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後半の対話では、冒頭で神保氏が「前半の対話で互いの安保政策についての理解が深まったと思うので、それを踏まえて今後どのような協力が可能なのか考えていきたい」とした上で、基調報告を行いました。
その中で神保氏はまず、安全保障の本質として「自分の価値を守る」ということの他に、「互いの価値を増進していく」という側面があることを指摘。そのためには「危機管理」と「相互協力」という2つのメカニズムが必要であり、「これが安全保障にビルトインされていれば政治や外交関係が停滞していても大きな問題は生じない」と語りました。神保氏はさらに、2013年の「第9回 東京-北京フォーラム」で合意した「不戦の誓い」をいかにしてメカニズム化していくかも「日中両国の安保の専門家にとっての課題になる」と述べました。
その上で、神保氏はすべての大前提として、「信頼醸成」の重要性を指摘し、そのためには「透明性の向上」と「交流の拡大」が不可欠との見方を示しました。前者の透明性については、中国の国防白書の記述が乏しく、データの掲載量も減少していることを指摘した上で、「大国としてふさわしい透明性を増進すべき」と注文を付けました。「交流の拡大」については、米中間では昨年だけで60項目を超える軍同士の交流があることなどを紹介した上で、日中間でも同様の交流を進めていくべきと提言しました。
その後、神保氏は2つのメカニズムについての具体的な提言に入りました。まず、「危機管理のメカニズム」に関連して、日中の緊張状態は、2013年1月のレーダー照射事件や、昨年5月の戦闘機異常接近事件などの頃からは「比較的落ち着いてきている」と評価。ただ、何が危険なのかという定義を一致させた上で、行動規範を確立し、ホットラインを軍レベル、政治レベルで作ることは依然として重要な課題であると指摘しました。
「相互協力のメカニズム」については、神保氏は「非伝統的安全保障分野」での協力促進を提言し、その具体例として「アジアにおける災害対応」を挙げました。その他にも「南シナ海での海洋安全保障の分野での協力」などにおいても、「日中協力の可能性は大きい」と語りました。
続いて、中国側の基調報告に臨んだ朱成虎氏は、神保氏が指摘した日中協力関係の重要性に同意。しかし、それが遅々として進んでいない背景には、信頼関係の欠如とともに、「日中間に色々な誤解や認識の相違がある」と分析しました。その中で、朱氏は中国側には先日発表された「第11回日中共同世論調査」結果にも見られたように、日本を根拠なく「軍国主義」の国であると考える中国人が多いことや、逆に、日本人の中には中国が日本をターゲットとして軍事拡張をしていると危惧する声が多かったり、武力で現状変更をしようとしていると思っている人が多いなど、「日本側も大きな誤解している」と指摘しました。そして、その他にも軍事的透明性や防空識別圏に関する認識のギャップも課題として挙げました。
その上で朱氏は、「誤解やギャップを解消するためにはやはり対話のメカニズムが必要だ」と語り、そこでは「簡単なものから難しいものへ、多国間から2国間へ、急務なものからそんなに急務ではないものへ、危機管理から協力へ」というように徐々にレベルを上げていくことがポイントになるとの見方を示しました。それに加えて、「2国間のワークショップを構築して、安全分野の協力の優先順位を決めること」や「防衛領域における交流促進」を通じて、相互協力が徐々に可能になっていくと主張しました。
この朱氏の日中間の誤解の存在や対話の重要性に関する指摘に対しては、張沱生氏も全面的に同意。安全保障問題はセンシティブな問題であるが、だからといって対話再開が遅れてよい理由にはならないと指摘した上で、「まずは危機管理メカニズムに関する協議再開が急務だ。そこが再開すれば徐々に非伝統的安全保障やPKOなどについての協力も動き出す」と訴えました。
姚雲竹氏は、現段階では日中両国の安全保障上の利益に関する認識が真逆であることや、国民世論の状況などから、「防衛当局同士の対話には期待できない」とやや悲観的な見方を示しました。ただ、そのような色々な制約がある分、これから上がっていく潜在力はあると述べ、「中米間でできるのでれば、日中間でもそこまでいくことができれば」と語り、そこからPKOや海上交通路の安全確保など色々な安全保障分野での協力につなげていくことへの期待を寄せました。
小野田氏は安全保障分野での協力は容易ではないとしつつも、マレーシア航空機不明事件においては、日中がうまく協力して対応したことを引き合いに出し、「協力拡大のポテンシャルはある。それを引き出すためには平素からの交流が大事だ」と指摘しました。
一方、香田氏は「誤解と言うが中国自身の自己評価と、日本に限らず他国からの評価にはしばしばギャップがあるのが現実だ。また、国際法について独自に解釈をすることも他国との緊張を生む大きな要因なのではないか」と批判し、「そういう姿勢を見直していくことも必要だ」と忠告しました。
徳地氏も、「軍事的な透明性について、大国としてふさわしいものを出していかないと、他国との相互理解や協力は進まないのではないか」と指摘しました。
続いて、前半のセッションに引き続き、中国側から日本側へ質問が投げかけられました。
黄仁偉氏はまず、「日本国内では中国脅威論を煽るような書籍が売れている。これは日本世論の対中認識形成に悪影響を与えていないのか」と問いかけると、小野田氏もその現状に懸念を示し、理性的な言説によって世論に対して「切々と説いていくしかない」と有識者の果たすべき責任を説きました。
また、黄氏が日本の防衛政策が与那国島など南西諸島へと比重をシフトしてきている意図について、「これは中国を意識したものなのか」と尋ねると、小野田氏はまず、「鹿児島から与那国までは本州と同じくらいの広い海域になっているが、今まではこの領域に対する防衛力の配備がなされていなかった。その分を埋めているにすぎない」と説明。すると、香田氏も「台湾有事に対応するためとしては人数が少なすぎる」と述べました。
徳地氏は日本特有の事情として離島が多いことを挙げ、「ここでの災害対応や緊急患者輸送など民生上の要請に対応する必要がある」と別の視点から自衛隊配備の必要性を指摘。その上で、「こういったノウハウの蓄積は非伝統的安全保障での協力にも資するものだ」と理解を求めました。
続いて、楊毅氏は、日本とアメリカが共同で島嶼への上陸演習をしたことについて、「これは何を想定しているのか」と説明を求めました。
これに対し香田氏は、「日本がそのような上陸作戦機能をもつということは、2000年までは完全に禁止だった。なぜなら上陸作戦というのは外国への侵略に結びつくから」とした上で、「その状況を変えたのがやはり尖閣だった」と本音で答えました。香田氏は「上陸作戦とはどういうものか、ノウハウがまったくない。そこで熟知している米海兵隊と共同で訓練をした。ただ、これは先手を打つような性質のものではなく、専ら『取り返し』のみの防御的なものだ」と解説しました。
この尖閣について、東郷氏は「尖閣は日中関係に刺さった棘である」との認識を示した上で、日中関係の長期、健全な発展のために「1972年から2012年までのステータスクオ(現状維持)に戻すこと」などからなる提言を行いました。その上で東郷氏は、尖閣問題の解決には時間がかかるので、その間『アジアの思想』について共に考えるべきだ。その際、習近平主席が2014年に提唱した『アジア人によるアジア』構想は参考になる。こういうことを長期的に考えていくことが、日中関係の発展につながっていく」と日中双方のパネリストに呼びかけました。
対話の最後に宮本氏は、「今日の議論は非常に建設的だった。しかし、安全保障は非常に厳粛なものであり、口先だけでは何も変わらない。ワーキンググループをたくさんつくって今日の議論内容をしっかりとフォローアップをしていくことが必要だ。そしてアイディアを具体化していくことが必要となる」と述べ、白熱した対話を締めくくりました。
最後に会場から質問を受け付け、活発な質疑応答が行われた後、安全保障対話は終了しました。
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