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安全保障対話③(前半:討論2)

若宮氏:

 白石さん。

白石 隆氏(政策研究大学院大学客員教授)

 2点申し上げます。
 1点目ですが、2025年くらいになると中国の経済規模が日本の4倍になるという日本経済研究センターの計算があります。購買力平価というものがありますが、これは非常に面白いと思っています。中国が台頭すれば東アジアの秩序は変わっていかざるを得ないものの、これが革命的に変わるのはいかなる国にとっても利益ではありません。進化するように促していくのはどの国にとっても重要なことではないでしょうか。

 最も重要なのは予測可能性を少しでも上げることです。何かがラディカルに変わるとだれかが思うと本当に変わるし、変わらないと思えばそれを前提に動くので変わりません。日米同盟のメリットはまさにそこにあります。ワシントンでは前方展開戦略を見直し、オフショアバランシングに転換した方が良いのではないかという議論があります。これはグアムのラインまで引き下がり、日本が中国ロシアとバランス出来るようにしようというものです。私はこれを一番心配しています。日米同盟というのはなくなったときどうなるのかを考えておかなければなりません。もうひとつ、中国の対外政策については日本人にも政府にも安心感があると思います。中国の目的は現在の安定的な発展を持続させるようにすることだろうと、そのような予測可能性が高いわけです。その意味で日中関係では、それぞれの国が長期の予測可能性を高めることが期待されます。

 2点目は、経済連携が発展したということです。しかし同時に地下経済も連携します。そういう中で麻薬・密輸・武器・人身売買などが起こり、多くの国はこれをコントロールすることが出来ません。東アジアにおける地域協力の中でも議論されてきませんでしたが、ここでは協力できるでしょう。人身売買は数万人の犠牲者を出し、マネーロンダリングも大きな問題です。これらをきちんとコントロールして犯罪が起きないようにすることは、全ての人の利益に適います。それから人間の安全保障についての研究協力、その先の協力を行える時代なのではないでしょうか。新型インフルエンザ問題などがそうです。これまではASEANがやって日本がそれに加わる形でしたが、中国・韓国・日本・シンガポールなどがお金を出し合い、具体的なところで協力する、そのようなことが出始めているのではないでしょうか。以上です。

劉氏:

 ありがとうございました。次は王さんです。

王 錦思氏(北京大学・中日コミュニケーションセンター常務理事)

 まず軍国主義についての話がありましたが、これは日中関係だけでなく台湾問題にも関係があります。確かに靖国参拝問題など、歴史問題は直視すべきです。しかし日本を軍国主義だと考えているのはごく一部の中国人であり、私もそれを知っています。中国政府の認識としては軍国主義ではないと考えていますが、民間人はそうではありません。また日本の意識も統一されているとはいえず、日米同盟も追従だと考えている人が少なくありません。

 中国は日本の立場を尊重していますが、日本の常任理事国入りについて言うと、日本は非常任理事国になった回数が最も多い。新しく常任理事国に入るとすれば日本だという考えはありましたが、歴史や領土問題について懸念している人が少なくありません。70年代の中日関係は良好で、当時は高倉健のような男性と結婚したいという人がたくさんいました。それから少し遠ざかるようになったものの、憎しみの感情はないと思います。

 中日両国が手を携えて共に進むことが大切です。中国では愛国主義の教育が行われていますが、これはかつて大いに国を傷付けられたからです。今後の関係が20年前くらいになるように努力したいですね。日中戦争だけはないよう、ここ数十年に目を向けましょう。それが1972年の交流の証です。以上です。

若宮氏:

どうもありがとうございました。先週から「周恩来と日本」という写真展が早稲田大学で行われていますが、その記念シンポジウムで大変感銘を受けました。
山口さん、何かありますか。

山口 昇氏(防衛大学校総合安全保障研究科教授、元陸上自衛隊陸将)

 昨年の12月に制服を脱ぎ、4月から教授をやっています。
国連の活動や人権活動についてですが、明石氏が言ったように人民解放軍と自衛隊はPKOで同期生です。しかしその後日本は劣等生になりました。他方で人民解放軍には犠牲者が出ており、それに対して弔意と敬意を表します。自衛隊は犠牲者を出していませんが、それは人数や場所を選んできたということもあります。中国に学ぶためにはそれなりのリスクがあると腹を据える必要があります。新型インフルエンザなどでも日本が持っている力は活用することが出来ますし、自衛隊と人民解放軍が政府・非政府ともに協力してやっていけるのではないでしょうか。インフルエンザについては東アジアが感染症の対象地域になることが考えられ、そのときはそれぞれの長所を発揮することを考えるべきです。自衛隊は大型のヘリの保有数が世界2位であり、これは四川大地震のような時に役立ちます。

 核の廃絶について、オバマ大統領の発言は千載一遇のチャンスとなることでしょう。日中においては北朝鮮の非核化が重要で、これが世界全体を勇気づけることになります。NPTは来年見直しが行われますが、これによってより効果的なものになるか骨抜きになるのか、岐路に立っています。その意味で、折に触れて日本の核武装について疑念が抱かれますが、現在の日本の姿勢そのものが世界中の動きにとってモラルサポートにはなっています。少なくとも中国自身の抑止力が無くなることは中国にとって受け入れられないでしょうし、アメリカにとっても日本への核の拡大が抑止されなくなると厳しくなります。本当に厳しい話ですが、抑止という戦略的なことについてもそろそろ話を始めるべきではないでしょうか。以上です。

藤田氏:

 李さんから出たのは「勝俣レポート」の話だったのでしょう。安全保障については来年まで時間を掛けてやるという話になっていますが、その背景には勝俣レポートの見直しもあります。その中身自体も新政権では見直していくので、これは民主党政権の話に直接は結びつきません。MDや敵基地攻撃論、拡大抑止についてはそういう背景があります。
 歴史の見直しについても、鳩山さん、小沢さん、岡田さんに関しては日中・歴史・外交についてだいたい一致していると見て貰っていいでしょう。

呉氏:

 先ほどのパネリストの発言について自分の感想を述べます。まず、核軍縮について方向性は同じだと思いますし、核保有国は使用しないことを約束して欲しいと思います。また開発の大国は核軍縮でも先頭に立つべきでしょう。そして、核拡散防止への協力を期待したいと思います。
東アジアについては主導権争いの議論はメディアの責任であると思います。彼らには不一致を探し出して問題にする傾向がありますが、十数の国々が努力しなければならない以上、その相違を棚上げにしないといけません。
 一つの方法として、ASEANプラス3としてASEANプラス6に対抗すると言われていますが、それはあり得ません。どちらにも双方が入っていますし、新たな3カ国の加盟国は中国と良い関係にあります。新しい民主党政権は東アジア共同体ということで一致していますが、具体的な方法については手探りの状態であると感じました。以上です。

劉氏:

 これで休憩に入ります。

親カテゴリ: 2009年 第5回
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