. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 2009年開催 第5回

政治対話(前半)①

松本健一氏(評論家、麗澤大学教授):

 政治対話のテーマは、「政治の相互信頼、戦略的協力の強化」です。
 アジア共同体ということについて中曽根氏に伺うと、「政治はまず言葉だ」と。日本の首相がそういう言葉を提唱したことには、深い意味があるということです。
 このテーマについては、北京の学生からも「それはいい」という賛同をいただきました。このフォーラムの場から、それが生まれているのです。

趙啓正氏(全国政治協商会議外事委員会主任):

 5回目のフォーラム開催を迎えるにあたり、感無量です。初回は、中日間の問題や不満についてがテーマでしたが、今回は、世界的な問題についても討論します。対話のテーマもだんだん発展してきました。

 今回のテーマは「金融危機の中の日中協力」。各国は色々な政策、中国も内需拡大の政策を取っています。この危機については、短時間内で解決はできません。消費の低下や失業率の問題は、時間がかかります。
両国はアジアにおける重要な国で、中国は日本から色々のものを輸入して、また輸出しています。経済のグローバル化のなかで、市場の流れ出、私達は統合されています。一カ国の力では解決できないのです。
危機はチャンスでもあります。世界的には不景気ですが、その中で両国は何をすべきなのでしょう。4つ挙げます。

 まずは貿易保護主義を防ぐことです。両国は保護主義に面することがあります。貿易主義が台頭する兆しがあります。これは今までのグローバル化の流れに逆行するものです。WTOのメンバーとして、中国は保護主義に反対していかねばなりません。

 2つ目は、金融での協力を進めていくことです。金融危機が始まってから、規制についての協力が深まってきました。

 3つ目はアジア経済構造変化を促進していくことです。輸出への過度の依存が問題です。アジア各国は輸出に依存しすぎる面がありました。しかし、今までの構造がいつまでも続くことはありません。内需拡大を進めていくことが重要です。

 4つ目は、気候変化の挑戦に応じることです。地球温暖化の抑制は、大きな要請です。これから対話を強め、緊密に協力し、COPの枠組みに基づき、努力をしていく必要があります。

 今回のフォーラムで双方が意見を出し合うことによって、成果が生まれるでしょう。アジアには古くから文明がありました。19世紀には衰退してしまいましたが、今再び発展しています。特に中日間の関係は必ず欧米と並ぶ世界の第三極となるでしょう。

松本氏:

 日本は現在、自民/民主の枠をとりはらった国際的危機に直面していると言えます。そこで中谷さんにもご意見をいかがいたいのですが。

中谷元氏(衆議院議員、元防衛庁長官):

 自民党ですので、政権交代で野党になりました。次の選挙のキャッチフレーズは「政権交代」ですね(笑)
しかし、外交安全保障には一貫性が必要です。新政権のアジア重視姿勢は評価しますが、アメリカとの協議は長期化すると問題になるかもしれません。そうならないことを願います。日中の政治文化協力の発展は世界にとって、特に東南アジア、アメリカ、インドなどにとって必要です。3年前に東南アジアを訪問し、各国首脳と面会しましたが、日中は良好な関係でいてほしいと言われました。日中関係は彼らにとっても大事なのです。これは二国間だけの問題でなく世界全体の問題です。

 アジア共同体の実現には、共通の理念などが必要になります。ロードマップが必要です。各担当者の懸案―東シナ海、尖閣諸島、国防などについて、話し合いをするプロジェクトがまず必要です。

 次に、両国のエキスパートを、国際組織で活躍させていくことが重要です。国際的なイベントの誘致や、常任理事国の問題についても、アジアから2カ国入ることは必要です。

 それから何といっても、東アジア共同体成功の最大の鍵は北朝鮮の弁明、経済国への取り組みです。中国は北朝鮮と交流が昔からあり、話し合いも可能です。

 東アジア共同体の発展のためには、北朝鮮の問題と、アメリカ、台湾などとの調整も必要になります。しかし、言っているだけでは前には進みません。アジアの将来を日中両国が担っているという覚悟で頑張ってほしいと思います。


政治対話(前半)②

松本氏:

 ありがとうございました。中谷先生からは現実的な指摘がなされたと思います。

陳昊蘇氏:

 このフォーラムは、これまで大きな成果を収めています。政府や民間の努力が最大の要因でしょう。
胡錦濤先生、温家宝総理も訪日し、会見をしました。日本でも安倍氏・福田氏・麻生氏の三人の総理が積極的な役割を果たしてこられました。鳩山総理も、日中関係と東アジア協力に積極的な姿勢を見せています。これも、関係発展を進める力です。フォーラムも民間ベースで大きな役割を果たしてきました。日本の皆様と、成功の喜びを分かち合ってきました。現在の両国の関係は、発展のチャンスに恵まれています。日本とはともに、調和の取れた世界を実現していきます。

 鳩山総理は友愛を説き、アジアに持ち帰りたいといっています。私は、第二次大戦後のヨーロッパの和解を思い出します。アジアとヨーロッパは違い、アジアでの共同体への道のりはもっと長いでしょう。しかしいつか必ず始まる、今始まろうとしています。アジアの人、特に日本と中国が協力すれば、進んでいくと思います。30年あれば、ヨーロッパが歩んだ道を達成できるかもしれません。

 両国の理解と信頼を構築する中で、自信、確信をアジアは持っているということです。「自信」というのは、成熟した知恵です。一体化を推進するプロセスの中で、文明を持っている大陸は、世界人類に貢献します。「確信」というのは、日中の団結を基礎として、韓国やASEANと協力し、アジアが一緒に革新を進めていくことです。もうひとつは、「恒心(変わらない心)」―困難があっても後退しないということです。中国は変わらぬ心をもってこのプロジェクトを進展させていきたいと思っています。

 私は5回フォーラムに出席しました。皆さんに心からの感謝を申し上げます。30年後に共同体プロジェクトが成功を収めたとき、そのために尽くした努力を忘れないでしょう。

 私達は3つの心(シン)をもって、進めていきます。ありがとうございました。

松本氏:

 東アジア共同体というのが本当に始まってきた、というお話でした。アジア通貨危機のときに、新聞や雑誌が、「21世紀はアジアの世紀」と報道しました。しかしそれには条件がある、日中がアジア共通の場をつくっていく必要があるのだ、と。そういうお話だったと思います。

劉江永氏:

 ありがとうございました。陳さんは日中友好に努められてきた、日本と親交のある方です。

藤田幸久氏(参議院議員):

 藤田です。大連に来るのは2回目ですが、最初に来たのは民主党ができた直後でした。鳩山さんの最初の外国訪問先として、私は「中国がいいだろう」と申し上げました。残留孤児の養父母の方にお礼を申し上げるべく、大連に参りました。私は、彼らが大切に子ども達を育てたことに感激いたしました。

 もうひとつ、中国の未来の指導者たちにお目にかかりました。

 私が手がけたものの中に、対人地雷禁止条約というのがあります。東アジア共同体についてです。私は独仏和解に関係するNGOにいました。仏独は、石炭を取り合う限り紛争が起きる、だから共同で管理するということだったと思います。

 重要なのは、経済、文化的に交流を深め、争うことが利益にならない構造をつくることだと思います。4000人のドイツ人と2000人のフランス人が、第二次世界大戦直後に合宿をしたことがありました。それで交流をしたのです。

 日中でも、様々な人々の交流、和解、展望、癒し、というのが重要ではないでしょうか。中国で漢字を使用し、日本はそれを流用してきた。いまままでは日本の技術を中国が流用してきたと言えるかもしれません。知的財産権の保護についても重要ではないかと思っています。

 独仏和解とアジアの違いということについては、日中のアジアにおける存在が、大変大きいことだと思います。戦争や争いはお互いのためにはならないという視点をつくることが重要だと思います。異なる国同士が、お互いを受け入れることが重要です。日本では政権交代が行われ、政治がリーダーシップを発揮し、官をつかっていく動きが生まれています。そして、公共財を日中、さらに地域的に動かしていきたい、ということ、それが東アジア共同体であると思います。このフォーラムの貢献をお祈りいたします。

松本氏:

 戦争をしないような平和的な共同体をどうつくるか、というお話でした。

政治対話(前半)③

劉江永氏:

 お二人の議員からの意見をお聞かせいただきました。
 中日両国の直接の交流に直接の努力をするのは、中国共産党です。その、劉部長よりお話を頂きます。

劉洪才氏:

 ありがとうございます。中日両国関係からみれば、両国政党の交流は大事です。中谷先生がおっしゃったように、自民党は野党となりましたが、与党でも野党でも、中日関係においては変わらない関係の発展に貢献いただきたいと思います。当然ながら、これは中国共産党の使命でもあります。
 本日のテーマについて、お話しします。

 第一に、中日の戦略的互恵関係を強めることです。不景気の中では、中日関係と、経済交流を深めていく必要があります。また、相互理解を尊重することも重要です。色々な問題を解決するために欠かせないことです。

 第二に、中日は世界の中でも重要な経済大国で、経済危機によって大きな影響も受けました。アジアが早く回復するために、どのような役割を果たしていくべきかということですが、経済協力を強めなければならないと思います。積極的な措置を続け、エネルギーなどの成長分野を見つけ、また投資環境を整備しなければなりません。中日経済協力について、この大連はモデル都市になっているのではないかと思います。より多くの日本企業が大連にきて、投資を行っています。地域間交流においても新たな一歩を踏み出す必要があります。

 東アジア共同体は長期の目標です。エネルギー問題、また省エネの問題など、協力できるところはたくさんあります。

 民間交流を強めていくことも重要です。特に若い世代の相互理解が大きな課題です。メディアは理解の窓口ですから、メディア交流も重要です。全面的、客観的にお互いの友好関係を宣伝していってほしいと思います。
両国の指導者の良識を養い、友好関係を持つ政治家の育成もしていく予定です。両国が設定した共同目標にこのフォーラムが貢献できるようお祈りいたします。
松本氏:
 政権交代があっても、日中両国関係については交代があってはならないという話はごもっともだと思います。渡部先生は、政権交替を明治維新にたとえられましたが、藩の枠を越えて話し合うという経験を日本は持っている。そうでこそナショナルな国家変革は可能になると思います。では笹木竜三先生。

笹木氏:

 政権交代しても日中関係は変わらないでほしいということでしたが、安心してほしいと思います。鳩山さん、岡田さん、仙谷さんも、これまで以上に日本が中国に積極的に関わっていくことが大事だと考えています。総理はおじいさんからの思い入れもあってアジア共同体と言っている。鳩山さん自身が口にしているのは「人間第一の経済」です。

 金融危機の話が先ほどからありますが、金融の成長で見る成長が人間の幸福の向上につながるかは疑問です。

 その際に大事なのは、これからのビジョンです。自由と平等だけでは足りない、「友愛」がキーワードだと。日本の自由主義のありかたがこのままでいいのか、ビジョンを出していきたいと思います。

 例えば、雇用対策の中に介護の人材育成などを含めた政策を出しています。東アジアの人間のための経済、それは環境、エネルギー、食料の問題だろうと思います。安定的な発展のネックになるかもしれません。
たとえば、太陽光の蓄電については、かなり研究が進んでいます。

 世界を牽引していくような環境産業、それを東アジア共同の場で行っていくと。そして東アジア域内の内需を拡大していく、そして人間の幸福を実現する新しい産業を興していくことが必要ではないかと思っております。
 ところで、由利公正がつくった五箇条のご誓文のなかで、こういう文章があります。
 「政治にとって大事なのは、人心をして倦むことなからしめん~」
 人民を諦めさせることはしてはいけないと。東アジア共同体を、これまで以上に日本が進めていく、これが必要とされているんだろうと思います。

 最後に、共通の柱も大事ですが、東アジアの新しい価値観、モデルを創り出していくことが必要だと思います。東アジア発の新しい価値観―たとえば、人間のための経済や、共生のための経済―それを日本と中国で一緒にやっていけたらいいなと思います。日中共同で、和をもって、新しい産業などを興していくということです。これをもって私の発表とさせていただきます。

松本氏:

 ありがとうございました。
 ある統計によれば、世界の中では、中国、インド、日本で世界のGDPの30%を占めるようになるだろうと。実は、1800年代とこれは同じなんです。アジアの成長のための秩序を支える新しい価値観を、日中で強く打ち出していきたい。そういうことを提案としたいと思います。

劉江永氏(司会):

 中日関係の安定のためには政治経済だけではなく文化面の交流や相互理解も必要です。3つの車輪があれば安定するが、他にもメディア、環境、政党などさまざまな車輪をお互いに進めていくことによって、中日友好の列車は加速していくでしょう。

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