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11月2日 経済対話(前半)報告

  11月2日午後に開催された分科会「経済対話」においては、「国際協力の強化、課題の共同解決」という議題の下に議論が交わされました。今回のフォーラムの全体テーマは「世界経済危機下での日中協力」とされており、「経済対話」はそれと密接に関係する分科会となります。前半部では「日中相互に有益な協力関係を促進し、協力して世界経済危機と戦う」、後半部では「日中協力で、アジアと世界の金融通貨システム改革を推進する」というテーマ設定がなされました。前半部には日本側パネリストとして、田波耕治氏(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問、元国際協力銀行総裁)、深川由起子氏(早稲田大学政治経済学部教授)、井口武雄氏(三井住友海上火災保険シニアアドバイザー、同元会長)が、中国側パネリストとして王守栄氏(中国気象局副局長)、李明星氏(中国企業聯合会副理事長兼国際部主任)、呉垠氏(零点研究コンサルティンググループ副総裁)が出席しました。基調報告は福川伸次氏(財団法人機械産業記念事業財団会長、元通商産業事務次官)と遅福林氏(中国改革発展研究院院長)が行い、司会は小島明氏(日本経済研究センター特別顧問)と項兵氏(長江商業学院院長)が務めました。

 初めに日本側司会の小島明氏は、「リーマンショック以来、世界は変わった。危機後の世界のあり方、そこでの協力のあり方について議論をしていきたい」と述べました。


 economy続いて日本側から福川伸次氏が基調報告を行いました。  福川氏は、主として実体経済に焦点を当て、「経済の構造変化」「世界における日中の立場」「危機克服に向けた両国の課題」という三点を話題としました。
 一番目の点に関して福川氏は、「伝統的なG8中心の体制では、金融危機、地球環境などの課題の解決が難しくなっている」「地球の資源や循環機能の無限性を前提としたシステムは、もはや成り立たない。新たな成長モデルが必要だ」と述べました。


 また、日中両国の位置づけに関しては、「両国は世界第二、第三の経済大国で、知的人材も豊富である。また、日本は技術指向型の国家である一方で、中国は非常に高い生産力を有している」とまとめ、協力によってWin-Winの関係を構築できるとしました。


 三点目として、両国の課題については、まず環境と経済の両立を挙げた上で、「人間的な価値を充足するような経済システムを構築しなければならない。環境はもちろん、生活、安全、文化といったものがそうだ」と述べました。

 
 中国側の基調報告を務めた遅福林氏は、中国経済の今後の構造変化に関し、幾つかの視点を提示しました。第一に、消費主導の経済への転換です。現在GDP中の消費の比率は低く、また農村部の市場に潜在力があることから、消費を高めていく余地は大きい、という議論です。「GDP至上主義からの脱却」という言葉も用いました。また、中国において公的サービスへの需要が高まっており、消費の質的な変化が生じている点にも触れ、福祉や教育改革の必要性を論じました。その他、低炭素社会の構築や、都市化の進展なども、経済構造を変えていく重要な要素として挙げました。

 以上の基調報告を踏まえ、各パネリストが発言しました。

  田波耕治氏は、昨今の経済危機について、「アメリカの個人消費に依存した消費は限界に達した。それに代わる新たな成長モデルが必要だ」としました。即ち、内需拡大が必要だということです。ただし田波氏は、内需拡大のための方策について、「解がない問題だ」と述べ、代わりに二つの視点を提示しました。一点目に挙げたのは、アジア経済全体を視野に入れること、特に日中両国がアジアの貧困の撲滅に立ち向かうことです。二点目としては、少子高齢化、環境問題といった中長期の問題に対し、そうしたマイナス要因を乗り越え、新たな需要を喚起していくということです。

 王守栄氏は、環境分野での日中協力の可能性について語りました。気候変動への対応や、循環型経済への転換という面で、両国は大きな協力関係を築く余地がある、という趣旨の発言です。

 深川由起子氏は、内需拡大という論点につき、「日本は、規制で縛られている分野を変えていくことだ。中国については、インフラ投資だけでなくソフト面も進めていくことと、沿岸部と内陸部など、国内経済を統合していくこと」と述べました。資源・エネルギー制約については、「制約の下で、省エネなどの必要な投資を行っていくことだ」と述べました。この点については小島氏も70年代の日本の経験を引き、賛同しました。

 李明星氏は、内需拡大については、「非効率な投資を避けたり、エネルギー効率を高める必要がある。そこでの日中の協力の余地は大きい」としました。内需とコインの裏表である貯蓄率の問題については、「社会保障体制の不備が問題だ」とし、共に少子高齢化を迎える中での、社会保障体制整備の上での協力についても言及しました。

 井口武雄氏の発言は気候変動に関係するもので、他のパネリストとは異なる角度から協力の具体策を提案しました。井口氏は、気候変動の影響を最も受けるのは、自力での回復が難しい低所得層であるとしました。そして低所得者層の救済について、「人道的な見地からはもちろん、反社会的な活動を防ぐ意味からも重要だ」という見方を示しました。井口氏の提案は、民間金融機関や中央銀行、国際金融機構などが協力し、低所得者を自然災害の被害から救済する機構を設立してはどうか、というものです。そして最後に井口氏は、「日中の協力があればそれは必ず実現し、有効な手段として機能するだろう」と述べました。

  呉垠氏は、経済危機の影響について、「人の経済、という視点が深まったのではないか」という視点を示しました。日中両国の関係については、市場調査などによって様々な基準を作ること、文化・社会の交流を深めていくことが重要であると述べました。

 その後フロアから、王氏に対して、「GDP至上主義からの脱却」とは具体的にどのような形なのか、と問いが発せられました。王氏は、GDP至上主義は是正される「べき」だとの意見を表明しましたが、「地方政府の幹部がGDPという指標に囚われ、なかなか実行できないことも出てくる」として、実際上の困難を指摘しました。

 最後に日本側司会の小島氏は、「危機後の課題、それから市場経済を生かしていく方向性については、コンセンサスがある」とした上で、「あとは、今後どのようにそれを実行していくかだろう」と総括しました。
 中国側司会の項氏は、「金融危機後は、両国が同じスタンスで会話を共有できている」とまとめ、前半部が終了しました。

 ここで会場は20分間のコーヒーブレイクに入りました。

11月2日 経済対話(後半)報告

 再開後の後半部では参加者が一部入れ替わり、日本側パネリストとし河合正弘氏(アジア開発銀行研究所所長)、早川英男氏(日本銀行理事、大阪支店長)が、中国側パネリストとして董裕平氏(社会科学院金融研究所公司金融研究室主任)、張元達氏(中国中小企業協会福事務局長)、夏占友氏(中国対外経済貿易大学国際経済研究院副院長)が壇上に上がりました。基調報告を行ったのは武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長)と張偉氏(中国国際貿易促進委員会副会長)、司会を務めたのは小島明氏と周牧之氏(東京経済大学教授、米国マサチューセッツ工科大学客員教授)でした。

 冒頭、周牧之氏は、「何故、アメリカ発の金融危機で日中までが影響を受けたのか」「投資ゲームの過剰から生じる金融危機を防ぐには、どうしたらいいのか」とパネリストに問いかけました。


 nihonngawapanerisuto keizai kouhan2後半は主として金融的な側面が議題でしたが、張偉氏は貿易面を中心に危機後の中国経済の課題について基調報告を行いました。張偉氏は、労働集約型の加工貿易や、海外ブランドへの依存のため、国内での付加価値が乏しいことを問題点として挙げ、量的な拡大から質的な拡大にシフトし、より付加価値を高めていくことが重要であると主張しました。また、低炭素経済についても言及し、排出削減の規模と、途上国を含めた公平性の2点が重要であると述べました。
 
 武藤氏の基調報告では、昨今の経済危機に関し、通貨・金融の面から論点が提示されました。武藤氏は「SDRなどは計算単位に過ぎず、ドルに代わる基軸通貨は存在しない」と述べ、基軸通貨ドルの価値安定が必要だとしました。中国の為替制度については、一層柔軟な体制への移行と、資本移動の自由化が長期的には必要であるとの考えを示しました。最後に武藤氏はアジア全体について触れ、「モノの移動だけでなく、資本移動も自由になっていくべきだろう」「アジア共通通貨については、各国が通貨主権を手放すには長い時間がかかるだろう。通貨バスケットであるACU(アジア通貨単位)の活用などが現実的だ」と述べました。

 
 以上を踏まえ、パネリストのコメントに移りました。

 国際金融システムについて董裕平氏は、「G20という仕組みはあるが、実行体制は伴っていない」と発言し、改革の必要があるとの見方を示しました。アジアの通貨協力については、「アジア通貨基金に反対するのはアメリカだろう」「アジア通貨は長い道のりだが、考える必要がある」と述べました。

 続いて河合正弘氏は、「アジア共同体」という言葉のイメージについて、FTAの締結、域内金融市場の統合、危機対応のメカニズムという3点を挙げて整理しました。また、アジア域内の様々なギャップ、多様性についても触れ、経済政策で協調していくためには弱い国の底上げが必要だとしました。通貨システムについては、ドルの価値安定の重要性について、武藤氏に同調しました。一方で、長期的な視点では、ドルの減価、人民元の増価が必要だとも述べました。

 ここで司会の小島氏は、人民元の問題について、「微妙な問題だ。切り上げ圧力もあるが、日本国内では以前よりは弱まっている」と述べました。

  張元達氏は、中小企業というミクロの問題について説明しました。中国国内における中小企業のシェアは大きく、環境問題における日中協力の重要性が、主要な論点です。

 早川英男氏は、これまでの主要な論点につき、新しい視点を示しました。まず、為替レートの問題について、「現在のように人民元対ドルレートが安定していれば、ドル下落の趨勢下では元も他通貨に対して下落し、他国の不安が広がる」と指摘しました。また、資本市場の自由化については、早川氏は資本市場が持つガバナンス機能を重視して議論を展開し、「中国の金融機関は拡大したが、資本市場の質は追いついているか」と問題を提起しました。また、「日本の内需主導への転換が成功していない一因も、資本市場のガバナンスの弱さにあるのではないか」とも述べました。

  夏占友氏は、現在が国際金融の改革にとって都合の良い時期であると述べる一方、国内中小企業への影響を考え、人民元の切り上げには慎重な姿勢を見せました。


 ここでコメントは一巡し、フロアも交えて更に討議が行われました。その中で董氏は、人民元の切り上げについて、夏氏と同様に「中小企業への影響もある。切り上げで社会が崩壊したら、誰も責任を取れない」との意見を述べました。日本側からは武藤氏と河合氏が応じ、武藤氏は「現実的に、通貨や金融の話に政治的判断が入ることに異論はない。だが、長い目で見れば自由化することが中国の利益になるのではないか」と述べました。河合氏も賛同し、「金融システムの自由化はリスクを高めることにもなる。不適切な為替レートを続け、不均衡を増大させることは避けるべきだろう」と述べました。

 最後に、周氏は「日中両国が、お互いに色々なことを要求できる夫婦のような関係になればいいと思っている」と締めくくり、「経済対話」の議論は終了しました。

経済対話パネリスト

<経済対話>(大連フラマホテル 天波府B厅)

前半:日中相互に有益な協力関係を推進し、協力して世界経済危機と戦う

時間   日本側 中国側
13:30-
15:30
(現地時間)
14:30-
16:30
(日本時間)
 

 
 
 
 
 
司会
小島 明
(日本経済研究センター特別顧問)


項 兵
(長江商業学院院長)

基調報告
福川 伸次
(財団法人機械産業記念事業財団会長、元通商産業省事務次官)


遅 福林
(中国改革発展研究院院長)

パネリスト
 
 
 

河合 正弘
(アジア開発銀行研究所所長)


王 守栄
(中国気象局副局長)


田波 耕治
(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問、元国際協力銀行総裁)


李 明星
(中国企業聯合会副理事長兼国際部主任)


深川 由起子
(早稲田大学政治経済学部教授)


呉 垠
(零点研究コンサルティンググループ副総裁)

後半:日中協力で、アジアと世界の金融通貨システム改革を推進する

時間 日本側 中国側
15:50-
17:50
(現地時間)
16:50-
18:50
(日本時間)
 
司会
小島 明
(日本経済研究センター特別顧問)


周 牧之
(東京経済大学教授、米国マサチューセッツ工科大学客員教授)

基調報告
武藤 敏郎
(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁)


張 偉
(中国国際貿易促進委員会副会長)

パネリスト
井口 武雄
(三井住友海上火災保険シニアアドバイザー、同元会長)


董 裕

(社会科学院金融研究所公司金融研究室主任)


河合 正弘
(アジア開発銀行研究所所長)


張 源達

(
中国中小企業協会副事務局長)


早川 英男
(日本銀行理事、大阪支店長)


夏 占友
(中国対外経済貿易大学国際経済研究院副院長)

カテゴリ: 2009年 第5回