舞台、日本の国際交流基金のようなものを中国側に作ってはどうか、という話も出たとの報告がなされました。



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 一方、中国側の王衆一氏(「人民中国」誌総編集長)は、日本の大衆の対中好感度が継続的に減少しているのは、日本のメディア・出版界が対中の悪い面を伝えようと偏っているからであり、その点、中国は比較的均衡がとれている、と指摘しました。中国の発展は日本に貢献するだけに、国際的に警戒感を呼び起こすような行為はやめた方がいいと話し、客観報道については、一部分の事実が全体の真実を覆い隠してしまい、それが偏見報道になる、との指摘もあったことを報告しました。

 分科会報告終了後、代表の工藤が「日中両国が歩み寄り、両国の主脳会談が早急に行われるよう、積極的に環境づくりを行うこと」、「海洋事務のハイレベル協議が早期に成果を収めることを期待すること」、「民間のプラットフォームを通じて、質の高い対話を展開し、かつ提案を行っていくこと」の3項目をもとに、次の10年も引き続き「東京-北京フォーラム」を開催していくことを盛り込んだ「東京コンセンサス」を発表しました。

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 「東京コンセンサス」発表後、工藤が閉会のあいさつに立ち、「10年前、この対話を実現させたいと中国に向かった時、当時、厳しい状況にあった日中関係を一体、誰が改善出来るのか、国交が途絶えた中、誰がその事態を立て直せるのかという問題意識があった。この対話が北京で立ち上がったのは奇跡であり、趙啓正さんをはじめとした人たちの力がなければ、対話は成立しなかった。

 それから10年、両国民の相互理解や政府の関係改善に大きな成果を果たしたわけではないが、当初抱いていた「誰がこの厳しい状況を改善できるのか」との問題についての答えを、私はようやく見つけた。それは、私たち自身だということだ。

 過去10年の間、多くの仲間を得、日中間にこうした議論の舞台が出来上がった。これは未来への財産だと思う。この財産を次の10年に広げ、さらに多くの役割を果たせないか。その始まりが今日だ」と、新たな10年に向けての決意を力強く述べ、2日間にわたって開催された「第10回 東京-北京フォーラム」は閉幕しました。

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