. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 「第11回東京-北京フォーラム」経済対話 分科会

 10月24日午後に行われた分科会「経済対話」では、「中国経済の構造改革の行方と日中の経済協力-東アジアの安定成長と世界経済の将来」をテーマに議論が行われました。

 司会は日本側が、山口廣秀氏(日興リサーチセンター株式会社)、中国側が魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)が務めました。両国のパネリストは以下の通り。

 中国:易綱氏(中国人民銀行副行長)、趙燕生氏(国家発展改革委員会学術委員会秘書長)、龔暁峰氏(工業・情報化部国際経済技術協力センター主任)、呉雲氏(中国エネルギー建設グループ有限公司チーフエンジニア)、王文氏(中国人民大学重陽金融研究院執行院長)、張建平氏(国家発展・改革委員会対外研究所国際経済協力室主任)。

 日本:中曽宏氏(日本銀行副総裁)、槍田松瑩氏(三井物産株式会社顧問))、岡野進氏(株式会社大和総研専務取締役)、河合正弘氏(東京大学公共政策大学院特任教授)、車谷暢昭氏(株式会社三井住友銀行取締役兼副頭取執行役)、山崎達雄氏(前財務官)がパネリストとして参加しました。


中国経済の「新常態」と、預金金利の上限撤廃の目的とは

 分科会は、中国経済の「新常態」(中低速で安定的な経済成長)をテーマに、易氏の基調報告から始まりました。

no image 易氏は、「新常態」について、3つの特徴を指摘しました。一つ目が、投資主導の経済から消費主導の経済への転換、「今年の第3四半期のデータをみると、成長の60%前後は消費によってる牽引されている」と述べました。二つ目が製造業主体からサービス業主体への産業構造の転換、3つ目が環境保護と省エネの重視。加えて年金等の社会保障の充実など、「新常態」では社会のセーフティネット構築を進めると指摘しました。易氏はこうした構造転換によって、中国が今後6~7%の経済成長を継続していく見込みと主張しました。

 また、23日に中国人民銀行が発表した「双降」(預金準備率と政策金利の引き下げ)と預金金利の上限撤廃の目的について、実体経済をサポートするとともに、金利の決定メカニズムをより市場に沿った合理的なものにするとの考えを示しました。


中国経済には当面、大幅な下方リスクはないとの見解を示す

no image 日本側の基調報告者である中曽氏からは、第1に日本においても、構造改革が重要なテーマであること、第2に中国経済に対する見方、第3に今年の夏の国際金融市場の動揺について報告が行われました。

 まず、日本経済については、潜在成長率を高めるためには、労働力の増加、資本蓄積の増加、生産性の向上を同時に行うことが必要で、そのために、アベノミクスで構造改革を行い、企業に投資を促し、女性・高齢者・外国人の労働参加の積極化が必要であると指摘しましました。中国経済に関しては、製造業の生産能力過剰という問題はあるものの、個人消費が底堅く、当面は大幅な下方リスクはないとの見解を示しました。

 また、2015年夏の国際金融市場の動揺については、中国の人民元レートの算出方法の変更の趣旨が世界にうまく伝わらず、上海市場の株価暴落が世界の金融市場に広く波及した。こうした経験を踏まえ、中国当局は市場データを整備・公表することをを通じて透明性を確保し、グローバルな市場参加者の予見可能性を高めると共に、コミュニケーションを綿密に行っていく必要があることを強調しました。



中国の投資から消費への移行が重要だが、製造業の不振が今後の懸念

no image 基調報告を受け、日中双方から2~3名ずつコメントが出されました。まず、龔氏からは、中国経済について、「現在はモデルチェンジの時期であり、経済成長率の低下は心配するほどではない」との指摘がありました。加えて、中国の各産業に関しては、日本の過去の経験が良いモデルになっていることを主張しました。


no image 他方で、河合氏は、リーマンショック以降中国経済の脆弱性が高まったと厳しい見解を示しました。その具体例として、中国政府が実施した4兆元の景気刺激策によって、投資のGDPに対するウエイトが高まるとともに、景気刺激策のファイナンスが地方政府、銀行貸し出し、さらにはシャドウバンキングによって行われたため、地方政府や企業の債務の増大し過剰設備が発生、これが中国経済の重しになっていると分析。脆弱性を解決するためには、投資から消費への移行が重要ではあるものの、過剰債務、過剰設備を解消するには、ある程度の成長率が必要で、投資から消費への移行による製造業の不振が、日本側から見た懸念材料であると指摘がしました。

no image 続いて、呉氏からは、中国エネルギー建設グループのプラント設計等に関する技術力が世界的に見ても高く、三峡ダムの発電システムの建設などに携わったことについて紹介がありました。技術力の高さの背景には、東京電力等の日本企業の支援があったことにも言及し、「今後も日中の協力関係を深めていく必要がある」ことを強調しました。


株価の暴落への対処だけでなく、CSRCの権限拡大やモニタリングの強化が必要

no image 岡野氏は、本年の上海市場の株価高騰と暴落に関して、そもそも株価の高騰が異常であり、その背景には当局の規制・監督外の場外配資(証券会社以外の融資会社が行う融資)を利用した個人投資家の信用取引の増加があったことを指摘しました。株価の暴落への対処だけでなく、CSRC(China Securities Regulatory Commission)の権限拡大やモニタリングの強化を通じた、株価の高騰への対応が必要との認識を示しました。


no image 槍田氏からは、本年に入り、上海株価の暴落や人民元の切り下げといった中国経済に関する漠然とした不安があるものの、一部のメディアが報道しているような高度成長のひずみを深刻に考えすぎる必要はないとの見解が示されました。具体的には、鉄鋼やセメントといった重工業は経営が厳しいものの、三井物産が出資しているテレビショッピングや電子取引、観光業は好調であると述べました。

 その後、議論はフリーディスカッションに移り、人民元レートの水準や、AIIB(アジアインフラ投資銀行)に日本が未加盟である理由等について、パネリスト間で活発な議論がなされました。また、会場とパネリストとの間では、国有企業改革の展望や日中協力における日本の役割、TPP(環太平洋経済連携協定)について質疑応答がなされました。


日本と中国に共通する経済の課題は構造改革

no image 経済対話の前半部分の総括として、山口氏から、「日中はともに構造改革が必要となっているが、日本は潜在成長率の引き上げ、中国側は経済成長モデルを量から質へと変換することといった、それぞれの問題を抱えている」との見解が示されました。また、中国経済に関して不信感は高まっているものの、株価暴落に対する対応や金利の自由化など中国当局も十分に対処しており、過度の懸念はするべきではないとの指摘がなされ、前半の経済対話は終了しました。


中国の経済成長を支えるための、様々なエンジン

no image 経済対話の後半部分は、趙氏の基調報告から始まり、中国の経済成長を6.5%~7.0%で維持するためのエンジンとして、量から質へと転換するイノベーションドライブ、一帯一路(海と陸のシルクロード構想)といった国際化ドライブ、法整備やルールの順守といった改革ドライブ、環境保護といった生態ドライブ、社会保障等の公平な分配を確立する民生ドライブがあげられました。また、中国と対外経済との関わりとして、輸出が減少しているのは世界的な傾向であり、経済の成熟化に伴い貿易ドライブは徐々に減少していくことや、直接投資の対象が製造業からサービス業へと転換していること、といった特徴があるとの指摘がありました。


日中双方の経済の持続可能性を高めるための日中協力の必要性

 次に日本側の基調報告者である槍田氏は、日中双方の経済の持続可能性を高めるために、日中協力の必要性を強調し、具体的には、環境や新エネルギー、病院・介護施設等の社会福祉サービスといった新しいセクターでの協力の必要性を提起しました。また、同氏からは、この10月にTPPが概ね合意に至った一方で、日中韓FTAやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に関しては進展があまり見られない中、TPPへの中国の参加の可能性について質問が出されました。

 基調報告をもとに、中国側より生態ドライブに関して、環境保護投資の重要性について指摘がありました。特に、生態ドライブの効果を発揮するために資金的なサポートが必要との前提のもと、自社の環境産業ファンドの立ち上げについて触れるとともに、政府に対し、環境保護関連企業の信用評価制度や融資制度の整備を推進してほしいとの要望があげられました。

no image 次に、日本側からは、車谷氏より介護といった社会保障サービスの提供が成長のテーマとして注目されており、日本の銀行も融資等を通じてサポートすることが可能との指摘がありました。また、両国経済のWin-Win関係を構築するために、今後自動車産業を上回る規模になると予想されているロボット産業について、協力する余地があるのではないかと提言がありました。


日中両国は、RCEP合意前にFTAを結ぶ必要性がある

 趙氏より、日本経済に関して、アベノミクスはデフレから脱却しているものの、成長の牽引役を見いだせていない中で、国内市場のみに注目するのではなく、アジア地域の市場の一体化に日本がさらに積極的になるべき、との意見が出されました。特に、日本の中国向けの輸出額が韓国の中国向けの輸出額よりも少ない状況の中で、中韓FTA合意が日中FTA合意へのよきプレッシャーになることを期待しており、アジアの二大大国である日中がRCEPよりも前にFTAを結ぶ必要性があると強調しました。

 これに対し、中曽氏より日本から中国への輸出が減少している背景として、中国経済のサービス産業化が進展している中で、日本の貿易構造がサービス業向けではなく、資本財の輸出に比較優位を有していることも影響しているとの見解が示されました。


日本は自国の財政政策、人民元のSDR構成入りをどう考えているか

no image 王氏からは、日本の公的債務残高が対GDP比で240%程度あると聞いているがどのように考えているか、日本は中国人民元のSDR(IMFの特別引出権)構成通貨入りに賛成するか、という諸点について日本側の意見を聞きたいとの話がありました。

 王氏の質問に対して、山崎氏はSDRに関しては順番やスピードは十分に考慮する必要はあるものの、中国当局の資本規制の自由化の推進のプロセスを見ていきたいとの回答がありました。合わせて、人民元の利便性を高める必要性に関しても提起し、人民元クリアリングバンクやRQFII(中国域外で保有されている人民元を中国の金融・証券市場に投資する域外の機関投資家)等に関して政府関係者内で議論が行われていることも付け加えました。公的債務に関してはアベノミクスの第二の矢として短期的には財政政策を活用するものの、中長期的には財政健全化計画に基づいて、2020年のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化に向けて努力することを強調しました。

 このほかにも、日本側からの中国のTPPへの参加可能性に関する質問がなされ、中国側からはTPPの関税率の低さや知的財産権の保護規定は、新興国にとってハードルが高いことから、加入後の影響等も鑑み慎重に検討していくとの回答がありました。また、フロアとパネリストとの質疑応答では、中国の一人っ子政策の変更可能性や地方経済の発展段階の違いに関しても議論がなされました。


日中両国の経済協力の方向感が示されたが、

この方向感をより具体的にどのように実施していくかが今後の課題

no image 後半部分の総括として、魏氏より日中経済の問題の所在が明確に示されたことや率直な意見交換がなされたことに満足するとともに、今後は、①両国政府に対する提案を出すようにすること、②日中間で国民や企業の持つ疑問点わだかまりを解くこと、③企業のために、どこにビジネスの連携や協力の可能性があるのかを示すことが課題であることが示されました。

 続いて、山口氏より後半部分はミクロ経済に着目し、ビジネスに結実するように議論を取りまとめたいと考えていた中で、環境や医療介護、ロボットなどの日中両国の経済協力の方向感が示されたことを評価したいとの見解が示されました。一方で、昨年も同様の議論はあったことから、今後はより具体的にどのように実施していくかについて、フォーラムに参加している日中の企業関係者が考えるとともに、政府のサポートが必要であるとの認識を示し、経済分科会の討論を締めくくりました。

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