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10月26日午後に行われた分科会「経済対話」では、「アジアの経済発展のための日中間の課題と連携」をテーマに議論が行われました。
武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長)が日本側、江瑞平氏(外交学院副院長)が中国側の司会を務め、魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)、趙晋平氏(国務院発展研究センター対外経済研究部部長)、霍建国氏(商務部国際貿易経済協力研究院院長)、張紅力氏(中国工商銀行副総裁)、李稲葵氏(清華大学経済管理学院フリーマン経済学講座教授)、荘芮氏(対外経済貿易大学国際経済研究院副院長)、數土文夫氏(JFEホールディングス株式会社相談役)、伊藤達也氏(衆議院議員)、河合正弘氏(アジア開発銀行研究所所長)、田波耕治氏(株式会社三菱UFJ銀行顧問)、山口廣秀氏(日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社理事長)がパネリストとして参加しました。
冒頭、日本側司会の武藤氏から「尖閣問題を発端とした政治的な緊張関係により、双方の国民感情はこのフォーラムが始まって以来最悪といってよい状況にある。経済にも影響が生じており、両国の関係が悪いままではアジアにも悪影響を及ぼすのではないかという問題意識を持っている。率直な話し合いをし、お互いの意見を共有することが重要ではないか」と趣旨説明が行われました。
まず、魏建国氏は、今年1-9月の日本から中国への投資は増加し、中国から日本への観光客数も増加しているというデータを示し、「政治や外交情勢に影響されず、両国は経済や貿易面からの協力をさらに推し進めていくべきであり、それが結果として政治や外交にも好影響をもたらすだろう」と指摘しました。その上で、今年、中国は中小企業の代表団を日本に派遣して、地方自治体との連携を推進しているが、実行可能な具体案を提案していくことが重要であると指摘しました。
これに対して日本側から數土文夫氏は、日中両国は1972年(日中共同声明)、1978年(日中平和友好条約)の原点に立ち戻ることが必要であると述べたうえで、「日中両国のGDPを合わせると世界の20%、アジアの80%を占めており、その影響力は巨大であり、アジアや世界に対して日中協力がいかに重要かは明白である。だからこそ、ビジネスは政治と切り離した存在であるべきだ」と主張しました。
一方、趙晋平氏からも、「世界金融危機によりアジアの新興国の成長も鈍化している現在、中日両国はアジア域内でインフラ整備や資源の共有など、アジア全体の経済発展、連携強化に寄与することができるはず」との見解が示されました。
伊藤達也氏からはアジア全体が中長期的に成長するための重要なポイントとして、経済統合の深化、格差の是正、持続可能性の向上の3つが示され、「これを実現するためには日中協力が不可欠であり、事態の改善を大局的な見地から考えるべき」との指摘がありました。
その後、日中関係は2国間だけの問題ではなく、日中の良好な関係がアジア経済の発展に資するという認識は共通しているものの、中国側パネリストからは「政冷経冷」を懸念する声が多く聞かれ、政治の問題が経済に影響を与えていること、そして政治的な問題が解決されなければ、真の意味で経済問題の解決にはならないとの認識が示されました。
しかしその一方で、日本側パネリストからは、日中間が政治的に困難な状況であるからこそ、貿易や投資、人的交流のつながりを深めるべきで、「世界のGDPの2位と3位が対立したままでいいのか。政治と経済の優先順位を逆転させて、世界に貢献すべき」(田波氏)との強い発言が出されるなど、日中間の関係改善の重要性が議論されました。
コーヒーブレイクの後に行われた「経済対話」の後半では、中国側司会の江瑞平氏が、アジアや日中経済に対する現状認識、経済と政治の良好な相互作用をいかに実現するかという問題をパネリストに提起しました。
最初に數土氏が、政治が盤石なのに経済がダメで崩壊してしまった事例は多いと指摘し、「中国もこれまでは経済をうまくやってきたが、そろそろ危機感をもってもいいのではないか。それに対応するため、経済優先の考え方があってもいいではないか」と述べました。
それに対して中国側の荘芮氏は、「企業が投資を検討するにあたって政治リスクは最も重要な要素」で、両国の政治関係が悪化して以降、日本から中国への直接投資等に大きな悪影響を出ていると述べましたが、霍建国氏は「中日経済の協力はアジア全体にとって大変重要。両国は製造業、エネルギー環境等、多岐にわたる分野で協力できる可能性を秘めている」と経済面での関係改善の必要性を訴えました。
さらに、河合正弘氏は、アメリカの金融緩和が縮小に向かえば、資本の逆流により打撃を受けるアジア新興国が出てくる可能性があると指摘。その際には「日本と中国が一緒になって危なくなった国を支える必要がある」と人民元の国際化を危機対応の側面からも進めるべきだと主張しました。
この見方について李稲葵氏は、中国政府は日本の「失われた20年」の二の舞いを避けるための構造改革を進めており、「既に大幅に外需依存度を引き下げてきた」と強調。さらに中国政府は近く抜本的な改革方針を打ち出す予定で、改革を着実に実施すれば「再び8%近いGDP成長率に戻れる」との強気の見通しを示しました。
その後、中国側パネリストからはアベノミクスに対する高い関心が寄せられ、一部からは「円安を意図したものではないか」との懸念も示されました。
これに対して、山口廣秀氏は「為替レートは政策当局が自由に制御しようと思ってもできるものではない」とそうした意図を否定。武藤敏郎氏は「アベノミクスは、マーケット心理を完全に変えた。株価が上昇し、消費に好影響を与えている」と一定の評価を与えた上で、今後は規制緩和や貿易自由化で成果を上げられるかを冷静に見守る必要があると述べました。
最後に一般の傍聴者から「上海自由貿易区」の取り組みに関する質問が寄せられました。田波耕治氏は、これまで中国経済は政府のコントロール下で、国有銀行中心の金融制度に基づき輸出・投資主導の高度成長を遂げてきたが、「これを転換するには市場メカニズムに沿った金融システム構築が大きな課題」であるとして、試験的な金融自由化に強い期待を示しました。
以上の議論を総括して、日本側司会の武藤氏は「本日は非常に有意義な対話ができた。日中平和友好条約の原点に立ち戻り、これからも大局的に未来に向かった議論を続けていきたい」と述べ、4時間以上にわたるこの日の議論を締めくくりました。
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