. 東京-北京フォーラム 公式サイト - 2015年 第11回

 

 「安全保障対話」では、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)と陳小工氏(元中央外事領導小組弁公室副主任、元中国人民解放軍空軍副指令員、中将、全国人民代表大会外事委員会委員)による司会の下、「日中の安全保障政策の新展開と東アジアの平和構築―両国の安全保障への相互理解と平和秩序に向けた協力」というテーマを掲げたパネルディスカッションが行われました。

 日本側からは、小野田治氏(元航空自衛隊教育集団司令官、空将)、香田洋二氏(元自衛艦隊司令官、海将)、東郷和彦氏(京都産業大学世界問題研究所所長、元外務省条約局長)、山口昇氏(国際大学教授、笹川平和財団参与、元陸将)、徳地秀士氏(前防衛審議官)、神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部准教授、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)の各氏が、中国側からは、朱成虎氏(国防大学教授、少将)、姚雲竹氏(軍事科学院中米研究センター主任、少将)、楊毅氏(東北アジア開発研究院常務理事、副院長)、李微氏(中国社会科学院日本研究所所長)、張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術委員会主任)、黄仁偉氏(上海社会科学院副院長)、呉懐中氏(中国社会科学院日本研究所研究員)、呉継陸氏(国家海洋局海発展戦略研究所海洋権益・海洋法室主任)の各氏が参加し、議論が行われました。

 対話ではまず、日中双方から自国の安全保障政策についての説明がなされました。

 

中国各軍の戦略の変化と国家安全観の変化

 

 中国側を代表して姚雲竹氏は、この2年間、中国が安全保障の分野で、多岐にわたる「重要な取り組み」をしてきたとしたうえで、その筆頭に、習近平国家主席をトップとする「国家安全委員会」の創設を挙げました。

 姚氏は、「中国の軍事戦略」と題した2015年の国防白書の内容についても、いくつかのポイントについて解説しました。その中で、中国をめぐる国際情勢は全般的に「有利な情勢」にあり、戦略上の「チャンス」にも直面しているとする一方、「挑戦にもさらされている」と指摘しました。その背景にあるものとして、アメリカのアジアリバランス政策や日本の安全保障政策の転換などを挙げました。

 さらに、姚氏は中国が今年1月に制定した国家安全戦略綱領に触れ、その内容は公表されていないものの、そこでは「より厳しい判断」が示されたと理解して良い、との見方を示しました。

 中国は、国力の伸張とともに大きくなった国内外の各分野の国益を守護するため、「できることは確実にすると強調している」と説明しました。

 その他にも、領土、領海、領空のほか、「サイバー空間」と「宇宙」、「原子力」を「新型領域」と位置づけ、そこでの安全と利益を守る必要性を強調しました。
 
 中国の軍事力については、海軍が従来の単純な近海防御概念から脱却し、近海の防御と遠海の護衛を同時に遂行する戦略を、空軍は単なる領空防御から宇宙防御に拡大したことなど、各軍の戦略の変化について解説しました。

 姚氏は最後に、「国家安全観がどのように変化してきたのか」についても言及。そこでは、「安全保障の領域が拡大し、非伝統的安全保障と呼ばれる分野にも積極的に対応する」、「政治、経済、外交、文化などによる影響力を拡大するなど、自国の安全確保手段を多様化させる」、「国際的な安全保障体制への参加・公権を通じて、中国の安全を高める」といった変化があると述べました。

 姚氏の解説や説明の補足として、張沱生氏はまず、「中国の防衛政策で変わらないもの」として、「今後、どんなに発展しても覇権を求めないことや、軍拡競争に参加しない」ことなどを挙げ、逆に、「変わったもの」としては、「危機管理メカニズムを重視するなど、日本とのすれ違い防止を重視するようになっていること」や、「領土保全や海洋権益だけでなく、地域の安定も追求していること」などを強調しました。

 

日本の安保法制と防衛戦略をどう考えればいいか

 

 続いて日本側は、10月初めまで防衛省審議官をしていた徳地氏が、安保法制を中心とした日本の防衛戦略について説明しました。

 まず、日本の安保政策の基本的な考えとして、これまで公表してきた「国家安全保障戦略」や「防衛大綱」が明確に示してきたことでもあるが、「領土領海領空を守り抜くという非常に強い決意」と、「積極的平和主義」を挙げました。

 特に、「積極的平和主義」に関しては、グローバリゼーションが進む国際情勢の中で、いかなる国も一国のみでは平和を確立できない、とりわけ海洋国家である日本にとっては難しい、という認識を示しました。

 そのうえで、中国も高い関心を寄せている安保法制については、国際平和協力活動の危機管理システムを時代に合わせてevolution(進化)させたものであり、revolution(変革)ではないと述べました。

 特に、憲法解釈の問題については、「『必要最小限度の実力行使』というのは、従来と変わらない」と強調しました。安保法制でできることとしては、集団的自衛権の限定行使の他に、様々な国際平和協力活動の迅速かつ多面的な展開を紹介し、その背景にある安全保障環境の認識としては、「テロをはじめとする国境を超える危機」や「パワーバランスの変化」などを挙げました。

 最後に、安保法制の評価としては、集団的自衛権により抑止力が向上するため、戦争に巻き込まれる危険はむしろ低減するとし、特に、日米同盟の抑止力の強化は「中国にとっても利益になる」と語りました。さらに、自由や法の支配など、これまで日本が享受してきた世界共通の価値を守るために不可欠であることや、法制化を民主国家として透明性を確保しながら進めてきたため、手続き的にも瑕疵がないこと、世界各国の賛同を得ていることなども、安保法制が評価されるべき根拠としました。


 徳地氏の補足として、東郷氏は安保法制がなぜ必要なのか、その背景について説明しました。東郷氏は、「1960年、日米安保改定によって、アメリカに日本を助ける義務が生じた。ここでアメリカは日本を守れるが日本はアメリカを守れないという『日米同盟の非対称性』が生じた」「そうである以上、日本がアメリカを助けられるようにする集団的自衛権は日米を対等化し、長期的に見れば日本の対米自立につながるものである」と語り、「中国は安保法制に危機を覚えているが、こうした側面を理解できていないのではないか」と語りました。


 その後、中国側から質問が相次ぎました。

 

日本の安保王政は中国の利益になるのか

 

 まず張沱生氏が、「安保法制は本当に中国の利益になるのか」と問いかけると、徳地氏は「地域の安定を強固なものとする」ことをその理由として挙げました。そして、「安定により中国も海上交通路の安全確保などの利益を得る。そもそも既に現時点でも『平和と安定』の利益は享受しているのではないか」と指摘し、他にも「現在の国際情勢では一国のみで平和は守れないし、PKOなどにおける協力拡大を考えても中国の利益は大きい」と説明しました。

 

集団的自衛権と憲法解釈

 

 続いて李微氏が、「日本国内の議論を見ると、集団的自衛権をめぐる憲法解釈変更について憲法学者から違憲との指摘が相次いでいる。これをどう思うか」と尋ねると、徳地氏は、「憲法適合性は学者の多数決で判断するものではない。最高裁判所は個別的、集団的自衛権はともかくとして自衛権は認めている。また、憲法解釈は政府が行うものであるが、過去の解釈も今回の閣議決定も『必要最小限度』という点では一貫している」と回答しました。宮本氏も、「憲法適合性の最終的な判断権者は最高裁のみ」と補足しました。

 


 憲法解釈の問題については、呉懐中氏が、「改憲するのが筋ではないか」と問いかけました。東郷氏は、「確かに、そういう指摘は日本国内にもある」としたうえで、「集団的自衛権が必要ではあるが、日本の国内事情を考えると改憲は現実的ではないので、現実的なやり方として解釈変更になった」と説明し、今後の改憲の可能性については、「解釈変更自体はかなり大きな一歩なので、しばらく改憲はないだろうし、特にする必要もない」との見通しを示しました。

 

 宮本氏は補足として、「私も改憲した方がいいと思うが、改憲イコール平和主義の放棄ではない。大部分の改憲論を見ても9条2項についてのものであり、1項を変えようというものはない」と述べました。
 
  

 

 黄仁偉氏は「集団的自衛権を行使する範囲、対象が分かりにくい。韓国は入るのか、ベトナムやフィリピンが攻撃された場合でも介入するのか」と質問しました。

 

 

安保法制の議論をきっかけに、日本国民自身も考える必要がある

 

 徳地氏は、「日本と密接な関係を有する国のみだ。では、『密接な関係』とは何かというと、それは安保上の利害関係を有するということだ」と述べました。そのうえで、「アメリカはもちろん、その利害関係があるが、それでもアメリカが攻撃を受けた場合に、ただちに集団的自衛権を行使するのかと言ったら、そうではなく、あくまでも日本の存立や国民の安全や権利などの観点から慎重に判断する。もちろん、民主国家である以上、首相の一存ではなく、閣議決定後、国会の承認が必要になる」と説明しました。

 

 これを受けて東郷氏も、「国内でも同じような質問を受ける。ただ、実際の戦争はすべて条件が異なるため、事前に対象を指定することはできない。その都度判断するしかないため、国民も自分自身の問題として勉強しなければならない」と日本人に対しても問題提起をしました。

 

 

日本が進める積極的平和主義の中で、中国はどのような位置づけか

 

 呉懐中氏は、「安倍政権が進める積極的平和主義において、中国はどのような位置づけなのか。アメリカ、オーストラリア、インドなどと連携して牽制しているように見える」と指摘。山口氏は、「積極的平和主義を打ち出した2013年の『国家安全保障戦略』では、『戦略的互恵関係』を再確認しているし、平和と安定に向けた協力関係の強化について言及している」と指摘すると、徳地氏も「すでに日中両国は、南スーダン、アデン湾など様々なところで協力している」と述べました。

 

 

日中共に積極的に国際ルールづくりに参加し、

納得できるものをつくっていく必要性

 

 呉継陸氏は、「法の支配や国際法などについて、日中両国で共通の認識を形成すべきではないか。特に、海洋紛争では日本のやり方に疑問を感じる」と述べると、宮本氏は「日中では国際法の理解が異なるため、この点については議論をしていく必要がある。国際社会を構成するすべての国々が、ルールについて認識が異なるから新たな国際ルールをつくっていく。日中も共に積極的にルール形成に参加して、納得できるものをつくっていかねばならない」と答えました。

 

 

 最後に、日本側の小野田氏から中国側に対し、「南シナ海における人工島の造成について、『中国は大国になったのだからこういうことをしてもよいのだ』という姿勢に見えるが、それは理解できない」と疑問を投げかけると、姚雲竹氏は、「先にやっているのはベトナムなどの方であり、中国としてはあくまでも最低限の対抗措置としてやっているだけだ」と説明しました。

 

 

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