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10月25日、中国北京市の北京大飯店において、「日中関係の長期、健全な発展は可能なのか―東アジアの目指すべき未来と日中両国の役割―」をメインテーマに、「第11回 東京-北京フォーラム」の2日目における全体会議がとり行われました。
まず、司会の東京大学教授の高原明生氏が開会の挨拶を行い、「昨日は日中相互が実りのある率直な議論を行うことができた」と振り返り、「今日の日もまた実りのある1日にしていきたい」と挨拶をしました。
次に、基調講演に移りました。まず、中国側から単霽翔故宮博物院院長が登壇し、「故宮博物院は現在、1日あたり約1000万人規模の入場者がおり、フランスのルーブル美術館の入場者数を超えるようになった。そして、1日の入場者数を8万人に制限するようになっている。なぜこのような多くの人々が訪れるのかと言えば、まず最大規模の木造建築、豊かな文化財がある。1800万7000点くらいの修造品があり、69のカテゴリーを有するほどである。例えば、非常に価値の高い金銀の器、陶磁器や刺繍、外国の文化財も数多く所蔵している。そして、今後の見通しとして、全体の80%が一般オープンになる」と説明するなど、故宮博物院についての詳しい紹介なされました。
また、単氏は「現在乾隆帝のカーテンを修繕しており、7年をかけて一般公開を目指して取り組んでいる。使っている技術は細かいが、未来のために見えない努力をしている」と語り、博物院の一層の発展のための努力が強調されました。
さらに単氏は、「博物院においては来月の11月にデジタル博物館がオープンする。また、子供向けのストーリーなどの展示や、英語での案内や無料のアプリを複数作っている」と語り、伝統ある博物院においても、子供や外国人にとっても魅力ある場所とすることを目指すと共に、ICT技術を積極的に活用していることをアピールされました。さらに、タンザニアにアフリカ故宮学院を作るなど、海外への展開や研究者の育成にも力を入れていることが紹介されました。
最後に単氏は「本当の意味で社会の発展のための力になれるよう、これからも頑張っていきたい」と基調講演を締めくくりました。
続いて登壇した、国際交流基金顧問で、元駐フランス大使の小倉和夫氏は、先に登壇した
単霽翔氏の発言を踏まえて、「文化は国家の宣伝の道具にしてはならない」ということに賛意を示しました。そして、中国文化は世界中の人々のものであると指摘し、故宮博物館の繁栄のため、世界中の人が協力すべきと述べました。
次に小倉氏は、現在の日本は「ターニングポイントにある」と指摘しました。日本は第二次大戦以降、「平和的、民主的、かつ豊かな社会を目指すという目的を掲げ、この目標は一定程度実現したことで、未来の新しい目標を探求しなければならない」段階にきており、それが、今回のTPPや安保関連法案への取り組みだと紹介しました。
一方で、小倉氏は、中国もまた現在「ターニングポイントにある」と指摘しました。「現在、経済的、軍事的な大国となっているが、依然として途上国との位置づけで、第三世界をどのように引っ張っていくのか、という立場も取っている。中国はどのように国際社会の責任をとっていくのか」という点で、国際社会の大きな課題であるとし、そうした課題を乗り越えるためには、日中双方で対話をし、未来に対するビジョンを明らかにしなければいけないと語りました。さらに小倉氏は、未来と過去の関係について、「過去から学び、過去を語るということは大事なことだが、過去を語るのは、実現する未来があるからこそ、過去を語るのだ」と述べ、未来を語らずに過去を語るのは単なる「愚痴」にすぎず、過去を語るのであれば、未来も一緒に語るべきだと述べました。そうした中で、小倉氏は、日中両国が未来に対するビジョンを知るためには、若者同士の対話は重要であるとして、両国の未来のビジョンを語る「青少年ネットフォーラムを起ち上げてはどうか」との提案がなされました。
続いて、小倉氏は「日中はグローバリゼーションの中で大きな恩恵を受けた。だからこそ、地球規模の課題に取り組む責任がある。そして、日中間の関係改善も大事ではあるが、関係改善を行った後に何を行うのかを考えることがさらに大事であり、そのことが未来志向への対話に繋がっていく」と語り、「日中グローバル問題フォーラム」の設立を提案し、「両国国民の利益だけではなく、地球村に住んでいる全ての方々の課題にとりくまなければならない」と今後の日中両国にとって、示唆に富む提案がなされました。
最後に登壇した衆議院議員の山本有二氏は、「世界は変化する、そして変化している」というテーマで、まず、IMFが作った国際準備資産、SDR(特別引出権)が5年に1度の見直し時期を迎え、中国の人民元がSDRに仲間入りするかが今回のポイントであると指摘しました。その上で山本氏は、日本の円より、人民元の方が活用されるシェアが高くなったこともあり、今回のSDRの見直しで、人民元をSDRに加えるべきだと語りました。
ここで山本氏は、ドイツの例を引き合いに出しました。ドイツは、1910年に、アメリカの工業生産力がイギリスを追い抜き、1950年基軸通貨はポンドからドルに代わりました。世界が変化し、歴史が変わってきつつあるなか、1990年ベルリンの壁が崩壊しました。その際、東ドイツは旧共産圏であり、西ドイツに編入され、うまくいかないと言われていたものの、共産主義化で高い水準の教育を受けた良質で安い労働力を活用し、現在、経済を復活させ、ヨーロッパを支配するに至っています。
こうした現状を踏まえ山本氏は、先述したドイツの教訓から、共産主義教育は質の高い労働力を生むということ、国防コストが市民生活の発展、市場経済、成長の発展を阻害しているということ、歴史を超えて、ドイツとポーランドのように、友好関係を結ぶ地域こそ発展をするということの3点を挙げました。そして、日本と中国が連携を強化し、ASEANを含むアジア市場を作れれば、20億から30億円人のマーケットが出来上がることになり、世界の中心となる可能性を秘めていると指摘。さらに、山本氏は、「生産と貿易と通貨がさらに発展成長するならば、地球の永続の問題には入れるのではないか」と語り、AIIBに、既存のADBも加えて、支援を倍加することができ、共通のルールを作ることができれば、アジアの支援が世界の中心になっていくとの見通しを示し、「日中の連携強化が必要だ」と報告を締めくくりました。
25日の全体会議後に行われた分科会報告では、高原明生氏(東京大学法学政治研究科教授)の司会の下、「政治・外交」、「経済」、「安全保障」、「メディア・文化」、「特別」の各分科会から日中の代表がそれぞれ対話の内容について説明しました。
「日中両国の未来と東アジアの平和をどう描くか-両国の政治に問われる信頼と協働」をテーマに行われた政治・外交分科会では、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が報告を行いました。まず、工藤は「世論調査結果が示している通り、日中関係の改善が始まってきているという認識は日中双方のパネリストが持っていた。しかし、同時にまだまだ予断を許さない状況だということでも認識が一致していた」と振り返り、その背景として「中国側は、日本の政治家が中国を挑発しているように受け取っている。特に、今年は中国国内で戦後70年関連のイベントが多かったこともあり、歴史認識に関する言動には敏感になっていた」、「例えば、安倍談話に関しては日本側も関係改善に水を差すようなものになるのでは、と懸念をしていたが、それは杞憂だったという認識だ。しかし、中国側からは『安倍首相自身は進歩したが、日本政府は退化した』という興味深い評価もあったものの、全体的には『失望した』という声が多く寄せられた」と説明しました。
最後に工藤は、北東アジアの未来を考えていく上では、「共通利益の拡大を目指すべき」という声も多かったが、中国側からは日本の安保法制が「その共通利益拡大の逆を行く行動なのではないか」という指摘がなされたり、逆に日本側からも中国の南シナ海における動向に対する懸念が寄せられたことを紹介。しかし、「こういう認識の相違がある状況の中ではやはり対話のチャネルが必要だという見方は多かった」と説明した上で、「政治家も色々な対話に出て来るべきだし、民間もそういう舞台をつくっていく必要があることを強く認識した。それが両国間の信頼醸成にもつながってくる」と所感を述べ、報告を締めくくりました。
中国側を代表して、楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所副所長)は、「これまでの日中関係を振り返りつつ、両国間にある四つの基本文書の諸原則の重要性を再確認できた」と対話の成果を示し、「このような共通認識をどう共通利益の実現につなげていくか」が今後の課題になるとの見方を示しました。楊氏はさらに、日中関係は依然として予断を許さない状況ではあるものの、「昨年来、2度の首脳会談が行われるとともに、中国では新しい5か年計画が出され、日本でも新アベノミクスが出されるなど、両国間には新しい協力の好機が巡ってきている」という認識が双方のパネリストで共有されたことも成果としました。
また、聴衆との質疑応答でも、鋭い質問が出されるなど、民間対話として非常にハイレベルなものになったことに満足したとの感想を述べました。
「中国経済の構造改革の行方と日中の経済協力―東アジアの安定成長と世界経済の将来」をテーマに議論が行われた経済分科会からは、日本側報告として山口廣秀氏(日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社理事長、前日本銀行副総裁)が登壇。山口氏はその中で、「前半の対話では、両国経済の課題として、日本では潜在成長率の引き上げが中国では構造改革が急務であることが浮き彫りとなった」と紹介しました。また、上海株式市場における株価暴落をどう見るか、という議論では「中国経済に蓄積された構造的な『歪み』を反映しているとの見方もあったが、既に対応がなされているため、大きな調整局面には至らないだろうと楽観的な見方もあった」と説明しました。
さらに、後半の対話では「前半の議論をもとに日中協力の可能性について、具体的でかなり突っ込んだ議論になった。今回は今まで参加した経済分科会の中で一番充実した議論になった」と高く評価しました。
中国側の報告として、張燕生氏(国家発展・改革委員会学術員会秘書長、中国国際経済交流センター主席研究員)は、まず前半の議論では、日本側から中国の構造改革がうまくいくのか懸念の声が寄せられたものの、同じく日本側から「それほど懸念すべき状況ではない」との擁護があったことや、「新常態への移行」に関する易綱氏(中国人民銀行副総裁)の説明に、双方のパネリストが納得していたことなどを紹介しました。
そして後半の議論について張氏は、日中間の貿易・投資が減少している中、日中経済協力を活性化させていくためのアイディアとして、「高齢化や環境、都市化、インフラ、イノベーションなど様々な協力のポイントが提示された。また、槍田松瑩氏(三井物産株式会社顧問、前日本貿易会会長)からは、三井物産の取り組み事例として、第三国での日中協力プロジェクトが紹介されるなど、『対抗ではなく協力のために何をすべきか』という視点から、示唆に富む建設的な議論が展開された」と振り返り、対話成功の手ごたえを口にしました。
昨年までの「メディア」に今年は「文化」も加えてカテゴリーを拡大したメディア・文化分科会では、「両国関係の発展を支える国民間の相互理解をどう進めるか―健全な世論の喚起と言論の責任」をテーマに議論が行われ、日本側は加藤青延氏(日本放送協会解説委員)がその報告を行いました。
加藤氏は前半のメディア対話では、今回の日中共同世論調査を紹介しながら、中国世論は中国メディアを評価していた一方で、日本世論では日本メディアの評価が非常に低かったことを踏まえ、「こうした認識の違いは、文化的な要因も背景にあるので、深層的に分析すべきという指摘がなされた」と紹介しました。また、日本メディアからは、「相手のことをよく知らずに報道する」、「政府の立場に立ってしまっている」など、自省の声も聞かれたものの「多様性が重要なので、色々な観点から報道すべき」という意見も出てくるなど、「日本メディアの中でも見方が分かれる部分があった」と説明しました。
加藤氏は後半の文化対話については、「日中ほど密接な文化交流の歴史がある2国間関係はないとの声もあったが、交流の減少を懸念する指摘も相次いだ」と説明し、「これをどう回復するべきか、メディアはどのような役割を果たせるのかという問題意識を日中で共有できた」と語りました。
中国側報告者の王暁輝氏(チャイナネット総編集長)は、その文化交流回復に関するアイディアとして、「インターネットなどニューメディアを活用しながら、若い世代の興味を引くような取り組みをしてくことや、『東京-北京フォーラム』のような議論に限らず、様々な文化イベントを幅広く開催すること」などの提言が相次いだことを報告しました。
「日中の安全保障政策の新展開と東アジアの平和構築―両国の安全保障への相互理解と平和秩序に向けた協力」をテーマとした安全保障分科会では、日本側を代表して神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部准教授)が報告を行いました。神保氏はまず、日本国内のテレビニュースでは、このフォーラムの中でも、安全保障分科会のみに焦点を当てた特集が複数組まれていたことを紹介し、「高い注目度を集めた対話になった」と述べました。
そして、その議論の内容として神保氏は、「相互に自国の安全保障政策について説明し合った後、それを踏まえて今後、安全保障分野でどのような日中協力が可能なのか、共にできる国際貢献としてどのようなものが考えられるのか、アイディアを出し合った」と紹介しました。
神保氏は互いの理解が深まった点としては、両国がどういう現状認識の下、政策を組み立てているのか、ということを挙げ、さらに「危機管理メカニズムやハイレベル対話の重要性を再確認できた。また、非伝統的安全保障分野での協力推進やPKOでの協力についても互いの考え方を明確にできた」と成果を紹介しました。
一方で、双方の認識が一致しなかった点として神保氏は「互いに自国の安全保障政策について『防御のためだ』と言っていたが、こういう説明には最後まで双方が納得いっていなかった。中国の軍事力の透明性の問題や、日本の安保法制のターゲットなどについてその傾向が強く見られた」と振り返りました。
それでも神保氏は、「軍事関係者の交流拡大や、専門家同士のワークショップ創設、グローバルな協力深化のあり方、地域的安全保障協力をはじめとして相互の認識の違いを埋めるための具体的な提案が数多く出されるなど、真剣かつ重要な議論ができた」と強調しました。
中国側報告者の張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術委員会主任)も神保氏と同様の報告をした上で、「日中間には相互信頼が欠如しており、誤解も多い。その中では互いの懸念を取り除くことは非常に難しいが、それでも率直で建設的な議論ができた」と今回の対話を高く評価。「安全保障分野は非常にセンシティブであるが、今回の対話は『東アジアの平和構築』という対話テーマを実現するための確かな第一歩になったのではないか」と語りました。
最後に、「観光」と「環境」の2つをテーマとした特別分科会では、「観光、環境、日中が直面する課題での協働発展―地域レベルの課題解決から協力基盤の拡大する」と題して議論が行われ、日本側を代表して福本容子氏(毎日新聞論説委員)が報告しました。
福本氏はまず、「環境」については、「大気汚染は国境を超えた問題であるため、日中は『運命共同体』になっているとの基本認識で一致した。ただ、そこでは日本企業が活躍できるチャンスがたくさんあるはずなのに、『ニーズに対応できていないので、もっと市場獲得の努力をするべき』との忠告が中国側から相次いだ」と説明。また、「日本で環境問題が酷かったのはかなり昔のことなので、日本人でも現役世代ではなかなか中国の知見を伝えられないのではないか」といった指摘や、「成功例だけではなく失敗例も教えて欲しい」といった要望が中国側から寄せられたことを紹介しました。
一方、「観光」について福本氏は、「訪日中国人観光客は急増しているのに、中国を訪れる日本人観光客の数は停滞している、という『非対称性』や、初日の全体会議で山田啓二氏(京都府知事)が指摘した修学旅行・教育旅行の減少に関する問題提起が両国から相次いだ」ことを明らかにし、さらに「修学旅行・教育旅行を増やすための具体的な提案も出された」と成果を説明しました。
中国側報告の張雲方氏(徐福会会長)は、対話を通じて得られた共通認識としては「観光産業と環境産業は新しい成長スポットであり、大きなポテンシャルを持っていること」などを挙げましたが、その一方で、「両国の発展段階が違うため、環境や観光に対する意識が違う」など認識の相違も浮かび上がってきたと語りました。
さらに、「観光産業では例えば、コードシェア便を増やしたり、ツアー番号の共有化など具体的な提案を得られた」と成果を紹介しました。
分科会報告終了後、中国側主催者の閉会挨拶に登壇した周明偉氏(中国国際出版集団総裁)は、「昨年来、日中首脳会談が再開され、両国の国民感情にも改善の兆しが出てきているが、まだまだ課題は多いし、強固な関係の基盤もできていない」と語りました。その上で周氏は、「各分科会では、日中双方が課題や共通利益を確認できた。そして、信頼を醸成し、『戦略的互恵関係』を実現するために何をすべきなのか、真剣に議論できたのは大きな成果だ。ここで提案された有益なアイディアは必ずや日中関係の改善と発展につながっていく」と述べました。さらに、「今後もこのフォーラムを『長期、健全な発展』のためのプラットフォームとしていく」と表明しました。
周氏は最後に、後援、協力団体、パネリスト、聴衆、ボランティア、通訳など、このフォーラムに携わった全ての人々に謝辞を述べつつ、「また来年、東京でお会いしましょう」と呼びかけ、挨拶を締めくくりました。
続いて登壇した工藤は、「私たちがこれまで公共外交、民間外交に取り組んできたのは、『世論』を重視していたからだ。これまでは世論が過熱すれば政府も動けなくなり、関係悪化から抜け出せなくなる悪循環があったため、世論を課題解決に向かわせる必要があった」と述べた上で、「今回、各分科会ではまさに日中双方が課題に向かい合って議論をしていた。この姿を見て非常に嬉しくなった」と喜びを語りました。
そして最後に、「過去を直視するのは未来のため」(小倉和夫氏)、「視野を世界に広げていくべき」(福田康夫氏)など、このフォーラムで出された言葉を引用しつつ、「これができれば日中関係はより強固になり、世界的な課題に対しても共に責任を果たすことができるようになる。そういう流れを生み出すための対話の舞台をつくり出すことが、私たち主催者の役割だ」と述べ、来年、東京に「第12回 東京-北京フォーラム」という舞台を用意することを力強く約束しました。(工藤挨拶全文はこちら)
その後、運営面やコンテンツ面で今回のフォーラムを力強くサポートしてくれた両国の学生ボランティア代表に対し、主催者側から感謝状と記念品を贈呈した後、閉幕しました。
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