. メディア対話 後半 - ページ 2

 (後半テーマ)「相互理解・相互認識の改善に向けたメディアの役割」

 7月2日午後、東京にて開催中の「東京-北京フォーラム」で分科会「メディア対話」の後半が開催されました。日本側からは、会田弘継氏(共同通信社論説委員長)、伊藤俊行氏(読売新聞東京本社編集委員)、中村史郎氏(朝日新聞社編成局長補佐)、山田孝男氏(毎日新聞専門編集委員)が、中国側は、劉沢彭氏(全国政治協商会議常務委員)、章念生氏(人民日報国際部副主任、上席編集者)、冮冶氏(新華社国際部記事発行センター編集委員、上席記者)がパネリストとして参加しました。司会は、日本側は加藤青延氏(日本放送協会放送総局解説委員室解説主幹)、中国側は程曼麗氏(北京ジャーナリズム・コミュニケーション学院教授、副委員長)が務めました。

120702 m shimomura 最初に、会田弘継氏からこの1年間の日本のメディア報道全般の動向について報告があり、国内的には震災関連と消費税増税問題を中心に報道されているものの、対外ニュースとしては欧州危機に次いで中国に関する報道が増加傾向にあるとの紹介がありました。それは中国の海洋戦略に日本が、あるいは世界が注目しているからであり、今秋の中国の指導者交代を機に、今後さらに中国に関する報道は増えていくだろうと述べました。120702 m gao


 次に、劉沢彭氏からは、両国国民相互の好感度が低いという世論調査結果について、「短期的に解決は難しいが、長期的にみると、友好関係確立の過程にあり、悲観はしていない」との発言がありました。また、友好関係確立のためにはメディアの役割が重要であり、過去の中日間に起きた事件に関する具体的なメディア報道について、客観的に報道したのか、反省を含めて議論すべきと指摘されました。


120702 m shimomura 山田孝男氏からは、メディアの役割とは、権力から独立してよい取材をしてよい報道をすることに尽きるとの発言があり、日中のメディア間交流については、一般論ではなく、具体的な報道事例について議論をしたいとの要望がありました。

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 章念生氏は、8年前、日本の有識者に中日関係についての記事を人民日報に書いてもらった件を紹介し、その時は人民日報がよくそこまで踏み込んだといわれたが、8年経った現在、残念ながらそれ以上に中日関係に進展がない点が残念であると述べました。その理由としては、近隣の大国2国の並立という状況が民衆意識にも影響を及ぼしていること、偏ったメディア報道があること、中国の発展スピードが速かったことを指摘し、これを克服するには、青少年交流、文化交流、相手の立場に立った報道が必要ではないかと提起しました。


120702 m shimomura 中村史郎氏は、ネット世論について、90年代後半に初めてネット世論が出現したときには、その書き込みに注目したが、最近のネット上の発言には極端な意見が多いため扱いには注意が必要であると説明。その一方で、日本での報道では今までネットの影響を軽視してきたが、現在では、ネット世論はムーブメントを起こす力を持っていると、いくつかの事例をあげて紹介しました。

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 冮冶氏は、中国では日本の震災時に日本の経営者が中国人従業員を救いながら、自らは亡くなってしまったという報道がされたことを例に、中国では必ずしも日本を悪く言う報道ばかりでなく、むしろいい面を報道することが多いから日本に対する好感度が上昇してきたと主張。その一方で、日本の一部に歴史認識や領土に対する強硬な発言があるために中国人は懸念をぬぐえないという現実があると指摘。国情が違うので、強硬発言を取り締まれないのだろうと思うが、中国人は一部の日本の政治家や右翼の発言が日本人を代表していると判断してしまい誤解を招いている。やはり青少年交流をはじめとする草の根の交流が大事ではないか。観光的交流で日本に旅行に来た中国人は、そのほとんどが日本に好感を持って帰国していると紹介しました。


120702 m shimomura 伊藤俊行氏からは、社説などの報道は社内でオピニオン形成した結果として提供されるが、オピニオン形成の主導者は必ずしも中国に詳しい訳ではなく、ステロタイプ型の報道になる傾向があり、さらにそれは悪いイメージの再生産を招くことになっているとの発言がありました。

 さらに、自身が中国各地を訪問した経験から、実際に行ってみると発見は大きいこと、最近は読者の側もニュースを選択的に読む傾向があるので読者の読解力にも注目すべきだ、などの指摘もありました。


 前半のパネルディスカッションにおける小倉和夫氏の「中国が大国化している点が日本側の不信感を高めている」との指摘に対して、章念生氏からは、1980年代には欧米が日本に同じ感情を抱いていたが、それは杞憂に終わったと指摘し、感情に流されず冷静に対応すべきとの意見が述べられました。また会田弘継氏からは、お互いを理解することが客観的な報道にとって重要であると指摘されました。さらに、会場の蒋効愚氏や高岸明氏(両者とも前半のパネリスト)からは、中国が大国化していると言っても、まだまだ科学技術の面では日米には追い付いておらず、中国の大国化についての懸念は杞憂であるとの発言がありました。

 また、メディアの在り方として、「政府の行動に対して懐疑的であるべき」との日本側パネリストからの意見に対し、冮冶氏は日中の政治体制の違いを指摘し、日本のメディアは国民の検証を意識しているのに対して、中国のメディア、とくに国営メディアには政府に従うという意識があり、それぞれ国情が違うとの発言がありました。


 一方、会場の中国人ジャーナリストからは、日本での中国一等書記官のスパイ疑惑事件報道について違和感があるとして、「日本のメディアは、この報道について検証してから報道しているのか。検察発表をそのまま報道しているのではないのか。その点について反省はないのか」との指摘がありました。

 それに対して、日本側からは、「まだ進行中の事件なので、現段階で判断は下せない」としつつ、「大国」になると互いに注文が多くなるものだ、どうしても普通のことはニュースにならず、悪いこと、目立つことがニュースになってしまう、との発言が出ました。

 これについて、会場にいた田中弥生氏(言論NPO常務理事)からは、「その議論は読者の立場からみると違和感がある。購読者、視聴者に対してはどのように思うのか」との異論が出されました。

 さらに、会場の下村満子氏(前半パネリスト)からは、「日本の記者クラブ制度では同じ情報源からの記事を安易に流しがちである。だから、報道の自由があるにもかかわらずそれを十分に生かしていないし、自己規制も働いてしまう。パネリスト諸氏の報道に対する理念は立派だが、日本のジャーナリスト全員がそうではない」との発言が飛び出しました。下村氏は続けて、「日中の共通の課題に対して、双方のジャーナリストが一緒になって報道をしてみたらどうか」と提起、稲盛和夫氏の主催する盛和会に中国人が1000人単位で集まることを引き合いに「いまや中国人もお金を持っているだけでは幸せになれないことに気づいてきた。東洋的なものの考え方は日中双方の共通認識になってきている。このことを日本のメディアに報道してもらいたい」と要望するなど、メディアのあるべき姿について活発な議論が行われ、「メディア分科会」後半は盛況のうちに幕を下ろしました。

親カテゴリ: 2012年 第8回
カテゴリ: 記事