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10月24日、中国・北京市の中国大飯店において、「日中関係の長期、健全な発展は可能なのか―東アジアの目指すべき未来と日中両国の役割」をメインテーマに、「第11回 東京-北京フォーラム」が開幕しました。
まず、今回から中国側の主催者となった中国国際出版集団・副総裁の王剛毅氏が総合司会を務め、参加者に対して、「実りの秋にここ北京に皆様を迎えることができて、大変うれしく思う」と歓迎の意を表しました。その後、今回の「東京-北京フォーラム」の日中双方のパネリストが紹介されました。
その後、中国側主催者代表として、中国国際出版集団・総裁の周明偉氏が挨拶に立ちました。その中で周氏は、今回のフォーラムの開催にあたって全ての関係者の対し、感謝の意を述べました。その上で、「日中間には、様々な困難があるが、民間交流によるエネルギーと活力を注ぐことを通じて、どれだけ大きな困難があっても、乗り越えられるよう頑張っていきたいと」述べ、新たな中国側の主催者としての大きな決意を語りました。そして、日中両国は地域の発展のためにも良い関係を築き上げていくことが必要不可欠であると指摘し、挨拶を締めくくりました。
続いて、日本側の代表とし登壇した、本フォーラム日本側実行委員長の明石康氏(国際文化会館理事長)は、今回のフォーラムの開催への喜びを語った上で、「日中関係が継続的に安定したものとなるためには、両国国民の相互理解が必要となる。そして、両国は今同じ方向に向けて歩み始め、そのことを感じさせる状況となってきた」述べ、両国の更なる発展への期待を語りました。その上で、「国民としてのアイデンティティは必要であるが、独善的なナショナリズムに陥るべきではなく、正当な政治を目指し続けなければならない」と語り、より相互理解を深めていかなければいかないことを呼びかけました。そして、「今日と明日の率直な討議を通じて、日中両国の共通な目的に向かう着実な一歩を踏み出すことになることができる。実りの多いフォーラムになることを信じて挨拶に代えたい」と語り、フォーラム成功への大きな決意と期待を述べました。
次に、元中国国際出版集団主任で、「東京-北京フォーラム」の創始者の一人でもある趙啓正氏が登壇しました。趙氏は「このフォーラムは通常、秋に開催されるが、これまでの10年間の日中関係は冬のままである。しかし、我々はそれを変えていく自信がある。自らの体温をもってその温度を上昇させようと考えてきた」と述べ、ユニークな例えを用いつつ、改めてフォーラムの成功への強い決意を語りました。その上で趙氏は「中日双方は2000年あまりの歴史の中に愛情、一方で恨みといったような様々な感情が複雑に入り組んでいる。長期的な関係発展を見据えるには、中日双方は共通利益に着眼し、文化交流を行い、共通認識を増やしていかなければならない」と語り、中日関係のより一層の発展への希望と期待を述べました。
そして、今回の「東京-北京フォーラム」のロゴについて、「これから10年使っていくことで、さらに20回目の『東京-北京フォーラム』の時に思い返されるような、実りあるフォーラムにしよう」と語り、これから10年先の未来のフォーラムへの想いと決意を語り締めくくりました。
次に、駐中国日本国特命全権大使である木寺昌人氏が登壇しました。木寺氏は冒頭で「『東京-北京フォーラム』は、過去10年間一度も途切れることなく毎年開催され、今回、新たな10年のスタートを切ろうとしている。まさに両国の有識者の方々の強い意志を体現するものであり、関係者の方々に改めて心より敬意を表したい」と語りました。また、木寺氏は「日中の間には様々な難しい状況があるが、だからこそ官民問わず様々なレベルで対話と交流を積み重ね、そうした姿を日中両国民に知ってもらうことが、日中両国にとって不可欠である」と述べ、今回のフォーラムの意義を強調しました。そして今年が戦後70年の節目の年になるにあたって、「日本は戦後70年にわたって平和国家としての道を歩み、この方針は今後も変わるものではない。もっとも、このような日本の戦後の歩みについて中国においては、未だに十分に理解されていないことを大変残念に思う。我々は互いを正しく理解するための対話をこれまで以上に重ねていく必要性を感じている」と述べ、日中相互の正しい理解のための一層の努力の必要性を強調しました。さらに、木寺氏は「現在日中韓FTA交渉やRCEP交渉が行われており、日中はより開かれた地域経済の実現のために多くのことができると確信している」旨を述べ、経済面での日中間の協力発展もまた進んでいくとの見通しを示しました。また、文化交流の面においても「昨年一年間の訪日外国人旅行者の約2割にあたる241万人が中国人であり、今年は更に倍の勢いで増加している。このことは相互理解のみならず、将来の日中関係にとっても大変有効である」と述べ、一人でも多くの中国の方々にありのままの日本の姿を見てほしいと呼びかけました。
最後に、木寺氏は「今回のフォーラムでは、幅広い分野の有識者の方々が一堂に会しており、今ここに新たなスタートを切った本フォーラムが、新次元の日中関係を生み出す触媒あるいは原動力となることを心より期待している。率直で厳しい議論の後に、最後は皆様の間に『感動の共有』が生まれることを願ってやまない」旨を語り、フォーラムの成功に強い期待を寄せました。
その後基調講演に移り、中国側から中国国際出版集団主任の蒋建国氏が登壇しました。蒋氏は「両国のハイレベルで広範囲な民間交流のシンクタンクの場として両国関係を長きに渡って中日友好事業に尽くしてきた皆様に感謝をしたい」と述べました。その上で、「日中は国交を正常化してから40年経った。交流の分野はより広がっていき、経済も発展していき、いわば持ちつ持たれつの関係になった。確かに、一部消極的な要素もあって、顕在化することもある。しかし、両国の国民の発展の鍵はそれぞれの国民次第である」と語り、両国の国民が両国の発展を目指して協力していくことを呼びかけました。また、蒋氏は「日中両国が平和を守ってこそ、世界に影響を与えることができる。憎しみを記憶して継続するだけではなく、歴史から学習して未来を切り開き、歴史を尊重して未来を志向することによって、弛まぬ中日関係発展のために新たな道筋を作っていく必要がある」と語り、歴史から学ぶことを通じて、日中両国が更なる相互発展を目指していかなければならないと主張しました。
そして、蒋氏は「シンクタンクによる民間の知恵は、両国の建設的発展に極めて重要な役割を果たしている。シンクタンク同士が共に課題研究を行い、新しい考え方を提案していくのが大切である」と述べ、民間外交の果たす役割に対して大きな期待を寄せました。その上で「日中間のような2000年以上の交友がある歴史は世界のどこを見渡してもない。文化交流を重点として、幅広い分野について高いレベルの文化交流を行うことを通じて、相互の心の架け橋を作っていくことが大切である」と語り、日中間には大変長い歴史があることをもう一度認識した上で、文化交流を続けていくことにより、両者の心のすれ違いを埋めていかなければならないと強調しました。
最後に蒋氏は「今回のフォーラムの円満なる成功を祈って挨拶に代えさせて頂きたい」と述べ、フォーラム成功への期待を語った上で、基調講演を結びました。
日本側からは、元内閣総理大臣で今回のフォーラムの最高顧問でもある、福田康夫氏が登壇しました。福田氏は「東京-北京フォーラム」の最初の10年間で民間対話のあり方を考え、発展させてきた功績には特に大きいものがある。両国の有識者が自由闊達な雰囲気の中で議論を行い、このことを通じてより多くの国民に、あるべき日中関係について考えてもらうことはとても大切だと思う」と述べ、これまでのフォーラムの意義を強調しました。その上で、福田氏は「言論NPOと中国国際出版集団による共同世論調査の結果を見ても、8割近い人が依然として相手に対してあまり良くない印象を持っている。その一方で、多くの中国の人々が日本を訪れるようになり、両国民の直接の触れ合いが、着実に日中双方の相手を見る見方や認識を変えていることも事実である」と述べた上で、「インターネットを使った新しい交流のやり方により、若者同士の交流も始まっており、国民レベルの相互交流はこれからますます拡がっていくと思う。しかし、同時に交流が拡がればすぐに相手に好感を持つというようにはいかないのが人情であり、この限界をしっかり認識して努力を続けていくことが必要である」と語り、相互交流を進めて行くには、まずお互いの努力を積み重ねていかなければならないことを呼びかけました。
一方で、「両国政府、とりわけリーダー達が大局的な判断に立って、一刻も早く日中関係を正常な軌道に乗せてほしい」とも述べ、政府レベルでの更なる日中関係の改善にも期待を寄せました。
その後、福田氏は「日中関係を安定させ、協力関係を構築することは世界に対する義務である。そこで、昨年アジアの3つの姿について語った。1つは「力強く成長するアジア」、2つ目は「老いていくアジア」、3つ目は「いがみあうアジア」である。1年が過ぎた現状は。「力強く成長するアジア」には限りが見え、「老いていくアジア」は確実に進んでいる。しかし。「いがみ合うアジア」は確実に進んでおり、だからこそ、日中の協力は更に必要となってくる」と主張し、日中関係の安定こそがアジア地域の安定と繁栄をもたらすことに繋がると語りました。さらに福田氏は世界情勢も俯瞰した上で、「2100年頃には世界人口は約110億人となり、22世紀は「アフリカの世紀と言われている」。現在の約1.5倍の数の人々が豊かな生活を目指すことによって、どれだけのエネルギーが必要で、また環境破壊が進むのかと考えると恐ろしい。だからこそ日中という二つの経済大国がいがみ合っている暇はもはやなく、世界が直面している問題に協力していく態度を示していかなければならない」と語り、日中関係の安定は地球規模で直面する課題にたいしても大きな役割を果たしていくだろう、となると述べました。
最後に福田氏は、「これからの日中関係は世界に羽ばたくものにならなければいけない。『第11回 東京-北京フォーラム』での議論が白熱したものとなることを願っている。日中の明るい未来に向けて楽観的な希望が持てるような、建設的な結論がでるようなものにしてもらいたい」と語り、フォーラムへの大きな期待を述べた上で締めくくりました。
その後、コーヒーブレイクを挟み、日中両国の識者による、パネルディスカッションに移りました。
全体会議の後半では、「東京-北京フォーラム」日本側副実行委員長を務める宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)と、「東京-北京フォーラム」の生みの親の一人でもある趙啓正氏(元中国人民政治協商会議全国委員会外事委員会主任、元国務院新聞弁公室主任)による司会の下、「日中関係の長期、健全な発展は可能なのか―東アジアの目指すべき未来と日中両国の役割―」と題したパネルディスカッションが行われました。
日本側からは、山口廣秀氏(日興リサーチセンター株式会社理事長、前日本銀行副総裁)と、山田啓二氏(全国知事会会長、京都府知事)、中国側からは婁勤倹氏(陝西省省長)と魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長、元商務部副部長)の各氏が参加し、それぞれ基調報告を行いました。
最初に登壇した婁勤倹氏は、「陝西省と日本の協力拡大」と題して中国側基調報告を行いました。婁氏はまず陝西省が、古くは奈良時代の阿倍仲麻呂、平安時代の空海などの遣隋使、遣唐使受け入れ、近年でも京都府と姉妹都市になったり、多くの協力プロジェクトが行われたりするなど日中友好協力が非常に盛んな地であることを説明。その上で、「民間の往来と協力は日中関係を深化させる。その流れが強まれば東アジアの平和と発展はもはや不可逆的なものとなり、『一衣帯水』も必然となる」と語りました。
婁氏はこれまで陝西省が行ってきた日中協力のための具体的なプロジェクトとして、砂漠の緑化やトキの生態保護、文化・観光協力、省エネに関する技術協力、物流、金融など現代的サービス協力など様々な分野におけるものを挙げ、特に、物流に関しては「陝西省は中国が推し進める『一帯一路』構想の要にある。ここで日中協力を推し進めることは、両国関係をより『Win-Win』の関係へ導く」と述べ、これからも様々な実務協力を進めていくことへの意欲を示し、それが結局は日中友好推進にもつながっていくとの見方を示しました。
続いて、日本側基調報告として登壇した山口氏はまず、最近の国際金融市場が8月の上海株式市場での株価暴落を機に大きく動揺し、投資家がリスクを回避し、より安全な資産を選ぼうとする動きが強まる「リスクオフのムード」になっていると指摘。その背景にある要因として「中国で広範なストック調整が起きている可能性」、「中国経済のストック調整がグローバルに波及している可能性」、「欧州政府の債務問題」、「日米欧等先進国の経済力の脆弱化」の4点を挙げました。
その上で、「そういうことを考えていく中で、日中両国経済の存在感や東アジア経済の重みを改めて再認識する」と述べ、両国経済の課題について語りました。まず、日本経済について山口氏は、「少子高齢化という人口動態上の大きな問題を抱え、潜在成長力の低下に苦しみ、デフレの克服にも至っていない」と現状を解説。その上でその状況を打開するためには、女性・高齢者の活躍促進や地方経済の活力向上などを挙げるとともに、経済全体の新陳代謝を促すことで、「新産業が不断に勃興し、古くなった産業が市場からスムーズに退出していく、そのような柔軟で活力ある経済構造こそが今の日本には求められている」と主張しました。そして、財政再建を重要な課題であるとしつつも、「民間活力の引き上げという観点も踏まえながら進めていく必要がある」と付け加えました。
一方、中国経済についてはまず、「中程度の成長への移行が不可欠な情勢」と指摘。その中で中国政府が目指す「輸出主導の経済から、個人消費主導への経済への転換」については、そのベクトルは正しいとしつつも、「実現は簡単ではない」と述べました。山口氏はその理由として、「経済の発展段階は異なるが、高付加価値を生み出す、自由で活力のある経済の実現という、結局は日本と同様の問題を抱えている」と解説しました。さらに山口氏はその他の問題としては、為替市場の自由化、資本移動の自由化など金融面での改革推進の必要性についても指摘しました。これらを踏まえ山口氏は、「課題については日中共通のものが多い。今回のフォーラムでも率直に語り合って知恵を出し合うことがまさに『Win-Win』の関係をつくることにつながる」と指摘しました。
最後に、東アジア経済の持続的な発展のためには「地域経済圏の構築」が必要とした上で、「そうはいっても現状では国ごとの経済発展段階の差が大きいし、政治体制や文化なども異なるため難しい」と問題点を解説。その上で、「世界の経済大国であり、東アジアのバリュー・チェーンの要である日中両国が、協力して経済連携の議論を主導し、各国を強調の輪に加えることが求められる」と主張しました。また、「各国経済の引き上げも重要な課題であるが、新興国においては依然として社会インフラが不足している」と述べた上で、「今後、アジア開発銀行(ADB)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)が相互補完的に連携すれば、各国がより効果的にインフラ整備を進めることができる」とし、「そうした面でも日中両国が協力し合う余地は大きいし、協力していくことは両国の責務でもある」と語り、それが終局的にはアジアや世界の繁栄と安定、平和にもつながっていくと訴えました。
魏建国氏は「日本と中国の経済関係はこれからどうあるべきか」と題して基調報告を行いました。
魏氏はまず、「両国の経済関係者の中には日中経済関係について、悲観的な見方が多い」と指摘し、その背景として貿易・投資など各種の経済統計の悪化について説明。さらに、より根本的な問題として、「日中関係がどのような方向に向うのか、いまだ定まっていない」ことを挙げました。
その一方で魏氏は「私は日中経済関係の将来を楽観的に見ることができる」と語り、その根拠としては、「第11回日中共同世論調査」結果で示されている通り、多くの両国民が「日中関係は重要である」と考えていることや、両国関係が多くの企業人の努力によって「一衣帯水」の歴史をつくってきたという、その成功体験の蓄積を挙げました。
さらにもう一つ重要な理由として、「日中の経済関係には新しい成長スポットがある」ことを挙げました。魏氏は今後、中国が消費主導、サービス主導への経済の構造転換を進めていく過程で、日中が協力を進めていくことができるような大きなスポットが生じてくると予測。また、「長江経済帯」のような国内的な構想から、「一帯一路」構想やAIIBのような大きな対外戦略に至るまで、「日本も加わらない手はない」というプロジェクトが中国には多いことも指摘しました。さらに、大筋合意が決まった環太平洋経済連携協定(TPP)についても言及し、「日本はTPPよりも日中FTAを進めていくべきだ」と日本側に呼びかけました。
魏氏は最後に「今、日中経済は冬のような状況だ。しかし、冬ということは春も近いということだ」と述べ、今後に対する期待を寄せました。
山田氏はその基調報告の中でまず、「日中関係に関しては、色々な対立に目が向きがちであるが、そういった『荒波』の下には穏やかな流れが確実に広がっている」と述べ、その根拠として日中関係の多層性を指摘しました。山田氏は「日中関係は、中央の政府間関係だけではなく、『京都府と陝西省』など色々な日中関係がある。市町村レベルでは300組を超える姉妹都市がある」と語りました。
山田氏はさらに、観光にも言及。「昨年の中国人訪日客は240万人だったが、中国人で海外旅行の目的として日本を選んでいる人は現在、全体から見れば2.9%にすぎない。逆に言えば、これが10%にまで上がるだけで新しい大きな可能性が広がるということだ」と語りました。
山田氏は他にも経済、環境、さらには福祉など日中関係の多層性に基づき、協力を拡大させることができる分野は多いことを指摘し、日中関係を発展させる要素は多々あることを説明しました。
しかし、一方で山田氏は大きな懸念として「観光の中で激減している分野がある。それは修学旅行だ」と紹介。その具体的なデータとしては、「2011年には日本から中国への修学旅行数は84校9312人、中国から日本への修学旅行数は140校3439人だった。ところが、2013年には日本から中国が18校1626人、中国から日本が64校1147人と激減している」と説明しました。山田氏は、「日中関係の未来をつくっていく若い世代にこのような厳しい流れがある。これを私たちは大きな警告として捉えなければならない」と訴えました。その上で山田氏は、「京都府では毎年高校生が陝西省を訪れて植林をしているが、これからも派遣して木を植え続ける。こういう地道な取り組みこそが「日中関係を長期的、安定的かつ健全に発展させていく」ために、今後も継続していくことを宣言しました。
4名の基調報告を終えて全体会議は終了し、午後からの分科会に移りました。
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