.
10月24日、25日の2日間にわたって開催されている「第11回 東京-北京フォーラム」。24日の午後の政治・外交分科会では、日本から工藤泰志(言論NPO代表)が司会を務め、明石康氏(同フォーラム実行委員長)、中山恭子氏(参議院議員、次世代の党代表)、山本有二氏(元金融担当大臣)が、中国側からは楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所副所長)が司会を務め、陳建氏(元国連事務次長)、呉建民氏(元外交学院院長)、曹衛州氏(全人代乗務員会委員、全人代外事委員会副主任委員)、呂鳳鼎氏(元中央外事指導グループ弁公室主任)、呉寄南氏(上海日本学会会長)の5氏が参加し、「日中両国の未来と東アジアの平和をどう描くか―両国の世辞に問われる信頼と協働」をテーマに議論がなされました。
冒頭発言に立った工藤は、共同世論調査結果から、日中両国の関係改善の障害について日本世論は「尖閣諸島の問題」、「政府・政治に信頼関係がないこと」を挙げました。特に後者について、政治のコミュニケーション不足により、相互信頼が失われていることから、「まずは政治家が互いに話し合わなければならないし、互いの政治関係の現状評価、その中で何が問題かを相手に分かる形で説明する必要がある」と語りました。
また、日中両国が自国の未来やアジアの未来をどう考えているのか、という点について話し合うことで、認識の違いやコミュニケーションのギャップの存在が浮かび上がってくる、そうした作業を経て、両国の政治の信頼関係を取り戻していくことが必要ではないか、と今回の政治・外交分科会での問題提起を行いました。
続けて工藤は、「中国側に安倍政権の基本的なスタンスに対する不信感が感じ取られる。その背景として、戦後70年の日本の平和主義に対する中国側の理解と信頼が日本人ほどには強くないということが原因となっているのではないか」と持論を述べました。そして、安保法制についても言及し、「日本の戦後は平和主義であり、侵略は二度としないという強い気持ちに支えられていたが、それはややユートピア的な平和主義だったかもしれない。その修正が今行われているのであって、戦後平和主義自体を変えようとしているのではなく、それは脈々と受け継がれている」とし、今回の中国世論でも日本は「軍国主義」である、との回答が多数となったが、安倍政権下も再び軍国主義になることは「あり得ない」と指摘しました。
呉寄南氏は日中関係の現状について、この1年間で2回の首脳会談が実施され、さらに訪日中国人観光客は急増するなど、民間交流は回復していることなどを挙げ、日中関係はゆるやかな好転の兆しが見られとしました。しかし、歴史問題、島の問題、安保法制の問題などを挙げ、日中関係の全面的な転換点にはまだ至っておらず、中日関係に対する慎重ながらの楽観視しており、特に、「中日間の4つの政治文書を守れば必ず長期的な安定的発展を遂げるだろう」と語りました。呉建民氏も呉寄南氏に賛同を示した上で、「日中両国の信頼醸成のためには、共通の利益がどこにあるかを探し、利益を広げていくことが最良の方法である」と指摘しました。
山本有二氏は、世界は地政学的に、北米、ヨーロッパ、アジアの三極に収束していくとした上で、人口問題を挙げ、消費生活を一般市民の人口で見れば、アメリカは3.2億人、欧州は5億人、中国は言うまでもなく13億人、アジアというくくりでカウントすると30億人になり、欧米対アジアという三極から二極への対立構造へと変化があるのではないか。その際にアジアの中心になるのは、市場は中国、その成長のために大きな役割の1つが日本になる」と語り、現在、日中簡易は空域、領土、南沙諸島など政治的に懸念がたくさんあり、歴史問題も日中の関係において解決の段階ではないが、将来、高速連絡網や鉄道網の連絡、航空便の増便など交流をもっと進めればおのずから政治の問題も片付くのではないか、と今後の日中関係についての見通しを示しました。
陳建氏は、この1年間で首脳会談が行われ、日本からの3000人の多数の日本人が訪中するなど、両国関係にプラスの効果を与えているとしつつ、終戦70周年を記念する行事に日本の指導者が加わることができなかったこと、南京大虐殺の世界遺産登録に反対があったことを挙げ、和解のチャンスを失い残念だと語りました。さらに、中国は日本をパートナーとみていたが、日本は安保法案を採択したこと、日本の防衛白書においては中国を北朝鮮に並べて脅威としていることなど、日本がもはや中国をパートナーでないと認識しているという印象を中国は抱いていると指摘。しかし、「福田元総理の警告に耳を傾けると、お互いが決して敵視してはならない」し、そうすることで、「中日関係を友好的な隣国関係に戻すようにするべきだ。それでこそ地域の繁栄に貢献できる」と語りました。
今回、対話に初めて参加した中山恭子氏は、こうした民間のフォーラムは非常に重要で、有意義な会合に参加できて光栄である、と語りました。続けて、日本は中国から文化を取り入れ日本の文化に持ち込み、日本文化を作ってきた。だからこそ、中国に対して尊敬の念を抱いている。特に、日本人は漢字をもとに平仮名やかたかなを作るなどしており、「二国間で漢字をもとにした文化の交流をもっと広げられれば理解も深まるのではないか」と提案しました。また、安保法制などにも言及し、「日本は、国際秩序を乱すことは決してなく平和安全を守ることを誓っているから、両国に平和的な絆を作ることは必ず出来る」とし、中国側に安保法制に関する理解を求めました。
ここで発言を求められた工藤は、安倍談話について、過去の侵略戦争を肯定しているのではなく、侵略戦争を認めた上で、平和五原則を認めている。そこで、安倍談話の評価についてみなさんに聞いてみたいと質問を投げかました。
これに対して中国側からは、「安倍談話の中で日本がアジア中国についても侵略、お詫びする文字は見えなかった」として、安倍談話にはがっかりしたと意見が出る反面、「侵略、植民地支配、というキーワードを盛り込んだ。日本の多くの研究者、委員会共意見交換したが、人によってはキーワードを入れないだろうと踏んでいたのだが、それに反して入れたのは一種の妥協、安倍首相にとっては進歩であり、ある意味においては評価している」との意見も出されました。また、英語版中国語版も読んだ上で、「安倍首相にしては進歩、日本政府にしては後退だ」と語り、「日本政府は、我々が謝罪を求めていると考えており、そして1回謝れば十分だと考えている。我々は日本が謝罪しても否定するということが繰り返されている」ことに疑念を抱いていると表明しました。
山本有二氏は、安倍談話について、「日中間について将来の子どもたちが手をつなげるようにしたいと、『将来』を特に重視している」と指摘し、「日本も今からでは遅くない。戦争責任の評価を日本国内で始めることで日本と中国の美しい未来を作れると思う」と、今後、戦争責任について議論を行うことに含みを持たせました。
明石氏は陳建氏の「南京虐殺」の発言に同意を示したうえで、「数の問題ではなく、一人でも殺すことは人道的な問題である」と語りました。また、政治家の靖国に参拝についても、現段階では行うべきではない、とする一方、自身の肉親のために参拝している国会議員がいることもあり、A級戦犯が他に分祀されたら靖国に参拝するのは許しても良いのではないか、と語り、福田元総理が専門委員会を作り、千鳥ヶ淵のような第三者的なところを作るという構想がとん挫している状況を、前に進めるべきではないかと指摘しました。
これに対して、中国側からも賛同が示されるなど、活発な意見交換がなされました。
最後に中山氏は、「政府が特定の動きをする可能性もあるし、軍部をコントロール出来ないまま政府が動くこともあるかもしれない。その中で重要なのは、このような民間の力が重要であり、大きな力を果たすと考えている。同時に、相手を知ることが大事であり、ぜひたくさんの方が日本に来て日本人はどういう人なのか知ってもらいたい。日本人も皆様を知ること、それが最大のポイントになると思う。中国の人が日本の人と接触すれば日本人は決して残虐でなく、最も優しいと言ってもいいと思うが、それを知ってもらうことがアジア全体の発展に役に立つと思う。日本は中国が経済発展することを喜んでいるし、経済的にも更に発展してもらいたいと考えている。仲良くしていこうと言うのが大半の考えであり仲良くしていきたい」と締めくくり、前半の対話は終了しました。
政治・外交対話後半の議論では、冒頭、中央アジアに向かうために、途中退席する中山氏が発言に立ちしました。
その中で中山氏は、「子どもに対する教育でも、日本では昔からいつもお日様が見ているのだから悪いことをしてはいけない、と教えられた。ほかにも、例えば嘘をつくな、卑怯をするな、弱いものをいじめるな、そして人を決してだますな、といったことは日本の子ども達に教えられる基本的な事柄であるが、こうした伝統的な事柄が失われているのではないか。そうしたことを子供たちに伝えていくことで、その子ども達が大人になった時に、中国の人たちと分け隔てなく友人関係を結んでいくのではないか。私達は時間のかかることかもしれないが、日本文化に影響を与えてくれた中国に対し、中国に敬意を示しながら、子ども達に教えていきたい」と語り、フォーラムを後にしました。
その後、会場では前半での議論も踏まえながら、自分の国、この地域、更に相手の国との関係についてどのようなビジョンを持っているのか、どのように描いていこうとしているのか、と言った点を主な論点として議論が行われました。
まず、明石氏は、前半で日中関係の問題、歴史の問題について熱心な議論がなされたことは、「未来を語るうえで必要な前提」だったとし、歴史教訓を忘れることはあってはいけないと指摘する一方、国連時代、様々な紛争解決に携わってきた経験を踏まえると、「歴史に学びすぎるということもダメだ」ということを紹介しました。明石氏は国連のPKOに長く関係しており、「国連の必要性、価値そのものを強く感じると同時に、国連を神格化してもいけないということも感じますし、国連以外の手で、地域的な多国籍軍的な力でことを処理することも時には必要なことがある」とし、「中国、日本、韓国、東南アジア諸国も含めて我々は国連をどうすればいいか、国連にはどういう利点があり、どういう弱点があるか、そういう問題にも一緒に考え、力を合わせるという視点がとても大事だと思う」と語りました。
続いて、楊伯江氏は、前提として、現在、人質外交のような「極端な手段で国際問題を解決することはできない時代であり、平和、協力の中で発展を求めていくしかない。それが、私たちが今おかれている時代に対する認識である。そのような認識から出発して、中国外交のいろいろな性質が決まった。つまり、いかなる紛争に対しても、平和的な手段を用いることは絶対だ」と語り、中国の外交姿勢について説明がなされました。
山本有二氏は、これまで東洋文明が西洋文明に主導権を握られていた時代が終わろうとしているのではないか。そこで、日中が対立を続けていると西洋に変わることはできないのではないか。やはり、日中両国は協力関係を築き、様々な面で相互理解ができるのであれば、東洋の文明が再び始まるのではないか、との見解を示しました。
山本氏の発言を受けて呉建民氏は山本氏に同調した上で、「このようなチャンスが訪れるためには、中国と日本の協力が必要不可欠である」と指摘しました。一方で、東アジアでは経済的な協力は大いに前進しているが、安全保障の問題は日中関係に横たわっており、この地域の安全保障のメカニズムは存在しておらずし、日米同盟をもってアジアを支配することは賛同を得られないだろうと語りました。そうした中、中国では、アジアの安全保障について中国から国防大臣、制服組のトップが、アメリカも参加しながら協議をしており、「ぜひ、日本からもハイレベルな人に参加してほしい」と要望を示しました。
続いて陳建氏は、南海問題、南支那海問題について触れ、中国と日本との問題ではないとしつつ、「中国と日本の新しい問題に発展する危険性がある」と懸念を示しました。その上で、陳建氏は「南支那海の政策は、平和と安定を擁護し、航行の自由を確保すること。南支那海における中国の島嶼、そして、を確保し、紛争を平和的に解決していくことをようにある」としました。そして、「中国の管轄下にある一部の島嶼で、建造物を作ったが、これは中国の主権を守るだけではなく、南シナ海における安定、航行の自由に視するものであるし、国際法に照らして問題はない。しかし、現在アメリカでは、中国の課題、やり方に関して、避難をしており、日本もそれに同調する声がある。もしこのような話が日本政府の政策になってしまうと、日本の中日関係へのもっとも厳しい挑発になる」と語り、南シナ海での日本のアメリカへの同調が、日中間の新たな火種になる可能性について言及しました。
その後、会場から質問を回収しての質疑応答に移りました。
会場からは、中日関係におけるアメリカのファクターをどうとらえればいいのか。アジアにリバランス戦略ということは中日の相互信頼に影響あるのか、世界における中国の影響力が高まっているとみているのか、その時、日本政府はどのような態度でそれに望むべきか。また、安保法制が採択されたことについて、国民の大きな反対にあったが、何を物語っているのか。こうした動きは来年の参議院選挙にどういう影響を及ぼすのか、などの質問が寄せられ、日中両国から発言がなされるなど、活発な意見交換が行われました。
最後に、楊伯江氏は、「今回の議論でも多岐にわたって議論を行うことができた。プラスにしろ、マイナスにしろ、今後も、未来にわたって中身の濃い議論ができると思う」として、政治・外交分科会を締めくくりました。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。