. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 「第12回 東京-北京フォーラム」メディア分科会 報告

メディア分科会「問われる国民感情の改善と日中のメディア協力」 前半

1.jpg メディア対話は、「問われる国民感情の改善と日中のメディア協力」をテーマに、日中合わせて18名のパネリストをお招きして開催されました。日本側・近藤誠一氏(元文化庁長官)、中国側・王暁輝氏(チャイナネット総編集)の司会で、日本側のパネリストは青樹明子氏(ノンフィクション作家)、天児慧氏(早稲田大学国際学術院大学院アジア太平洋研究科教授)、伊藤俊行氏(読売新聞東京本社編集委員)、大野博人氏(朝日新聞論説主幹)、加藤青延氏(NHK解説委員)、工藤泰志(言論NPO)、杉田弘毅氏(共同通信編集委員室長)、荻原豊氏(TBS報道局プロデューサー・編集長)、山田孝男氏(毎日新聞特別編集委員)の9名、中国側は袁岳氏(零点研究諮詢グループ董事長)、金瑩氏(中国社会科学院日本研究所研究員)、孫尚武氏(中国日報社副総編集長)、王衆一氏(人民中国雑誌社総編集長)、呉学蘭氏(新華社編集委員、CCTV評論員)、蘇海河氏(経済日報東京支局長)、李淼氏(フェニックステレビ日本支局記者)の7名が参加しました。


 今回のメディア対話は先日行われた日中世論調査の結果を元に行われ、前半は世論調査が示す近年の両国国民感情悪化の原因の分析について双方が意見を述べ合い、後半にその国民感情を改善する為にメディアは何ができるのかについて議論を行いました。

 初めに日中両国の参加者からの自己紹介が行われた後、工藤が世論調査結果について解説しました。



両国民は政府間だけではこの局面の打開が難しいと感じ、「民間」の展開に期待を寄せている

YKAA2362.jpg 工藤はまず、「今回の調査結果の第一の特徴は、これまで改善に傾いていた両国民の意識が再び悪化に転じたこと」を指摘。これについて工藤は「これまで現状の日中関係に対する国民の認識は、政府間の交渉、とりわけ首脳レベルの会談の動向に影響を受けていた。その点で言えば、長らく途絶えていた日中首脳会談が再開され、会談時の首脳の表情も笑顔に変わってきたにもかかわらず、国民の意識は逆に悪化し始めた」と述べ、「両国でこれからの日中関係の改善に確信を持てない人が増加している」と語りました。

 さらに工藤は、両国民の6割以上が民間レベルの交流が重要だと答えたことなどに言及し、「国民の目が対立ではなく、国民間の交流に向かい始めている」と述べ、さらに、「私がより興味を持ったのは、『今後、交流を進めるべき分野』という設問で、中国人は『メディア間の交流』を最も重要だとし、日本人は留学生交流の次に、『両国関係の改善や様々な課題解決のための民間対話』を選んだことだ。中国人がメディア交流を選ぶのは、メディア報道を変えることで事態の沈静化を期待する人が多いからであり、メディアの限界を知っている日本人で民間対話が多いのは、課題の解決の取り組む民間の動きの方が、世論に訴え、政府行動に影響力が大きいと判断しているからだ」と分析。国民間の意識にこうした変化が出ているのは、「現状に対する不安と同時に、政府だけでは解決は難しい局面にいることを多くの国民が気づいているからだ」と指摘しました。

 こうした調査結果を紹介した上で、「政府間の関係が改善傾向にあるにも関わらず両国間の国民感情は改善の兆しを見せないのはなぜか」、「日中国民とも将来の両国友好関係について悲観的な見方が広がったのはなぜか」という問題提起がなされ議論が始まりました。

メディア報道が日中両国の国民感情に与える影響

YKAA2325.jpg 青樹氏は現在の両国の国民感情が悪化しているかなりの部分がメディアの責任であると指摘しました。具体的には、抗日ドラマを通じ中国の若年層に植え付けられた日本に対するステレオタイプ的な悪い印象や、日中の商習慣の違いによって引き起こされているにも関わらず中国人観光客のマナーの問題として報じられる「爆買」に関わる報道を通じてメディアは両国の国民感情の悪化の要因となっていると指摘する一方、そういった報道を減らし、両国間の正しい姿を伝え相互理解に資する事により日中両国のメディアは国民感情改善に大きく貢献できると主張しました。


YKAA1393.jpg これに対して、袁岳氏は抗日ドラマについて、以前と比較して日本人の印象が大幅に改善されたと述べ、むしろ日本のアニメ・ドラマの放送により日本に対して好印象を抱いている若年層が増えており、そのことが若年層における対日感情が他の年齢層より良いという世論調査に繋がっていると主張しました。また同時にウェブサイやSNSといった新しいメディアが若者に与える影響についても言及し、「このような新しいメディアの活用が特に両国の若者における国民感情改善の為には欠かせない」と指摘しました。


YKAA1469.jpg 伊藤氏は「産業としてのメディアの変化が日本における報道を通じた国民感情の悪化につながっているのではないか」と述べました。具体的には、現状進んでいる新聞の衰退により、新聞社は読者がより好む報道をしがちになり客観的な報道が難しくなってきている点を指摘。インターネットメディアについても、嫌中・嫌韓に関する記事が多く読まれる中で既存メディアもそれに引っ張られてセンセーショナルになりがちである、と語りました。


YKAA2306.jpg 李氏は、両国において多くの人が相手国に関する情報を得る手段として自国メディアを挙げている点を指摘し、相手国の真実を伝えるメディアの責任の大きさについて言及しました。その中で李氏は特に、日本の一部のメディアによる中国に対するネガティブな偏向報道について述べるとともに、「過剰な中国脅威論についても日本メディアは言及し真実を伝えるべきだ」と語りました。


YKAA1482.jpg メディアの責任について加藤氏は懐疑的な意見を述べました。メディアは政治を動かすべく積極的に政治に働きかける主体ではなく、あくまで読者・視聴者に判断材料を提供するものであると主張。また相手国のポジティブな情報のみを報道するということについても否定的な意見を示し、「国民生活に悪影響を与える可能性がある情報について、メディアには報道する責任がある」と指摘しました。さらに客観報道についても本質的な限界を主張するとともに、特に日本の報道の内向き志向が進み客観性がより失われつつある点についても懸念を述べました。


YKAA2279.jpg 萩原氏は、「人はテレビ、映像に移ったものを信じてしまうという側面がある」と指摘。イラク戦争のとき、象が倒れて、周りの人が喜んでいるという映像が流れたことに対して、「どこにカメラを向けるのか考えながら、編集もしなければならないし、写っていないものをどう解説していくのかが、私たちメディアに求められていることだ」と指摘し、映像による報道の難しさを、自身の経験も踏まえながら語りました。

相手の理屈も入れて報道することの必要性

 天児氏は世論調査結果を踏まえ、「外交関係の改善が国民感情の改善に繋がらないのは従来とは異なる展開であり、事態は以前よりも複雑化している」と指摘。その上でAPECでの習近平主席と安部総理の会談を例に挙げ、「ニコニコと気持ちよく合っている姿が見られれば国民もプラスとして評価すると思うが、そこまではできてないということを真剣に考慮すべきだ」と語りました。加えて、「互いを理解するためにマイナスの報道はやめてプラスの報道にしろというのは短絡的であり、マイナスの事がおこったら報道せざるを得ない」としながら、相手の理屈も入れて報道することの必要性を強調し、日本メディアもそうした報道に慣れていくことが必要だ、との認識を示しました。

YKAA2330.jpg 王衆一氏は外交関係と国民感情の不一致について、両国民間の直接的な交流の重要性を指摘しました。日本に旅行した中国人の対日感情が相対的に高いことを踏まえ直接的な交流の重要性を説きつつ、特に中国から日本へ行く観光客が増えている一方日本から中国に行く観光客が少ない現状に言及し、このような状況に対して日本のメディアが出来ることは多いのではと語りました。述べました。


 前半は、両国の国民感情悪化の要因に関する議論が繰り広げられ終了しました。


メディア分科会「問われる国民感情の改善と日中のメディア協力」 後半


メディア2.jpg メディア分科会の後半は、前半での日中国民感情悪化の要因分析を受け、その両国民の国民感情の悪化に対してメディアは何が出来るかについて議論が行われました。

相手の立場を含めた意見を伝えることで、国民間の相互理解に貢献

YKAA1536.jpg 杉田氏は日中関係が複雑化して行く中でのメディアの役割について、ジャーナリズムは政治に対して政策を提供するものではなく、両国の領土問題や海洋問題に対して解決の枠組みを提供できる訳ではない、としながらも、互いの政府に対して批判的精神を持って報道し、相手側の立場を含めた様々な意見を伝えることで、国民間の相互理解に貢献することできると語りました。

 日中メディアの協力については、北朝鮮の問題や、環境問題、世界経済の問題など、双方の抱える問題を扱うことで、より相手の事情を考慮しながら報道し、両国関係性のゼロサム的軌道を少しでも修正できるのではないか、と主張しました。

既存メディアとSNSなどの新しいメディアは共存できるのか

YKAA2306.jpg 李氏は、所属するテレビ局で実施した領土問題・海洋問題に関する日中専門家の討論番組を紹介し、タブーを無くし両国間に開かれた議論を行うことの重要性を述べました。またそれとともにインターネットやSNS等の新しいメディアを使用した報道を推奨しました。中国ではWeChatやWeibo等のSNSを使用してメディアの記者が自由に報道を行うことが一般的になっており、その影響力は非常に大きいと話す一方、日本でも記者が積極的にSNSを使って発信すべきだと主張しました。


YKAA2255.jpg 山田氏は自身がSNSを使っていない理由について、SNSという情報が勝手に拡散するインターネット上で、かつ少ない文字数で真に自分の言いたいことを正確に伝えることの難しさを指摘。それとともに新しいメディアの課題として、伝統的メディアで行われているような長期的な目線でみた人材育成を挙げました。




YKAA1382.jpg 王暁輝氏は、新しいメディアはこれまでの伝統的なメディアが取っていた手法とは異なる手法を使うことで、若者を中心とするこれまでとは異なる読者・視聴者層に訴えかけるという使い方が出来るのではと述べました。そして日中でインターネット・SNSといった部門で協力することで、両国の若者に対して相互理解に繋がる報道が出来るのではないか、と指摘、さらに若者世代の相互理解を進める為に次回の「東京-北京フォーラム」からはメディア対話に20代の若者を呼んではどうか、と提言しました。


日中両国の編集長が集まる舞台をつくれば、報道の過熱化を抑制できるか

YKAA2279.jpg 萩原氏は、伝統的メディアにおいては日中両国の編集長レベルの対話が必要であると述べ、日中間で偶発的な事件が起きた際に両国の記者編集長が集まれるプラットフォームをつくることで、さらなる事態の過熱化を抑制できるのでは、と語りました。また、社会問題についての調査報道の意義を述べ、同時に中国との番組の共同制作の可能性についても検討すべきではないか、と言及しました。


YKAA1403.jpg 孫氏は、現在の日中両国のお互いに対する報道の分野が政治等に偏っていると指摘し、環境等の多様な分野についても報道することで、お互いの国への関心を広げることができると主張。また、報道機関間での協力については中国日報社がワシントンポスト等の欧米メディアと協力を進め、他言語で発信していることを紹介し、メディア間協力の持つ大きな可能性を主張しました。


YKAA1482.jpg 議論も終盤に差し掛かる中、加藤氏は両国のメディアにはまだまだ違いが多くあり、同じメディアとして論じることは中々難しいと述べる一方、今回の議論を通じてお互いの共通項として、ジャーナリストとしての正義感があるのではないかとの見解を示し、ジャーナリストの根幹部分について共感できることは重要なのではないか、と主張しました。

真実に迫った報道を通じてのみ、ステレオタイプの相手国像を払拭できる

YKAA1362.jpg 最後に日本側の司会である近藤氏が議論をまとめました。

 近藤氏は、「世論調査並びに分科会の議論を通じ、伝統的並びに新規メディアが、国民感情に与える影響は大きい」としながらも、「メディアには様々な制約があるのも事実」と指摘。本来、「メディアはスポンサーや政府の意向に引っ張られること無く、批判的精神を持ってでき得る限り真実に迫った報道をする必要がある。そうした報道を通じてのみ両国間に存在する偏ったステレオタイプの相手国像を払拭し、両国間の国民感情悪化を防ぐことができる」と語りました。

 そして、世論調査の中で直接的な交流の重要性が叫ばれているのを受け、「今回のような対話が今後も続いて行くことが、日本と中国のメディアが協力し、潜在能力を発揮していくためにも重要ではないか」と述べ、議論を締めくくりました。

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