.
「不安定化する世界や東アジアの平和秩序と日中の役割」をメインテーマに「第12回 東京-北京フォーラム」(主催・言論NPO、中国国際出版集団 後援・外務省、中国国務院新聞弁交室)は9月27日、2日間の日程で、東京で開催され、日中の政界、財界、学界などからの識者が今後の両国の進路について協議しました。
全体会議を前に、総合司会者の言論NPO代表の工藤泰志が「私たちは2005年から中断なく、民間外交の舞台として日中対話を続け、両国間で最も影響力あるフォーラムになった。毎回、フォーラムに併せて世論調査を行っているが、課題解決に向けた世論、それが新しい流れを呼び、政府間の問題を解決できると信じている。世界とアジアが大きく変わる中で、この地域の協力は可能なのか、日中はどう協力すべきか、皆さんに考えていただきたい」と挨拶しました。
主催者を代表して元国連事務次長の明石康氏(同フォーラム日本側実行委委員長)は「日中間には今も困難な課題が存在しているだけに、この対話が12年も続いてきたという意義はますます大きくなっている。民間対話は政府間交渉を無視してはいけないが、政府の一歩か半歩先を歩むことを目指すべきだ」と民間対話にかける思いを語りました。
一方で、G20サミットで会談した習近平主席と安倍首相は"戦略的互恵"の考えに基づき、日中両国関係の肯定的な面を拡大することで、相互信頼を高め、課題を適切に管理し、両国の国民感情を改善することで意見が一致したことに触れ、「こうした基本的アプローチこそ、相互交流の雰囲気を改善し、さらに難しい交渉を取り上げることになる。防衛当局間の"海空連絡メカニズム"の早期運用についても、開始に向けて両国が協議を加速することで一致したことは歓迎すべきだ」と語りつつ、「せっかく改善してきた雰囲気が、どちらも意図しない、全く偶発的な衝突の発生によって悪化し、エスカレートして政治環境を壊してしまうような事態は決して許されない」と強調し、速やかに運用すべき必要性を訴えました。
さらに、今回実施した世論調査を引用しながら、「日中双方ともお互いに関して良くない印象を持っているが、大事なことは、双方の世論が共に、両国関係は極めて重要であるという認識で一致していることであり、そこに安心感を覚える」との見解を示しました。
さらに明石氏は、先進国を含む世界中の国々や地域において進行するグローバル化や人口移動に対する反動として、「一国主義や孤立主義が増大し、日本もその例外ではない。日中関係では、幸いにして理性的かつ相互尊重に基づく関係の改善を求める兆しが大きくなっていることは歓迎してよい。こうした兆しを大事に育て、より大きな流れにしていくことが、日中のみならず流動化するアジア地域、さらには世界全体の政治と経済を、より平和で安定的にしていくことが可能になるのではないか」と述べ、日中関係改善に向けた意欲を示しました。
続いて登壇した岸田文雄・外務大臣は「日中関係の改善には、国民感情の改善が不可欠な要素であり、政府としても、様々なレベルで対話や交流を積み重ねて国民感情の改善を図り、日中関係の基盤を強化していく」と述べ、日中関係改善に強い意欲を示しました。
さらに、「地域と世界の平和と繁栄に大きな責任を持っている日中両国にとって、地域と世界に貢献するために共に協力して努力することが唯一の選択肢だ。隣国であるがゆえに存在する懸念から目を逸らすことなく、首脳や外相同士で胸襟を開き、率直に意見交換することが重要だ」とした上で、「協力できるところは協力し、日中関係の"プラス"の部分を伸ばし、同時に懸案に適切に対処することで、日中関係の"マイナス"部分を減らしていくことに尽きる」と指摘。日中間の人的交流を一層促進するため、中国人に対する数次ビザや一部の大学生などに対するビザについて、有効期間の延長や発給要件の緩和を10月17日から開始することを明らかにしました。
最後に岸田氏は、来年、日中国交正常化45周年、再来年に日中平和友好条約締結40周年を迎えることを示した上で、「日中関係を改善の軌道に乗せるチャンスであり、引き続き様々なレベルで対話や交流を積み重ね、『新しい時代にふさわしい日中関係』の構築に努めていく」との決意を示し、挨拶を締めくくりました。
中国側の周明偉氏(中国出版集団総裁)は「現在、中日関係は複雑で依然として困難に直面しているが、私たちが知恵を出し合って、手を携えて歩み合うことができれば、現在の状況を乗り越えられると思う」と述べ、日中関係改善に意欲を示しました。
続いて、程永華・駐日大使は、中日双方は重要な近隣国であり、重要な二国間関係だとした上で、「日中関係の発展は、両国国民だけでなくアジア全体の利益にもなる。中日は世界第2、第3位の経済大国であり世界の課題に対して対処しなくてはならない」と指摘。世界の情勢が変化する中、「両国は重要なパートナーであり、両国国民のために平和発展に貢献し、お互いの誤解や食い違いを失くしていきながら、大局に立って、新しい問題に対応していくことが大事だ」として、社会各層での相互理解を深めていく必要性を語りました。
蒋建国氏(中国国務院新聞弁公室主任)は、中日関係を改善・発展する方策として、①アジアと世界の平和と安定、繁栄に関わり、協力態勢を引き続き堅持するという全体的な動向、方向を的確に把握すること、②不断の責任感と危機感で、前の世代の指導者たちの政治的知恵を学び、協力し合って困難を乗り切り危機をチャンスに変え、中日関係が向き合って進んでいくための条件作りを推進すること、③両国が蓄積してきたプラス要素はマイナス要素より多いはずで、協力とWin-Winにおいて多くの"足し算"を行い、矛盾と対立において多くの"引き算"を行うこと、④最後に古い問題をしっかり管理し、新たな問題の発生を防止すること、の4つを示しました。
さらに、本来、中日間の問題ではない、中国南海問題について騒ぎ立てたり介入を主張していることに触れ、「人為的に新たな問題を引き起こすもの」との見解を示しました。その上で、「中日関係の発展において重要な役割を持つ、シンクタンクの交流による"頭"を使い、メディアが広く伝える"口"を活用し、企業協力という"足"を踏み出して、人的交流という"手"をしっかり握り合うことが重要だ」と指摘。「中日両国人民の『心』を近づけ、中日両国関係の改善と発展のため、新たにより大きな貢献」を「東京-北京フォーラム」に希望し、挨拶を締めくくりました。
次に、基調講演委立った同フォーラムの最高顧問を務める福田康夫元首相は、この5、6年、日中関係に打ち寄せる高波の中をよく乗り切り、フォーラムが毎年、途切れることなく開催され、今や揺るぎない影響力のある対話の場として確立したことを称賛しました。その上で、「両国関係は、依然として重大な関心を払い続けざるを得ない状況が、G20サミットでの首脳会談で、ようやく一息ついた。しかし、両国首脳の明確なコミットメントがないと、なかなか前に進みにくい状態にある」として、長年、中国にかかわってきた経験から、日中間で対話を行う困難さを解説。
今後の日中関係について、「お互いが静かな環境を作り上げ、国民がもう少し冷静な判断ができるようにしてほしい。相手を必要以上に刺激したり、相手が対抗措置を執らなければならないような状況を作り出したりせず現状を凍結する」ことが必要だとの見解を示しました。
さらに来年は、日中国交正常化45周年、再来年は日中平和友好条約締結40周年、その節目を認識して、「両国関係を確実に前進させるべきだ」との期待を表明。1977年に父・福田赳夫元首相が発表した"福田ドクトリン"の「国際社会においては、いずれの国を一国の力だけで生存することは、もはや、不可能。お互いに助け合い、補い合い、責任を分かち合い、その中で自国の繁栄をはからなければなりません」との一説を紹介した上で、「こうした考え方を貫ける国際環境を作り出すのが、今の時代の我々の責務だ」と述べると同時に、「日中が、基本的な考え方を共有することで、東アジアに必ずや平和と安定、そして友好がもたらされることになる」として、今回の「東京-北京フォーラム」が、「日中の議論をそうした方向に導く嚆矢となってほしい」と語り、基調講演を締めくくりました。
最後に登壇した中日友好協会会長の唐家璇氏(元国務委員)は今後の両国関係の健全な発展のためには歴史を直視することだ、と指摘。さらに、「両国には2000年の交流があり、50年の対立もあり、数十年の急速な発展もあった。歴史は共通の資産であり、歴史を鏡として、昔の指導者の知恵と勇気と、その成果を大切にし、未来志向の中日関係を構築
する」ことの重要性を語りました。そして、「大所高所から大同小異の観点でメカニズムを構築し、衝突の危険性を排除すること。南シナ海問題への介入は問題を複雑化させているだけで、日本には、直接の当事者が平和交渉で問題を解決するようサポートしてもらいたい」と語りました。その上で唐家璇氏は、今回のフォーラムでの議論を通じて、日中関係がポジティブな方向に向かっていくような発言を期待すると述べ、フォーラムへの期待を示して基調講演は終了しました。
全ての発言を終え、全体会議はパネルディスカッション「世界やアジアの平和、発展に向けた日中の役割と協力」に移りました。
全体会議の後半では、「東京-北京フォーラム」日本側副実行委員長を務める宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)と、「東京-北京フォーラム」の生みの親の一人でもある趙啓正氏(中国人民大学新聞学院院長、国務院新聞弁公室元主任)による司会の下、今回のフォーラムのメインテーマでもある「世界やアジアの平和、発展に向けた日中の役割と協力」と題したパネルディスカッションが行われました。
日本側からは、中谷元氏(衆議院議員、前防衛相)、長谷川閑史氏(武田薬品工業株式会社取締役会長、前経済同友会代表幹事)、山口廣秀氏(日興リサーチセンター株式会社理事長、前日本銀行副総裁)、中国側からは魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長、元商務部副部長)、陳健氏(中国公共外交協会常務理事、元国連事務次長、元駐日大使)、樊綱氏(中国経済体制改革研究会副会長、中国総合開発研究院院長)の各氏が参加しました。
まず冒頭で宮本氏が「世界情勢が変化し、不確実性が増す中、日中両国がいかに振る舞うかは世界全体に大きく影響を及ぼす。そういう広い視野に立って議論をしてほしい」、趙氏が「儀礼的な政府間外交とは異なり、民間らしく率直に議論を戦わせてほしい」と各パネリストに呼びかけ、議論がスタートしました。
最初に登壇した中谷氏は安全保障面における日中協力の可能性について講演しました。まず、前提として「冷戦が崩壊してから、ミリタリーバランスが崩れ、世界秩序が揺らいでいる。米国・英国の内向き志向で、世界の警察官的役割が低下し、誰が世界の規律、秩序を守るのか」とした上で、ISILやアルカイダといった国際テロや、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を例に挙げながら、「世界の平和と安定のために日中が協力することの意義は大きい」と語り、特に北朝鮮対策では中国に強い期待を寄せました。
一方で中谷氏は、中国の急速な軍拡とともに東シナ海での活動の活発化を問題視。「東シナ海においては、近年の尖閣諸島周辺への領海侵犯や多数の漁船などによる不法行動は速やかに中止すべし。また、一昨日も沖縄と宮古の間を多数の軍用機が通過したが、このような南西方面での軍事活動も地域の安定を壊すことになり大きな問題だ」と苦言を呈しました。
さらに、南シナ海問題についても、「7月の国際仲裁裁判の判決を無視してはならない。安保理常任理事国であり、大国を自認するならしっかりと責任ある常識的な行動をすべきだ。自国だけの論理に基づく極めて独善的な態度は、長いスパンで見ると決して国際社会からは受け入れられない」と中国に「責任ある大国」としての態度と振る舞いを強く要請しました。
陳氏は、東アジアの歴史を振り返りながら、「これまでは中国が強ければ日本が弱く、日本が強ければ中国が弱い、という状況だったが、今、歴史上初めて二国が同時に強いという状況になっている」と指摘。さらに、「だからといって、『一つの山に二頭のトラは相容れない』ではなく、共存・共栄していくための方策を探らなければならない」とし、そこで重要な視点として日中経済の構造改革と新たな発展モデルの構築、日本の平和路主義路線の維持、民間交流の拡大などを挙げました。
陳氏は最後に日本側に対する注文として南シナ海問題に言及。安倍政権の外交スタンスが「中国に対していかに相対するか」というものになっていると指摘した上で、古い問題である「歴史」や「領土」が過熱しないようにマネージしつつ、新しい問題である「南シナ海」で域外国である日本はあまり大きな声をあげないでほしいと注文をつけました。
これに対して宮本氏は補足として、日本が南シナ海問題に関心があるのは「中国が南シナ海でやっているような既成事実の積み重ねによる支配の強化が成功すれば、いずれ東シナ海でも同じ論理で攻めて来ると懸念しているからだ。だから日本人は二つの海を連動して捉えている」と回答しました。
続いて、議論は経済に移りました。
魏氏は、日中経済貿易関係の冷え込みが続く原因として、「双方に変革の意識が欠如している」ことを挙げました。まず、これまで日本の中小企業は、特に中国の地方政府を介して中国市場に参入してきたとした上で、「本当に中国に向き合うのであれば、直接入ってきてほしい」と呼びかけ、この点では特にドイツの方が進んでいると様々な事例を紹介しました。また、その分野についてもこれまでは繊維、家電など製造業が中心であり、それは確かに中国に大きな恩恵をもたらしてきたものの、それはもはや「中国のハイエンドの需要を満たさない」と指摘しました。その上で、これからは「金融や高齢者サービスなど新たな分野に目を向けるべきだ。そして、商品を売るという発想から技術を売るという発想に切り替えることが求められている」と主張しました。他にも、中国で進む都市化に付随する問題として例えば、ごみ処理などを挙げ、こうした分野でも日本の持つノウハウを生かせる余地は大きいとしました。さらに魏氏は、日中の協力関係発展が特に大きく見込める分野として中国が進める「一帯一路」を挙げ、「早く日本もAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加入すべき」と呼びかけました。
そして最後に、「世界第2、第3の経済大国である日中の友好促進はアジアと世界の願いでもあり、これから『日中の平和・協力の世紀』をつくっていくため、考え方を変革し、新たなモデルをつくるべき」と改めて発想の転換を促し、発言を締めくくりました。
長谷川氏は、世界経済の現状を考えた上での懸念として、まずG7、G20の首脳宣言にも盛り込まれた各国の「構造改革」の重要性を指摘した上で、それが遅れた場合、「世界経済全体の減速リスクとなりうる」と警鐘を鳴らしました。そして例えば、鉄鋼の過剰生産問題を話し合う「鉄鋼フォーラム」を開催するなどして、先進国と途上国で協調して構造改革に取り組むべきとしました。
長谷川氏は次に、世界的に広がる保護主義的な傾向についても懸念を表明。その背景には、これまでのグローバル化による「果実」の配分に各国が失敗し、格差が拡大したことが一因としてあると語りました。長谷川氏はそれを踏まえた上でやはりグル―バルな自由貿易体制は世界経済の成長にとって不可欠なものとし、そのカギとなるものとして広域経済連携を挙げ、アジアにおいてはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓FTAなどを推進する必要性を説きました。
長谷川氏は最後にまとめとして上記のような視点から、「日中両国でも、反グローバリズムとポピュリズムを押さえながら、共に改革に取り組んでいく姿を世界に見せていくべきだ」と語りました。
山口氏は、現状の世界経済を見ていく上でのポイントとして、まず、リーマン危機以降、世界経済は未だ低迷が続いており、調整局面にあること、次に、そのような中で日米欧中の民間企業のマインドが冷え込み、新しいビジネスモデルが生み出せなくなっていること、そして、人口動態的に成長の下押し圧力がかかり、しかも生産性も上がっていないこと、最後に、21世紀以降、主要国での大規模金融緩和により、過剰な流動性が生じていることの4点を指摘。こうした課題があるため、「世界経済は当面停滞するものという前提で考えていくべき」と語りました。山口氏は日中両国も上記のような課題の埒外にあるわけではなく、課題に取り組むためには「一国だけの自助努力でなく、一致協力して解決に向かっていくべき」であるとし、さらにその姿を手本となるように世界に見せていくべきだと主張しました。
最後に登壇した樊氏は、「日中が協力すべき」というこれまで各氏の発言に全面的に同意した後、その具体的なあり方として、両国がこれまで共にASEANに深く関わってきたことをまず指摘。そして、メコン川流域でのインフラプロジェクトなどを例に挙げつつ、こういった第3国においても協力の機会は多いと述べました。また、中国経済が減速する中でも家計所得は増加していると紹介し、「観光、買い物など新しい需要はある。それを梃子に協力を深化させていくべき」と語りました。
議論を受けて宮本氏は、「大局に立った話ができた」と所感を述べ、相手をいたずらに刺激せず、知恵を出し合い、問題を押さえ組むという発想は、経済や安全保障など様々な分野で有用な発想との認識を示し、午前の全体会議を締めくくりました。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。