. 政治対話発言録 後半 - ページ 2

政治対話テーマ:新しい日中関係に問われる政治の責任

【後半】

松本健一(元内閣官房参与):それでは後半のセッションを始めたいと思います。フロアから集まっている質問をまとめつつ質問していきたいと思います。最初は、「日本と中国の歴史観は大きく隔たりがあるのではないか?日本は中国を侵略したが、アメリカに侵略されたのも事実。日本が中国を侵略したのは事実だ、という話があったが、開き直っている英米はどうなる」ということについて。

藤井裕久(衆議院議員):まず私は、近現代史は明治維新からととらえて勉強してもらっている。鎖国から開国になった。富国強兵が言われた。「富国」と「強兵」、この二つは全く別物。資源配分としても全く違う。「殖産興業」も「富国」とはまた異なるもの。その中で、伊藤博文になると富国強兵より実業という意味での殖産興業に力を入れた。専修学校などが例。そういうことで力をつけて、日清戦争と日露先生に勝っていった。日露戦争後に日本はおごり高ぶった。その典型が対華二十一カ条の要求。これは侵略的思想で明らかに間違い。その延長線上で満州事変や日中戦争がある。英米については、よその国がどうあろうと、日本がそのまねをするのはよくない。イギリスが中国を侵略したのは事実。それを日本が真似したのがおかしい。

松本:ありがとうございました。人民元と円はあとで聞きます。次は「歴史認識は国だけではなく個人レベルで異なるのでは?」です。

中谷元(衆議院議員):韓国の歴史ドラマにはまっています。日清戦争直前の王様殺害を描いたドラマを見ました。朝鮮側から書かれたわけですが、陸奥宗光や伊藤博文がいて、中国ロシアに囲まれて、朝鮮は日本の攻略によって終わった。防衛庁長官の時に、訪韓したときに王宮に行って、殺害現場で頭を下げた。

国の主権を侵したり、言葉まで変えたりというのはやりすぎ。中国に対しても一線を越えてとりかえしのつかないところまでいってしまった。昭和天皇も、厳粛な気持ちで国の暴走に歯止めをかけようとしたが、ナショナリズムというどうしようもない止められない状態になってしまった。それを止めるのが政治の役割。国民に嫌われてもやるべき。謙虚にその教訓を生かさなければならない。

松本:この問題は中国側にもこたえてほしい。次は、「尖閣の漁船衝突問題では決定的な対立を避けるため、船長釈放というしなやかな対応をしたが、それにより、中国の影響力を強め、結果として、対立が深まってしまうのでは?」「日本と中国で、対応のスピード感の差を感じた。」という点について。

仙谷由人(元内閣官房長官、民主党代表代行):私はこの問題に対処するときに日本の強硬論者、極端なことをおっしゃる方には、領海警備の実態がどうであるのか、その構えがどうなのか、自衛隊を中心とした日本の海域防衛体制がどうなのかを、まったく考えずに、「中国がけしからんからやっつけろ」と言っていた。大変残念。

日本はあの年の暮れに防衛大綱を変更した。ソ連相手(陸重視)から航空戦力重視に変わった。中国が漁業監視を強化しているということは、日本もわかっていた。海上保安庁も漁船の大量出現を把握していた。日本からすれば領海侵犯。そんな中で主体的に警備を強化するというのは当然。その背後で、防衛戦略の見直しをしていくべき。それらの整備がないまま、大量の漁船を24時間監視することの現実味を考えるべき。中国だって過激なことはしないだろうという観測。中国と軍事的に対峙するというのは一つの道だが、犠牲も大きく、私はそうすべきだと思わない。

どうしても解けない何かがある。民主主義・市場経済と一党独裁の違いか?相対主義を根本では認めないのでは?司法手続が絡んでいると政治が介入できるという建前と日本の政治と司法の独立という差異。そこで船長の処遇に関してああいう結果となった。中国も、知的財産権などの問題でもそうだが、司法の独立を勝ち取ってほしい。

松本:司法の独立は、日本の決定権の遅さにも関わってくる。誰か反論の方はいますか?

趙啓正(全国政治協商会議外事委員会主任):私は、決してこの事件にかかわったわけではないが、政治協商会議の委員から観察した。管内閣発足直後のこと。衝突はこれまでもあったが日本の国内法で処理されたことはなかった。これは中国としては唐突だったという印象を受けた。尖閣は日本の領土だという問題は中国としては認められない。

船長個人は学歴が高くなくて、日中関係についてもよくわかっていない。衝突に関しての経緯はよくわからない。なぜそういう判断を下したのかはわからない。彼はヒーローではありません。すぐに保釈をされて、仙石先生が英知を働かせて保釈をされたわけですが、それは非常にありがたい。

今後またこういうことが起こるのか。中国政府は、尖閣諸島に上陸しないよう奨励している。日本の政治家は上陸していますが、中国はそんなことを勧めていない。これは大きな差。中国の若者はこれについて政府に不満を持っている。日本の政治家は上陸しているんだぞ、と言っている。寛容な態度で処理をしていけばいいと思っている。刺激的な行動はさらに刺激的な行動を呼ぶ。

松本:ありがとうございました。こちらの主張があればそちらの主張もある。歴史学者としては、日本側の主張は明治18年。中国は1968年という認識があるが、これは近代化の年とかかわってくる。国際社会に入った時間差の問題もあるのではないか。グローバリゼーションが始まる時期の差がある。王さん質問をお願いします。

王:先生、陳大使が言いたいことがあるそうです。

陳:領土問題を次の世代に残す、と言っているが、次の世代とはいつか?という質問がありました。センシティブではなくなったときがその時だと私は思います。ナショナリズムの感情をあおりやすい問題であるので、ともに開発する方法を思いついた時こそその時だと思います。お互い挑発をあおらない。

王:歴史観について葉さんお願いします

葉小文(中央社会主文学院党組織書記):いわゆる漁船の問題ですが、あまり話したくなかった。船長が逮捕されたことは訳が分からない。卵が石にぶつかったといった感じ。係争地で現代的な保安庁の船と木造の漁船がぶつかったということ。中国には13億の人がいる。政府が柔らかい態度を取りたくても、13億の人間が許さないということがある。陳大使が言ったように、ビンの中の化け物の行動によって両国の関係性が損なわれていいのか。この化け物は何でもできる。船にぶつかったり、火を放ったりできる。両国はこの化け物を抑え込むことが大事。もし無理なら舞台で踊らせればいい。お互いに冷静さを取り戻すことを意識するべき。

我々は、国交正常化時からみて後の世代にあたるが、まだ領土をとられることにお互い同意しない。なので、時間をかけてゆっくり解決していくこと。こんなことで日中関係が崩れていいのでしょうか。どちらも相手を駆逐することなんてできない。お互い知恵を出し合って解決すべき。

陳健(元中国駐日本国特命全権大使):尖閣問題がなくても日本は復活しますし、ある日地震によって尖閣諸島がなくなるかもしれない。そうすれば問題はなくなりますね。

松本:東京-北京フォーラムでも、「次の世代」はいつかということは言われてきた。政府間だと簡単に感情的な対立になってしまう。よってこのフォーラムからワーキングチームを作って、議論方法の提示やお互いの意見共有などの議論を実務的に始めていく。これは政府ではできないことなので、やっていくべきなのかという声が実行委員会で挙がっている。

次の質問は「グローバリゼーションの次にくるものは、誇りのナショナリズム。その誇りをお互い考える時がきている。そして、協働で考えるべきではないか?また、日本の誇りとはなにか?」についてです。

加藤紘一(元内閣官房長官、日中友好協会会長)::それに30秒か1分で応えられたら苦労しないがな。共同で考えるのは必要。中国が今のような、国土づくりでとことんまでグローバリゼーションを追及するような国ではない。そのような方向を、いつまでもやっていくようには思えない。中国で公共投資とはいえ地方で財源は賄う。そのうち何のためにそんなことをするのかと、地方政府が倒される時が来るのではないか。韓国の場合は、自分たちの伝統と発展の共存についてよく考えている。

日本の誇りは日本人の自然観。自然に恵まれてきたから、何でも神様にしちゃう。仏教でも天皇でも儒教でもなく、神道。自然と人間を結ぶのが神道でそれを仕切るのが天皇。松本さんはそれを考えた一番偉い人。震災以降、みんな東北がんばれ東北がんばれ、と言っている。一年経っているのに、どうやって生活していくのかな、とじっと見ている。神戸は3か月で終わった。東北のGNPは日本のGNPの6%。その状態で、東北がんばれをやっている。東北の暮らしについて書くといまだに売れる。

松本:自然と地域の問題、つまり故郷の問題になりうる。愛国心ではなく愛郷心。これが東北の問題を考え続けている根本。

仙石:共同で誇りを考える、価値観のすり合わせをすればいいという指摘があったが、どうも中国の方と日本人が価値的にはすれ違いになってしまうのではないかと。中国は国内で大きな矛盾を発展とともに抱えている。日本は失われた20年を克服できないでいる。中国と日本が解決しなければならない問題の中で、共通課題もあるはず。国境を越えて解決しなければならない問題もある。日本にも中国にも右派・左派がある。

感染症の問題を国内で解決できないなら、日中韓、あるいはそこに台湾を加えた地域。防災・災害対策についてもそう。エネルギーの対応策についても喫緊の課題。石炭を使うのか、原子力化、ロシアの天然ガスか。共同で解決できるはずである。スマートタウン、スマートグリッドなど。風力発電は日本よりもずっと発達している。アングロサクソン的金融システムに対応して、アジア的金融システムは存在するのであろうか。この模索。日中韓がこれらの問題にもっと共同で対処していくことはできるはず。部分的には政府間でもう始まっている。この3国はアジア全体をいい方にも悪い方にも導きうる。これらなしに戦略的互恵関係の構築は不可能である。ナショナリズムめいた発言はメジャーなジャーナリズムまでするようになってきている。これには政治が毅然と立ち向かわなければならない。

松本:ネット右翼、世論の問題も質問来ています。日中で、共同で取り組める問題はまだまだ探せばあるということでした。円と元の直接取引についてが、一例ですかね。6月1日に始まったこの取引ですが、まだまだ100億程度で規模は小さい。この認識について、では藤井さんお願いします。

藤井:まず、世界の経済力の中でアメリカに次いで中国が二番目の経済力を持っている、これを認めなければならない。次に人民元をもっと広めていくべき。文化などは広まっているが、金融はまだまだ。金融は世界統一のシステムなのに、元だけが独自の動きをすることは許されない。

第二次世界大戦の元凶となった通貨競争を防ぐために、ブレトン・ウッズ体制で基軸通貨をドルにしようということになった。ケインズは新たな基準を作るべきだと反対した。アメリカドルは続落。1ドル=360円の時代から、円に対して高くなったことはない。ここらで通貨機軸はドルだという認識は見直すべきなのではないか。人民元にかけられている世界の期待は大きい。独自の動きなどは認められないと思っている。

松本:世界が一つになる。金融はその動きをもろに反映している。その中で人民元に国際化が求められているという声に対してはどうでしょうか。

王:こっちにも質問が来ているので、答えます。中国の外貨準備高は日本を超えている。外国の援助を行っている。それを政府は公表すべきではないのか?という質問ですね。

葉:中国のGDPは2番目ではあるが、そうは思っていない。質としては日本と比べられない。人口が多いので一人当たりで見ても、豊かな国とは言えない。中国はそこまで発達しきっていない。お金があり余っているから外国の支援をしているわけではない。日本の地震も支援すべき。四川地震も日本は支援してくれた。災害ではお互い助けるのが当たり前。中国では一人ひとりの暮らしは豊かではないけど、そういう理念で支援している。

中国は反日教育をしてきた、という声があったが、南京大虐殺も忘れられないが、それで恨みを持ち続けるわけにもいかない。日中の間では絶対に戦争は起きないと思っている。日本にも、強制労働させられた中国人の骨を返してくれている日本人もいる。歴史を鑑にするべきであり、恨みにするべきではない。中国は大きいので日本軍を悪く放映する番組もあるが、政府としてはそれを許してはならないと思っている。互いに文化としても影響を与えてきた。20世紀では日本は中国を侵略してきたが、それ以上に長い間交流してきた。対立している50年間ではなく、2000年の歴史を鑑にするべき。

松本:ちょっと質問です。2000年と50年の歴史のどっちが大事か。教育やメディアにより世論形成しているわけですが、漁船衝突という目の前の出来事でネットが爆発しているわけですが、これについてはどうでしょうか。中谷先生。

王:その前に、話を最後まで続けさせてほしい。

陳:2000年の方が大事。50年の歴史の傷の方が大きいが、将来のためにはそれではよくない。ネットはだれがやっているのかもわからないし、中国国民の代表ではない。

葉さんに私も同意。日本の若者が歴史をよくわかっていないということ。抗日戦争の教材などがあるが、まずは早稲田の学生さんに応えようと思う。「日米同盟は日中関係発展の阻害となりうるか?」ここで日本はどう思っているのか。

中国側としては、日本はアメリカを利用として中国をけん制しようとしている。オーストラリアやインドなども同じ。日本はアメリカの圧力を受けて、中国をけん制しているのではなく、アメリカを利用して意図的にけん制をしている。しかし、中国に対しての判断もアメリカに対する判断も間違わないでほしい。中国を脅威だと思わないでほしい。中国は、アメリカが中国の台頭を抑制することを心配している。アメリカが抑制しようと考えていることを懸念している。日本の、アメリカを利用した中国へのけん制は間違いである。

王:頭越しの判断はよくないということでした。比較的若い中国人として発言をしますが、戦争を題材にすることはドラマとしてとっているわけで、若干コメディめいている。歴史を題材にすることですが、歴史観の教育、という意味では教科書の方が問題である。アメリカの研究をしているのですが・・・

松本:ちょっとこっちに戻しますね。さて、日本の世論にはネットの役割が大きいのではないでしょうか。中谷さんいかがでしょうか。

中谷:ネット中毒というのがありますが、画面を見てないと落ち着かない人は多い。ネットの情報は過激で刺激的。麻薬のよう。平常心を失いそれを求めてしまう。絆の心、和の心のような丸い心が日本人をルーツ。ネットは使いこなすものである。原理原則を考える。

中国はマスコミコントロール・ネットコントロールがなされているので、自由な発言がなされていない。北朝鮮においても、体制転換があって、世界の動きを北朝鮮国民がわかっていないということは非常に損をしている。東アジアのなかで安全保障という問題からも、中国には働きかけてほしい。ネットは使っていくツール。

松本:中国側に戻します。最後の5分をどうぞ。

葉:午後の問題は非常に重要な問題で、率直な意見も上げられた。個人の考えですが、考え方において中日では異なる。これは考えるときに注意しなければならない。日本は細かいところ、中国は全体的なところを気にする。討論する場合は、我慢強く聞いて、相手の理解に努めるべき。それがなくては、議論は進みません。今回のテーマはよかったが時間がなかった。しかし、今後の考え方の指針を学ぶにはいい場であったのではないでしょうか。両国関係だけではなく、世界レベルで考えるべき。アメリカ問題についてはここでは時間の問題でやめておきましょう。

松本:最後に1分ありますが、どなたか言い足りないことがあれば。いかがでしょうか

陳:一つあるのですが、中日関係とアメリカは非常に密接な関係がある。日本の関係者は日中米の三カ国の関係の展望はどう考えているか?

仙石:本音トークで、利害関係をぶつけ、ある意味取引、ある意味妥協の落としどころを見つけていく。そしてそれではすまないところが今後増えていくなという実感。その時には、お互い大事な前提などをしっかり踏まえていくべき。政治に関することは、独立した司法機関が解決するべき、などの状態を互いに認め合い、確認しないと、相手の行動の予測が難しくなり、力での押し合いになってしまう。東シナ海のガス田開発についても、合意してから実際には進んでいない。

葉:5分、いや30秒ください。中日米は大きな三国なので、みんなで高いところにたってものを見るべき。太平洋はどの国にとっても手放せない。海は繋がっている。太平洋のような広い心で取り組むべき。

松本:太平洋でつながっているという話になりました。原発事故では、その太平洋に勝手に汚染水を放出し、通告もしなかった。これについても十分に議論できていない。経済・金融が一体化する中で、日中が考え、ファクターとしてアメリカを加えていこうということなのでしょうか。

藤井:中国もGDP全体で見れば、日本に勝っているが、一人当たりで言えばまだまだ低い。でも一人当たりでも日本やアメリカに追いつこうとはしないべき。何も意味がない。もうやめましょう。

松本:趙先生、最後にどうぞ。

趙:三カ国の関係のなかで大事なのは、平等ということ。日米は平等ではない。それでは三カ国関係において問題になる。

松本:それでは終わりにします。

王:みなさまありがとうございました。

以上

親カテゴリ: 2011年 第7回
カテゴリ: 発言録